表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/56

第40話 玄の間

(これって、不法侵入にならないのかなぁ?)

 流されるまま同行してきたが、この場所はどことなく不穏な感じがする。

 もうすぐ八月になろうというのに、ひどく冷え込んでいるし。


 僕、風見宙飛はそのような感覚と共に、階段を降りていた。


(こんなことをしているより、もっと訓練をするべきじゃないのか?)

 いや、焦りすぎるなと楓にはいつも言われているし、気分転換だと思おう。

 決して急がず、されど弛まず……だ。


 そんなことを考えている僕をよそに、鹿深と由密は地図を辿る。

 やがて到着したのは、書庫と思しき部屋だった。

 冊子や巻物が所狭しと並んでいる。


「わ〜、古そうな本がいっぱいだ〜」

 他の二人は思い思いに蔵書を手に取っている。

 僕も本の背表紙などを流し見る。


 玄冬、玄武、戸隠。そういった文字が多く目につく。

 そんな中、僕の視線は一冊の古書に釘付けになった。


 玄冬家に関する古書の隣に、なぜか一冊だけ、別の家名が混じっていた。

 掠れて読みづらいが、そこには『勿朽家』と書かれているように見える。


 僕はその本を手に取り、恐る恐る中を確認する。

 傷めないように、慎重に頁をめくっていく。

 そして、そこに記されていた一節に息が止まった。


 黄昏より齎されたる玄武、亀蛇神二対一体の霊獣なりて玄冬のみで御す事叶わず。西の地に大蛇を封じる巫女有。玄冬、その末を娶り勿朽とす。以来勿朽の血流る娘を贄として蛇神を抑える事を成す。


 勿朽が、贄? 指先が冷えた。

 さっきまで地下の寒さだと思っていたものが、背骨の内側から這い上がってくる。


(落ち着け。勿朽と玄冬の会話を思い出せ)

 彼女は、卒業するまでと言った。つまり、それまでは大丈夫なはずだ。


「こんなところで屯しているのは、一体誰かな?」

 そこで、部屋の入り口から一つの影が入ってきた。

 それは楓と同じくらいの身長。つまり、非常に小柄な、黒髪黒眼の少女だった。


 咄嗟に、僕は読んでいた書物を元の位置に戻す。


「手前らは一年玄武組の生徒です。あなたは?」

 鹿深が前に出て答える。


「この私は玄冬氷冥(げんとうひょうめい)。三年玄武組の担任さね」

 教師……⁉ 中学生くらいにしか見えないが。


(それよりも、その名前と雰囲気は……)


「で? 君たちはどうしてここに?」


「えっと〜、この地図が何を示しているのか知りたくて〜」

 玄冬先生の問いに、由密が地図を広げて答える。


「この字は……嬢ちゃん、君の名前は?」


「うちは由密ざくろだよ〜」


「やはり、君の母親と……この私は学生時代の友人でね。よくこの部屋に入り浸っていたんだ」


「へぇ〜、お母さんと〜?」


「この地図は、その頃に書いたものだろう。まだ残っていたとはね……」

 そこで玄冬先生は、その小柄な体躯には不釣り合いな圧力が籠った視線を、僕たちに向ける。


「しかし、今回は見逃す。けれど、此処は本来立ち入り禁止だよ。出ていくんだね」


「それはごめんなさい〜」

 由密の謝罪に、玄冬先生は眼差しを緩めた。


「そうだ、ざくろちゃん。この私の部屋に来るかい? 昔の母親の写真でも見るといい」


「わ〜、行きます〜。珪くんたちはどうする〜?」


「遠慮しておくよ。手前らは寮に戻る」

 その後、玄の間から地上へ出て、由密と玄冬先生と別れた僕と鹿深は、玄武寮虚宿室へと向かう。


「拍子抜けだね。まあ、暇は潰せたから良いか。ん? どうした風見くん、顔が怖いよ」

 歩きながら呟く鹿深の言葉に対応する余裕は、僕にはなかった。


(勿朽のために、僕は何か出来るのだろうか?)

 その答えは、容易に出そうもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ