第30話 七大属性
6月21日、火曜日の放課後。
僕、風見宙飛は自室である玄武寮虚宿室の寝台に横たわり、本を読んでいた。
「まさか涼に彼女ができるとはね」
(羨ましいなぁ。……いや、まあ経緯はだいぶアレだけど)
いつか僕も勿朽と。うん、そのためにも頑張ろう。
読んでいるのは、図書室から借りた『忍術の仕組みと属性』。
千峩と御影。ここのところ特殊な忍術を使う忍びと関わる機会があったので、復習をしようと思ったのだ。
忍びが生来宿す忍術、いわゆる固有属性忍術は、大きく七つの属性に分けられる。
五大元素である風・水・土・火・雷。
そして、それに獣と影を加えた七つだ。
五大元素の固有忍術を持つ者が大半であり、獣・影の固有忍術を扱える忍びは希少である。
五大元素は、その名の示す通りの忍術だ。
ただし、それぞれに派生属性を持つ。
例えば、涼の使う氷は水属性の派生である。
獣は、生物の身体を変化させたり、操作したりする能力を指す。
千峩の『獣化の術』もこれだろう。
影は、前述のどれにも当てはまらない能力。
……と、本には書かれている。
傷代の『影踏みの術』や御影の『吸魂の術』。
たしかに、どちらも風や水のように分かりやすい現象ではない。
「しかし、影の忍術って漠然としているよね。この本にもほとんど書かれていない。なんでかな?」
「戸隠学園は、影の忍術を忌避しているんだろう」
僕の問いに、部屋の片隅で詰碁と向き合っていた黒髪の少年、傷代苅砥が答える。
「どういうこと?」
「影の忍術は、古の呪術に由来する。この学園の成り立ちを考えれば、そんなものを公にしたくないのも頷ける」
「……傷代くん、思わせぶりが過ぎない? 『影踏み』の詳細だって、はぐらかして未だに教えてくれないし」
「誰にだって、言いたくないことはあるだろ」
傷代はそう言って、碁石を一つ摘まむ。
「それより、一局どうだ? 俺に勝てば教えてやるぞ?」
そう言って、傷代は碁笥を鳴らす。
「……今日はいいや」
僕は少し考えて答える。
「風見。お前もある程度の棋力を持っているのに、あんまり打ちたがらないよな。どうしてだ?」
「誰にだって、言いたくないことはあるだろう?」
傷代の嘆息を聞きながら、僕は意識を本に戻した。
部屋の外では、しとしとと雨が降り出していた。




