第25話 月下氷人
6月6日、月曜日。
「おはよう、御影さん」
「折霜くん、おはよう」
おれ、折霜涼は一年白虎組の教室に入ると、席に座って本を読んでいる御影を見つけて声を掛けた。
「薦められた『狂言遣いとむじなの子』、読んだよ。少し難しかったけど、面白かった」
これは嘘じゃない。
あの本には、普段小説なんか読まないおれでも引き込まれる、妖しい魅力があった。
怪異の描写も、まるで実際に見たかのように鮮明で、御影や宙飛が好きなのも頷ける。
「それは良かった」
「でも、最後のむじなの行動がよく分からなかったな」
「それは芥郎への照れ隠しだと思うよ。捻くれ者のむじなが、感謝の意を示したの」
「ああ、そういうことだったのか。じゃあ、あの場面はどういう意味?」
そんな感じで、御影と本の話をするようになった。
最初は一言二言だった会話が、いつの間にか放課後まで続くようになる。
少しずつだけど、距離を縮められていると思う。
6月16日、木曜日。放課後の教室。
「はい。これが狂言シリーズ三作目の『狂言遣いと九尾の逐電』」
「ありがとう。読ませてもらうよ」
今日もおれは、御影と読んだ本について語り合っていた。
「そういえば折霜くん、最新刊も今日発売されたの」
「そうなんだ」
「でも、さっき購買へ行ったら、仕入れた分は売り切れたらしくて。よければ週末、一緒に町へ買いに行かない?」
「ああ、もちろんいいぜ」
「土曜日は午後から委員会の仕事があるから、日曜でどう?」
こうして、おれは御影と出かけることになった。
6月18日、土曜日。戌亥訓練場。
「それって、デートじゃん」
「やっぱり、そうかな?」
おれは宙飛と訓練を終えて、雑談をしていた。
「うん。その気がなきゃ、そんなこと言わないよ。いいなぁ」
「嬉しいけど、不安だな。何か準備しておくこととかあるかな?」
「大げさな。……ねぇ、読みかけの本があるから、僕もう帰っていい?」
「おれの相談より大事な本って何だよ?」
「狂言シリーズの最新刊だよ」
「お前が買ってたのかよ!」




