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第33話 濃霧のち

「……ということがあったの」

 6月25日、土曜日の午前中。

 あたし、羽妙之楓は保健室の片隅で、風見宙飛に愚痴っていた。


 生徒会室での直談判の後、あたしは自分にできることを探した。

 他の保健委員たちにも協力を仰いだが、心配しすぎだと言われ、むしろ露骨に鬱陶しそうだった。


「ごめん、こんな話を聞かせて……」


「別に構わないよ、これくらい。楓にはいつも助けられているからね」

 宙飛はそう言いながら、首を回す。


 彼には、定期的に保健室へ顔を出すよう言ってある。

 最近は気を失って運ばれることこそなくなったけれど、目を離せばすぐに無茶をしそうな危うさが、あたしの従兄にはあった。


「……だけどさ。話を聞く限り、風切先輩は絶対に予算を増やさないとは言ってないんじゃない?」


「でも、根拠がないからだめだって……」


「うん。だから根拠、つまり何らかの数字を出せばいいんだろう?」


「数字……?」


「備品がどれくらい減っているか、記録は残ってないの?」


「……ある。完全じゃないけど、在庫表と補充記録なら」

 そんな単純なことに、どうして気づけなかったんだろう。

 あたしは思わず、宙飛の顔を見返した。


「一人で抱えていると、単純なことほど見えなくなるよね」

 宙飛はそう言って立ち上がる。


「じゃあ、根拠を集めに行こう。僕も手伝うから」




「確かに資料はあったけど、これじゃよく分からないよね」

 保健室の備品置き場に積まれた記録用紙を見て、あたしはそう呟いた。


「そうだね。記録が紙の束のままじゃ、どうにもならないかな。視聴覚室に行って、表計算に使えるパソコンを借りてこよう」

 宙飛は記録用紙の山を見て、軽くため息をつく。


「しかし、これをすべて打ち込むのか……」

 そして宙飛はもう一度、今度は深いため息をついた。




 その日は、記録用紙に記入された数値をパソコンに入力するだけで終わってしまった。


「最初から電子で管理していれば、こんなことしなくても済んだのに……」

 なんて、宙飛は愚痴っていたが、あたしは前に進めているような気がしていた。


 それが真実か錯覚かはまだ分からない。

 けれど、目の前を覆っていた霧が、ほんの少しだけ薄くなった気がした。

 少なくとも、悪い気持ちではなかった。

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