第24話 御影紫苑
おれ、折霜涼は宙飛と共に、玄楡棟の二階にある図書室へ入った。
「涼、いきなり止まってどうした?」
しかし図書室に入って、受付にいた人物を見た途端、おれの身体が硬直する。
受付に、漆黒の髪の少女が座っていた。
御影紫苑だ。
「彼女が例の……」
「ふーん、ちょうどいいじゃん」
宙飛はそう言って、おれの背中をぐいぐいと押す。
「こんにちは、折霜くん。どうしたの? 今日は当番じゃないよね」
そこで御影がおれたちの存在に気づいた。
「本を、借りに来たんだ」
「そう。何の本を借りるの?」
「えっと……」
おれが答えあぐねていると、後ろの宙飛が口を開く。
「『参考にしたいから、おすすめの本を教えてくれない?』だってさ」
「……あなたは誰ですか?」
突然そんなことを言い出した宙飛に、御影が怪訝な顔をする。
「僕は風見宙飛。涼の友人で、付き添いに来たんだ」
「そう。私は図書委員の御影紫苑です。えっと、おすすめの本でしたか?」
宙飛が背中を小突いてくるので、おれは勇気を出して答える。
「ああ、そうだ。御影さんはどんな本が好きなの?」
「ええと、綾文京介著の狂言シリーズかな? 狂言遣いの主人公が、怪異絡みの事件を口八丁で解決するの」
「そうなんだ。さっそく探してみるよ。ありがとう。行くぞ、宙飛」
そう早口で言って、おれは歩き去った。
小説の棚へと移動したおれは、宙飛を睨む。
「何だよ。せっかく、文字通り背中を押してやったってのに」
彼は澄まし顔をしているが、顔がにやけるのを隠しきれていない。
「楽しんでるだろ!」
「何のことかな。おっと、あったよ。これが狂言シリーズの一作目、『狂言遣いとむじなの子』だ」
「むじなって、穴熊のことだっけか?」
「そうだね。場合によっては狸を指すこともあるけど。化けるとされる妖だ」
「化けるなら、おれは狐の方が好きだな」
「まあ涼はそうだろうね。狐は三作目で出てくるよ」
「詳しいな」
「一応、このシリーズは最新刊まで読破しているからね。独特の台詞回しが癖になるんだ」
御影と話が合いそうな宙飛に、思わず嫉妬してしまう。
「心配ないよ。僕は勿朽さん以外には興味ないから」
すると彼は、そんなおれを見て笑った。
「……おれって、そんな分かりやすいか?」
「筒抜けだね。だからこの本の感想を彼女に話す時も、正直に言いなよ。おためごかしは見破られるからね」
それから宙飛は、いくつも小説を持ってきてくれた。
その中から、おれはあらすじを読んで興味が湧いたものを選ぶ。
「こんなものかな。じゃあ、それを借りてきなよ」
宙飛はそう言って、おれが選ばなかった本をてきぱきと戻している。
「本が元あった位置を全部覚えているのか?」
「蔵書には番号が振られているから、それを見れば場所が分かるんだ」
そういえば、委員会でそんなことを説明された気がする。
なんでこいつは、図書委員でもないのにそんなことを知っているのだろう。
「他にもたくさん借りたんだね」
受付に行くと、御影が対応してくれた。
「宙飛が選んでくれたんだ。面白かったら御影さんにも紹介するよ」
「ええ、是非」
御影が微笑む。
たぶん、おれの顔は真っ赤になっていた。




