第29話 破れ鍋に綴じ蓋
僕、風見宙飛と千峩が辿り着いたのは、ひと気のない場所に佇む古びた小屋だった。
「間違いない。ここだね」
千峩が扉を開ける。
「りょーちん! 大丈夫⁉」
僕も彼に続いて小屋に入る。
埃っぽい部屋の中には、寝台に横たわる涼がいた。
「千峩と宙飛。どうしてここが!?」
手錠で両手を拘束されている涼は、僕らを見て驚愕する。
「俺っちの鼻は一級品だからね。どしたのその手錠? お楽しみ中?」
「違うわ! これは御影さんに……」
涼がそこまで言った時、背後から冷たい気配が刺さった。
「千峩くんと風見くん。なんで?」
振り返ると、そこには御影が立っていた。
「それはこっちの台詞だよ」
僕は彼女の剣呑な雰囲気に呑まれないように返答する。
「そうか、そうだね。私から涼くんを奪うなら、たとえ彼の友人でも、容赦はしない」
御影は懐からドスを取り出す。引き抜かれた刀身は、黒い光沢を湛えていた。
「落ち着いてよ、御影さん。こんなことをしても――うわっ!」
僕の言葉を遮り、御影が斬りかかってくるが、それをなんとか躱す。
「はぁ、しょうがないなぁ……」
返す刀で斬り込む御影に、僕も忍者刀を抜いて応戦する。
鋭い斬撃の応酬を刀でいなす。
彼女の攻撃は速く、そして重い。
だが、頭に血が上っているのか、軌道が単純だった。
(しかし変だな。これくらいで疲れるはずは……)
危なげなくドスを捌いていると、身体に違和感を覚える。
「気をつけろ宙飛! 彼女の術は力を吸い取るぞ!」
涼の言葉に、僕は苦笑する。
「言うのが遅いよ……」
そこで、御影の袈裟懸けの一撃を受け切れず、僕の身体がふらついた。
その隙を、彼女が見過ごすはずもない。
「貰ったよ」
しかし、勝利を確信した御影の斬撃は空を切った。
「『風見屍這』。とどめを刺す瞬間が一番無防備だよね」
僕は御影の背後に回り、彼女の首筋に忍者刀の刃を添える。
(この技にあまり体力は必要ない。むしろ相手が油断している分、決まりやすかったな)
できるだけ冷たい声を作って言う。
「手錠の鍵はどこ?」
「……鞄の中」
御影が渋々答える。
「千峩くん、探して」
呆然としていた千峩に声を掛けると、彼はハッとして御影の鞄を漁る。
「おっ、あったぞ」
千峩が鍵を取り出して、涼へと駆け寄る。
僕はそれを見て、御影の首から刀を外した。
「うっ、ひっぐ、ぐすっ」
すると御影は、へたり込んでしまい、途端に泣き出した。
「嫌だよ、涼くん。居なくならないで、私を独りにしないでよぉ」
「……」
僕が途方に暮れていると、手錠から解放された涼が歩み寄ってきた。
「涼くん?」
涼は、泣きじゃくる御影をそっと抱きしめる。
「怖かったよ。正直、かなり」
御影の肩が小さく震えた。
「でも、それでも紫苑さんが泣いてるのを放っておけない」
「……涼くん」
「大丈夫。居なくなったりはしないよ。おれは紫苑さんを独りになんてさせない」
涼は、御影の頭を優しく撫で続けた。
「でも、閉じ込められるのは嫌だ。もうしないって、約束してくれ」
「……うん。約束、する」
御影は小さく頷いた。
御影が落ち着いた頃、四人で学園へと帰った。
僕と千峩は、涼からこの一件を口外しないように頼まれたので、了承する。
「世話をかけたな」
涼が殊勝な態度で言う。
「それは構わないけど、いいのか?」
「怖くなかったと言えば嘘になるけどな。まあ、重い愛情ごと受け止めるのが、漢の甲斐性ってものだぜ」
「そう。なら好きにすればいいけど、また監禁とかされるなよ。次は助けないからな」
「それは約束したから大丈夫……だと思うよ?」
こうして涼と御影は、付き合うこととなった。




