第38話 由密ざくろ
7月23日、土曜日。夏休み初日の朝。
手前、鹿深珪晶は、ざくろの実家である薬屋『薬師無患堂』に来ていた。
「あっ、珪くん、おはよう〜」
手前を由密ざくろが出迎える。
掃除をしていたのか、その手には箒が握られていた。
「おはよう、ざくろ。手前は何をすればいい?」
「えっと〜、まだお客さんも来なさそうだし、在庫の整理を手伝ってくれる〜?」
「了解したよ」
「為蛇か。授業で使ったことがあるね」
手前は黒色の粉末を眺めて呟く。
「うちの店、戸隠学園にも卸しているから〜。あ、もうなくなりそうだね。補充しないと〜。あっ⁉」
そこで、ざくろが手を滑らせて薬瓶を落としてしまった。
「怪我はない?」
「うん、うちは大丈夫。でも、あ〜割れちゃった。また怒られちゃうよ」
「心配ない。これくらいなら手前が」
そう言って、手前は瓶の欠片に手を伸ばし、指先に験力を集中させる。
欠片さえ揃っていれば、硝子を戻すのは難しくない。
みるみるうちに硝子片が集まり、形状を変えていく。
「こんな形だったかな?」
手前の掌には、壊れた瓶が元通りの姿となって鎮座していた。
「お〜凄い。かなり速く正確に操れるようになったね〜」
「毎日、何かしら作っているからね」
「瓶は戻ったけど、中身はだめそうだね〜。仕方ない、作り直すか。河原蓬を採ってこなきゃ〜」
「床は手前が掃除しておくよ」
建物の裏手にある庭へと向かうざくろに、手前はそう告げた。
「なんだ、これ」
こぼれた薬粉を掃除していると、棚の裏に紙屑が落ちているのを見つけた。
手前はそれを拾い、広げる。描かれていたのは、古い校舎の見取り図だった。
古ぼけた紙に記されたその内容に既視感を覚え、手前は目を細める。
「採ってきたよ〜。うん? 珪くん、その紙どうしたの〜?」
「そこの後ろにあったね」
「あ、これ戸隠学園の校舎だね〜」
そうか。見覚えがあったのは、通っている学校だからか。
だが、答えは次の疑問を連れてくる。
「なんでここにこんなのがあるんだろうね〜? あっ、地図のこの場所、印が付けられているよ〜」
印が付けられていたのは、手前ら玄武組の教室がある校舎。
その地下にある部屋を指していた。そこには、玄の間と書かれている。
正規の校舎図に載っている場所ではない。
だからこそ、手前は少しだけ興味を引かれた。
「何があるか確かめてみる? ちょうど、明日は店も休みだろう?」
「面白そう。乗ったんだよ〜」




