第26話 三日月氷菓
6月19日、日曜日。
おれ、折霜涼と御影は学園を出て、最寄りの町に来ていた。
舗道に並ぶ古い商店を横目に、二人で雑談しながら書店を目指している。
「狂言シリーズで、御影さんはどの登場人物が一番好きなの?」
「やっぱり、狂言遣いの芥郎かな」
「芥郎って姑息で嘘つきじゃん。そんな奴がいいの?」
「そうだけど、私のお父さんに似ているんだよね」
「へぇ、そうなんだ」
「少し頼りないけど、いつも私たちを笑顔にしてくれたの」
「おれは助手の藤乃が好きだな。どことなく御影さんに似ている気がして」
御影の顔が曇ったのを見て、おれは慌てて言う。
ん?
これって、ほとんど告白じゃね?
そう思い御影を見ると、彼女は小さく微笑んでいた。
「ふふ、ありがと」
「あっ、もう本屋だな」
おれは赤くなる顔を隠すように、早足で書店へ入る。
「『狂言遣いと火車の涙』。これだね」
追いついてきた御影が、おどろおどろしい猫の化け物が描かれた一冊を手に取った。
おれはその横顔を、ぼんやり眺めていた。
「折霜くん、今日は付き合ってくれてありがとう」
書店を出て、おれたちは帰路に着く。
「こちらこそ、楽しかったよ」
御影が立ち止まる。
おれも足を止めて、彼女を見た。
「私も楽しかった。もっとずっと一緒にいたいな」
そう言って、御影が抱きついてきた。
突然のその行動に、おれの頭は混乱する。
「駄目?」
上目遣いで、彼女が尋ねてくる。
「だ、駄目じゃないよ。おれも御影さんと一緒にいたい」
おれの返答に、御影は感極まったように目を瞬かせる。
そして、そっと唇を重ねた。
(えっ? は? えぇ?)
驚きと彼女の唇の柔らかさに、おれは硬直する。
混乱は増すばかりで身体に力が入らない。
(なんだ? 力が……抜ける?)
身体の感覚が、急に遠ざかっていく。
間もなく、おれの意識は途切れた。




