第27話 吸魂の術
おれ、折霜涼は気がつくと、薄暗い部屋にいた。
カビ臭い匂いが鼻につく。
「起きた?」
御影がおれの顔を覗き込む。
彼女の顔があまりに近く、咄嗟に目を逸らすと、ガシャリと金属音がした。
見ると、粗末な寝台の上に寝かされたおれの両手首には、手錠が掛けられていた。
「えっ? この手錠は何?」
手首だけじゃない。両足首にも、同じような拘束具が嵌められている。
多少身体を動かせる遊びはあるが、逃げ出すことはできそうにない。
「涼くんが逃げないように、私が付けたんだよ」
御影はおれの頬に手を添え、微笑む。
「御影さんが?」
「紫苑って呼んで。これでずっと一緒だね」
どうしてこうなった?
おれは記憶を探る。
御影と出かけて、抱きつかれて、口づけされた。
そこから先は憶えていない。
「あの時に、薬でも盛ったのか?」
「違うよ。あれは私の忍術の効果」
御影は自分の唇に触れ、どこか夢見るように微笑んだ。
「普段は武器や手を介して発動するんだけど、直接触れた方が効果は強いみたい。あっ、もちろん、試すのは君が初めてだよ」
『吸魂の術』。
確か、そんな名前だったはずだ。
気力を奪うというその術を、何度か見せてもらったことはある。
だが、ここまで強力な術だったとは。
いや、それよりも。
「なんで、こんなことを?」
おれの問いに、御影が目を伏せて答える。
「お父さんのこと、少し話したよね。優しくて、大好きだった。でも、ある日突然いなくなったの」
御影はそこで、おれの目を見る。
「涼くんも私に優しくしてくれる。でも、またいなくなるんじゃないかって、不安になるの」
その声は静かだった。静かすぎて、余計に怖かった。
「だから、閉じ込めるの。絶対にいなくならないように。大丈夫、すべて私がお世話してあげるから」
その紫の瞳は、底だけが黒く沈んでいるように見えた。
その後、おれは何度も彼女に説得を試みたが、ことごとく失敗に終わった。
御影は宣言通り、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
食事の世話までは、まだ耐えられた。
だが、それ以外のことまで手を出されるのは、屈辱以外の何物でもなかった。おれにそんな趣味は無い。
彼女は今、おれの隣で寝息を立てている。
可愛らしいその寝顔を見ていると、すべて夢なんじゃないかと思えてくる。
けれど、手首に食い込む無骨な感触が、それを否定していた。
(さて、どうすっかな?)




