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第18話 羽妙之楓

 5月14日、土曜日。玄冬氷筍(げんとうひょうじゅん)との決闘から、一週間ほどが経った。

 丑寅訓練場にて、僕、風見宙飛(かざみそらと)は長躯の少年、穂月錬次(ほづきれんじ)と訓練をしていた。


「そんなんじゃ、玄冬先輩には追いつかないぞ」

 錬次の日本刀から繰り出される斬撃を、僕は忍者刀でなんとか捌く。

 しかし、先ほどから防戦を強いられ続けている。


「くっ、風見屍這(かざみしばい)!」


「甘い。何回か見せてもらえば、その技は看破できる」

 虚を突いて背後を取ったはずだった僕の忍者刀は錬次の日本刀に防がれた。


「それに宙飛、とどめを刺す時に首筋を狙う癖があるよな。来る場所が分かっていれば、対処するのはそう難しいことじゃない」


(……まだ未完成とはいえ、こんな簡単に防がれるとは堪えるな)


「もう一回。次こそは」

 そう言って、僕は左手から竜巻を出そうとした。

 しかし、その瞬間、意識が遠のいた。




 目覚めると、白い天井が見えた。微かに香る消毒液の匂い。

 保健室か。ということは――


「あっ、起きた」

 声のした方向を見ると、苔色のおかっぱ頭をした少女が座っていた。

 高校生とは思えない小柄な体躯は、座敷童を連想させる。


「うん、大丈夫そうだね。やっぱり疲れが溜まっていただけみたい。ここ最近、ろくに寝てないんじゃない?」


「えっと、久しぶり、楓。何で君がここに?」

 彼女の名前は羽妙之楓(うたのかえで)。僕の母方の従妹だ。

 同じ学年にいることは知っていたが、組が違うせいで、入学してから顔を合わせる機会はなかった。


「だってあたし、保健委員だもん。びっくりしたよ。穂月くんが宙飛くんを背負って連れてきた時は」

 彼女の隣には、心配そうな錬次の顔があった。


「根を詰めすぎなんだよ。焦ってもいいことはないぜ」

 確かに僕は焦っていた。

 玄冬先輩との力量差は、あまりに大きい。


 ここ最近は忍具『残差』を着けて訓練していたとはいえ、基本的に僕は験力の操作・制御が苦手なのだ。

 知らぬ間に験力を使い果たしてしまったらしい。


「穂月くんに聞いたよ。生徒会長を倒すために頑張っているんだよね」

 楓の言葉に、僕は錬次を睨んだ。

 だが、彼はどこ吹く風だった。


(勝手に密告チクリやがって。まあでも、楓ならいいか)


「あたしも応援するよ、宙飛くん」


「……ありがとう、楓」

「でも、強くなりたいんだったら睡眠をしっかり摂ること。寝不足で訓練しても効率が悪いよ」


「それもそうか……気をつけるよ」

 そう言って、僕は立ち上がり、立て掛けてあった忍者刀を拾う。


「宙飛くん、ちょっといい?」

 楓はそう言うと、じっと僕の身体を見つめた。


「えっと、何?」


「ちょっと体幹が右に傾いているなと思って。さっき状態を確認した時も、右腕の筋肉が妙に張っていたし」

 楓は僕の手元にある忍者刀を見る。


「その刀、宙飛くんに合っていないんじゃない?」

 楓の言葉に、ドキッとする。

 僕はそんなに筋肉がある方じゃないが、忍者刀は普通の日本刀よりも軽い。


「そんなに負担には思わないけど」

 僕は忍者刀を弄びながら答える。


「たぶん、刀の重心に身体が合わせにいってるんだと思う。今は小さなズレでも、疲れてくると右側だけに負担が出るよ」


「意識できないくらいの軽い綻びでも、宙飛の戦闘様式には致命的になり得るぜ。そうだな、得物を変えるのもありかもしれない」

 楓の言葉を聞きながら、錬次は顎に手を当て、僕の刀と右腕を見比べた。


「でも、これ以外の武器ってあんまり使ったことないし」

 錬次の言葉に、僕は反論する。


「同じ忍者刀でも、より宙飛に合った奴があるかもしれない。……だが、俺も打刀しか基本的に使わないから、適切な助言は難しいな」

 錬次は少し考え込む。


「となれば、あいつの意見を聞きたいかな。宙飛、明日は暇か?」


「……予定はないけど」


「じゃあ、朝の9時に第二備品倉庫に来てくれよ。会わせたい奴がいるんだ」

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