第127話 選挙活動其の壱
11月26日の土曜日。玄武寮の自習室にぼく、真神雷哉は呼び出されていた。
自習室には穂月燐峯、穂月錬次の姉弟。風見宙飛。見知らぬ女性の先輩。そしてぼくの兄、真神光夜の姿がある。
「で、姉貴。いきなり呼び出して何の用だよ」
錬次が燐峯にそう問いかける。
この疑問はもっともだ。ぼくも部屋で宿題をやっていた所を風見共々、要件も聞かされずに引っ張ってこられたのだ。
「それは此方から説明させていただきます。その前に、知らぬ人も多いでしょうから自己紹介をば。此方は二年朱雀組の北琴ありす。僭越ながら保健委員長なども務めさせていただいております」
「はぁ」
毒気を抜かれたように錬次がそう相槌を打つ。
北琴先輩の噂は耳にしたことがある。非常に優秀で優しい人だけど、匂いに非常に過敏で、彼女の隣で放屁した生徒をボコボコにしたとか。怖いなぁ……
「今回皆様を招集したのは、此度の生徒会選挙において立候補した穂月燐峯。彼女の支持者になっていただきたくお願いに参った次第です」
「「「!!!」」」
ぼく達一年の三人は北琴先輩の言葉に驚愕し、燐峯先輩を見る。
「ああ、だからお前らに生徒会選挙当日の戦いに出てもらうのと、他の一年に声を掛けて支持者集めをやってもらいたいんだよ」
「俺たちを呼んだ理由は分かったけど。姉貴、そもそも何で生徒会長に立候補しようだなんて事になったんだ? 今までそんな話してなかっただろ」
「ムカついたからだよ。あいつらの言っていることが」
「はぁ?」
燐峯先輩の回答に錬次が怪訝な顔をする。
「それについては僕から説明するよ」
そこで光夜が口を挟む。
「まず、これまでに今回の生徒会選挙に立候補したと掲示された二人。現生徒会庶務、二年朱雀組の白秋道縷。そして現風紀委員長、二年白虎組の尾形渉。この人たちの政策が問題でね」
「一体何が問題なんですか?」
錬次が疑問を呈すると光夜は肩を竦める。
「二人の政策は大きく異なるけど、一つの共通点があるんだ」
「共通点とは?」
「異端の排除、簡潔に言えばね。具体的には、優秀な者の特例での授業免除や劣等な者の退学猶予なんかを、無くそうとしているんだ」
授業の免除という光夜の言葉に、ぼくは笹舟喩能の姿を思い浮かべる。
「困ったことに多くの生徒がそれに賛同していてね。その大半は優秀でも劣等でも無い、平凡な生徒たちだ」
平凡、自分の事を言われたような気がして、ぼくの胸が軋む。
「そんな、はみ出し者を型に嵌めるようなことを、あたしは許したくない。だから、あいつらを生徒会長にしないようにあたしが立候補したんだ」
燐峯先輩が光夜の説明を引き取ってそうまとめる。
「なるほどね、姉貴。そういう事情なら俺は力を貸すぜ。元々、来年の生徒会選挙には立候補するつもりだったからな。その予行練習としても丁度いい」
「……僕は他にやることがありますけど、異端の排除と聞いたら無視できないですね。自衛をしなくてはいけない。だから、手伝います」
錬次と風見がそう宣言する。そして皆の視線は残ったぼくに注がれる。
「……ぼくも協力します。普通だからって普通じゃない人たちを除け者にするのには賛成できません」
こうしてぼくは新たな戦いに巻き込まれる。
いや、戦いはずっと前に始まっていたのかも知れない。




