第37話 鹿深珪晶
手前、鹿深珪晶は退屈していた。
一学期も終わりに差し掛かろうとする時期である。
勉強も忍術もそこそこできる手前にとって、戸隠学園はぬるま湯だった。
中間も期末も一桁順位。実技も減点はほとんどない。
最初こそ、普通の学校とは異なる授業に多少戸惑った。
けれど、四ヶ月も経った今となっては、刺激に欠けている。
「ふわぁ」
「眠そうだね〜。もう少しで夏休みなんだから、しっかりしなよ〜」
7月22日、金曜日。戸隠学園一学期の終業式。
先生の挨拶にあくびを噛み殺した手前に、由密ざくろが言う。
紅玉のような目。その左側を常磐色の髪で隠したその少女は、手前の幼馴染で、何の因果か戸隠学園でも同じ玄武組になった相手である。
「もう夏休みか。憂鬱だね」
「普通〜、学生にとって夏休みは楽しみなんじゃないの? 相変わらず珪くんは変わっているね〜」
「することがない」
「ふ〜ん、うちはいろいろあるけどな〜。部活動の合宿に、店の手伝い。それに同人誌即売会に行ったり、何といっても夏は花火大会だね〜」
「楽しそうで何よりだよ」
ざくろは昔から多趣味だった。成果はそれほど伴っていないことも多いが、本人はいつも楽しそうに邁進している。
固有忍術に関わる、趣味だか修行だか分からない日課ぐらいしか、することのない手前とは正反対だ。
「珪くんも暇なら、一緒に同人誌即売会行かない?」
「人が多いところはちょっとね」
「じゃ〜、店を手伝ってよ〜」
「店って、薬師無患堂のこと? それなら、まあ別にいいけど」
退屈しのぎにはなる。
それに、ざくろの実家の薬棚は、見ていて飽きない。
「よ〜し、労働力確保〜♪」
こうして手前は、ざくろの店を手伝うことになった。




