第31話 小さな掌
6月になり、各委員会の三年生は引退していった。
あたし、羽妙之楓が所属する保健委員も例外ではなく、委員会の業務は二年生と一年生に引き継がれていった。
……のだが。
「この薬も足りない。包帯も、残りあと僅かだよ」
6月22日、水曜日の放課後。
保健委員の在庫を整理していたあたしは、思わずそう呟いた。
「そう? まだ、いくつか残っているじゃん」
同じく在庫を確認していた小柄な少年、千峩白牙が呑気な声で返す。
「この減り方だと、すぐになくなっちゃうよ」
「へぇ、じゃあ補充しないとだね」
「まあ、明日にも予算申請の会議があるから、買い足してくれるとは思うけど」
しかし、そんなあたしの期待は裏切られることになる。
「何、これ……少なすぎる」
6月23日、木曜日の放課後。
保健委員会の会議で渡された資料を見て、あたしは愕然とした。
そこに書かれていたのは、今期に購入する備品の数と、それに係る予算だった。
だが、書かれている数量では明らかに足りない。
このままでは、すぐに在庫が尽きてしまう。
あたしには、そう感じられた。
しかし、他の保健委員たちは何の疑問も抱いていないようで、会議はそのまま進んでいく。
「あの、少しいいですか?」
あたしはそれに耐えきれず、手を挙げた。
室内の視線が集まり、居心地が悪い。
「何でしょうか?」
保健委員長にそう尋ねられ、あたしは備品の数が明らかに足りないことを指摘する。
話を聞いていた委員たちのうち、二年生は怪訝な顔をしていた。
一年生は戸惑っている様子だ。
「そんなに足りないとは思わないけど。去年もこれくらいの数だったはずだよ」
二年生の一人がそんな風に言う。
その声には、少し棘があるように思えた。
生意気な一年だとでも思っているのかもしれない。
(本当に去年はこんな数で回っていたの?)
あたしの両親は医者と看護師で、小さな診療所を経営している。
包帯や消毒薬が減る速さは、見慣れているつもりだった。
幼い頃から、実家で在庫の棚を何度も見てきたからだ。
その経験と、ここ数ヶ月の保健委員としての活動を考えると、去年もこれで足りていたという言葉は、到底信じられなかった。
「言いたいことは分かりました。ただ、現時点でこれ以上数量を増やすのは難しい。今回は暫定的に、この案で進めます」
委員長はそう言って、会議をまとめる。
「それと羽妙之さん。会議が終わった後、少し残っていただけますか?」
そうして、会議は別の議題へと移った。
怒られるのだろうか。
それとも、何か別の話があるのだろうか。
あたしは資料を握ったまま、会議の残りを上の空で聞いていた。




