第126話 風と雷
11月20日の日曜日。丑寅訓練場。
ぼく、真神雷哉は、風見宙飛と組手を行なっていた。
「電光石火!」
自ら発生させた電流によって、身体中の神経の反応速度を強制的に引き上げる。
その術により、ぼくは風見の攻撃を凌いでいた。
忍者刀を操る風見の速度と技術は、春に実技で戦った時よりも格段に向上している。
(だけど、強くなったのはぼくも同じだ!)
最初は右手にしか施せなかった電光石火は、今では四肢のどこにでも適用できる。
流石に同時使用は二箇所が限界だが、切り替えの速度も段々と速くなって来ている。
次第にぼくが優勢となっていく、双剣の手数で風見を追い込む。
「風見屍這」
しかし、そこで風見の姿が視界から消える。気が付けば、彼はぼくの後ろを取っていた。
咄嗟に振り返って防御しようとするが、そこで脚がもつれる。勢い余って、ぼくは無様に転んでしまった。
「みんな何回も風見屍這を使われれば、慣れて効かなくなるんだけど……真神くんは未だに通用するよね。その素直さは逆に羨ましいよ」
皮肉かどうかもよく分からないことを言いながら、風見がぼくに手を差し出す。
「痛っ」
その手を掴み立ち上がろうとすると、右足に激痛が走った。どうやら足首を捻って痛めてしまったらしい。
「大丈夫? 肩を貸すよ、保健室に行こうか」
「ありがとう」
そうして、ぼくは風見に肩を借りて保健室へと向かった。
「失礼します」
青柳棟一階の保健室に入室したぼく達を出迎えたのは、苔色の髪をした小柄な少女だった。その顔には見覚えがあったが、いつ見たのかは思い出せない。
「あ、宙飛くん」
「お疲れ、楓」
少女と風見がそんな風に言葉を交わす。
「風見くん、知り合い?」
「うん、彼女は僕の従兄妹だよ」
ぼくが風見に尋ねると、彼はそんな言葉を返す。
「一年青龍組の羽妙之楓です。宙飛くんの友人ですか?」
「はい、一年玄武組の真神雷哉です」
そこでぼくは羽妙之をどこで見たのか思い出す。
「そうだ、羽妙之さん、文化祭で歌っていたよね」
文化祭二日目、丑寅訓練場の特設会場にて行われたライブで、彼女がボーカルとして出場していたのだ。
「あ、真神くんも聴いてくれたんだ」
そこで羽妙之が嬉しそうに言う。
「へぇ、そんなことやってたんだ」
「えー、宙飛くんは聴いてくれなかったの?」
「いや、その日は色々と忙しかったから……」
「また何か暗躍しているみたいだね。……ほどほどにしなよ」
気まずそうに言う風見に、羽妙之は嘆息する。
「しかし羽妙之さん、凄い歌上手かったね。特に最後の曲が良かったよ。あれ、何の曲?」
「ありがとう。最後のあれはオリジナルだよ」
「羽妙之さんが作ったの?」
「作詞はね。作曲は同室の喩能ちゃんに書いてもらったんだ」
「喩能……って、笹舟喩能さんのこと?」
「そうだよ。真神くん、喩能ちゃんと知り合いなの?」
「うん、学園対抗戦の強化合宿で戦ったんだ。……彼女、クラスでもあんな感じなの?」
「いや、喩能ちゃんは基本クラスには来ないよ。何だか授業を免除されているみたい」
「授業を……?」
「うん、まあ、彼女の性質を鑑みれば、そうするしか無いのも分かるよ」
「性質って、読心の事? ……もしかして、笹舟さんはあの能力を解除出来ないの?」
「おそらくね。だから喩能ちゃんは、人の多い場所には出来る限り近寄ろうとしないんだと思うよ」
「……そう、なんだ」
怪我の手当を終えたぼくと風見は保健室を出て寮へと戻った。
「……風見くん。人の思念が四六時中聴こえて来るのって、どういう感じだと思う?」
「分かったような事を言うと、笹舟さんには睨まれそうだけど……まぁ、地獄だろうね」
ぼくは風見の言葉に、非常に遣る瀬無い気持ちを抱えることとなった。




