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第35話 穂月錬次

 俺、穂月錬次(ほづきれんじ)は焦っていた。

 5月下旬に公表された、中間学力試験の結果を受けてである。


 俺は昔から勉強が得意だ。

 生徒会長になるという目標のために、入学してからも努力してきた。


 しかし、結果は総合3位。上に二人もいる。

 首席は槌屋(つちや)という男子生徒。

 次席は御影(みかげ)という女子生徒だった。



「3位でも十分すごいと思うけど。錬次は昔から完璧主義の気があるよね」

 ペンを弄びながら、風見宙飛が言う。


 7月2日、土曜日。図書室の一角で、俺と宙飛は期末試験の対策をしていた。


「でも、中学まではずっと一位だったから、落ち着かないんだ」


「贅沢な悩みだね」


「お前は何位だったんだ?」

 中間試験の上位10名は結果が掲示されていたが、こいつの名前はなかった。


「11位だよ」


「宙飛らしいな」

 彼は文系科目があまり得意ではないので、そんなものか。


「どういう意味だよ。別に、僕はそこまで良い点を取る必要はないし」


「玄冬先輩は、勉強も首位らしいぞ」


「ほ〜う?」

 俺の言葉に、宙飛は笑む。その目に、火が灯った気がした。


「それはそうと、涼はどうしたんだ?」

 俺は宙飛に聞く。

 いつもは三人で集まって勉強していたのだが、今日は折霜涼(おりしもりょう)がいない。


「あいつは話題の御影さんと、そこで乳繰り合っているよ」

 宙飛がペンで指し示した方向を見ると、涼と黒髪の女生徒が仲良く勉強をしていた。


「へぇ。あの人が、涼と付き合ったという御影紫苑(しおん)か。だとしたら、涼の成績も上がりそうだな」


「僕は浮かれて成績が落ちるに、千峩の魂を賭ける」

 俺の言葉に、宙飛がそんな風に返す。


「かざみん、勝手に俺っちの魂を賭けないでよ」

 そこで、まだら髪の少年が後ろから宙飛にしなだれ掛かった。


「千峩くん、何の用?」

 彼の接近に気づいていたらしい宙飛が、その小柄な少年を払い除けながら言う。


「かざみんに勉強を教えてもらおうと思ってね」


「あそこのバカップルに教えを乞えよ。同じ班でしょ?」

 宙飛は涼と御影を指し示す。


「あの二人の邪魔をするなんて、そんなことしたら殺されちゃうよ」


「宙飛、そいつは誰?」

 戯れる二人に、俺は割り込む。


「こいつは千峩白牙(ちがびゃくが)。涼の友人だよ」


「かざみん、自分は友人じゃないみたいな言い方は傷つくよ」


「はは、千峩くんね。初めまして。俺は穂月錬次。宙飛と涼とは昔からの付き合いだ」


「そうなんだ。よろしくね、づっきー」

 千峩が、謎の愛称で呼んでくる。


「それはそうと、勉強教えてよ、かざみん。中間は82位だったし、本当にやばいんだよ」

 ちなみに、一年生は全83人である。


「じゃあ、づっきーに頼みなよ。こいつの方が優秀だから」


「へぇ、そうなんだ」


「宙飛まで、その呼称で呼ぶな。それに、なんで俺が……」


「『六歳の子供に説明できなければ、理解したとは言えない』って誰かも言っていたよ。人に教えることで見えてくるものがあるんじゃないか?」


「かざみん、六歳児に例えられるのはさすがにへこむぞ?」

 宙飛の提言に、千峩が突っ込む。

 正直、自分の勉強だけで手一杯だった。

 だが、宙飛の言葉には少し引っかかるものがある。


「……それもそうだな。いいよ、教えてやる」

 俺は頭痛を堪えて、二人に告げる。


「でも、理数系は宙飛の方が得意だろ? そっちは頼むよ」

 そして嘆息して、そう続けた。

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