第15話 真神雷哉
ぼく、真神雷哉は、自分を平凡な人間だと思っている。
忍者という時点で非凡だという向きもあるだろう。
けれど、ここは忍術学園だ。
在籍する生徒は、みな忍びである。
故郷から離れ、忍術という個性も埋没してしまった今、ぼくは自分が何者なのか分からなくなりかけていた。
5月8日、日曜日の午前。
丑寅訓練場で、ぼくは白髪の少年、風見宙飛と向き合っていた。
「行くよ」
そう言って、風見は距離を詰める。
ぼくは、彼の忍者刀から繰り出される連撃を双剣で弾いた。
風見の斬撃は、そこまで速くない。
けれど、防ぎにくい場所を的確に突いてくる。
受けるたびに足の置き場を奪われる。
気づけば、ぼく追い込まれていた。
「参りました」
首元に刃を当てられ、ぼくは両手を挙げて降参する。
「風見くんは凄いね……」
初めは、彼がよく分からなかった。
出力訓練ではそよ風程度しか起こせない。
そう思ったら、巌倉先生に一矢報いた。
にもかかわらず、対人戦では負け続ける。
けれど、大型連休が明けてから、彼の雰囲気はがらりと変わった。
昨日も遅くまで訓練に明け暮れていた。
「どうして、そんなに頑張れるの?」
ぼくの問いに、汗を拭っていた風見は一瞬考えるような素振りを見せた。
「何が何でも超えたい相手がいるから、かな?」
「そっか。それで強くなれるの?」
「強くならなきゃいけないんだよ」
ぼくの言葉に、彼は苦い口調で答えた。
風見と別れたぼくは、昼食を摂るため、山子亭へと来ていた。
(今日は混んでいるな。ほとんどの席が埋まっている)
ぼくは洋風煮込みの載った盆を持ち、席を探す。
(あっ、空いているがあった。……でも、なんだろう。示し合わせたように誰も座らない)
「ここ、座っていいですか?」
ぼくは、その席の向かいに座っている人物に声を掛けた。
「構わない。どうせ誰も座らないからな」
亜麻色の髪を持つ青年は、眼鏡越しにぼくを見る。
目つきが非常に悪い。勿朽以上だ。
「ありがとうございます」
「ん? 貴様、演習で取り逃した一年だな」
彼のその言葉に、ぼくも気づく。
前回会った時は面をしていたので分からなかった。
この人は、又鬼ごっこで相まみえた三年生。
名は、笹舟理界だったか。
「あ、はい。真神雷哉です」
「何か悩み事でもあるのか?」
「えっ?」
笹舟先輩のそんな指摘に、ぼくは困惑する。
「浮かない顔をしているな。私で良ければ話を聴くぞ」
予想外の展開だった。
けれど、無下にするのも悪い。
ぼくは少し迷ってから、内心を吐露した。
「……兄がいるんです。ぼくと違って、優秀な」
超えたい相手。風見の言葉に、ぼくが想起したのは兄さんの姿だった。
「兄というと、二年の真神光夜のことか?」
「知っているんですか?」
「ああ。一度戦ったこともある。確かに奴は優れた忍びだ」
笹舟先輩は嘆息して続ける。
「それで劣等感を覚えていると。ふん、陳腐な悩みだな」
そうなんだけど。
ぼくの悩みを陳腐とか言わないでほしい。
「貴様は貴様だ。他の誰と比較するものではない」
「……比べずにはいられませんよ。兄さんがあっさり習得した忍術『電光石火』だって、ぼくは未だに使えない」
あれが使えれば、風見にだって対抗できるのに。
「電光石火か。確かにあの技は難しいな。私も習得してはいるが、実戦ではほとんど使わない」
彼がぼくをじっと見る。
その鋭い視線に、ぼくは少したじろぐ。
「演習の時もそうだった。貴様は怯えた顔をしながら、それでも前に出ていた」
「え?」
「そうだな。口先だけでは何とでも言える」
笹舟先輩は、少しだけ口元を緩めた。
「私が手伝ってやろう。貴様がその術を使えるようになるのを」




