第125話 青春舞鯉登
11月19日の土曜日。手前、鹿深珪晶は所属する図書委員会の当直を行なっていた。
(凄いね、風見は。あんな途方も無い現実に、立ち向かおうとするなんて)
図書室の受付に座りながら、手前は先日の風見の話を思い出す。
翻って自分はどうなのだろう? 己の才能に胡座をかいて、漫然と生きているだけじゃ無いのか……
ここ最近はずっと、そのような事を考えている。
「鹿深くん、ちょっといいかな?」
そんな時だった。同じく図書委員会の当直を務めている女子生徒が話しかけてきた。
(彼女の名前は何だったか……?)
その少女に、手前は意識を向ける。
左右に分けられた青い髪は肩口で揃えられ、やや太めの眉の下には強い眼光を放つ瞳。
手前と同じくらいの女子にしては高い身長。その体躯は痩せても太ってもいない。
「何か?」
「頼みたい事があって、図書委員の仕事が終わったら話せない? ここでは話しづらい内容なんだよ」
「? 構わないよ」
ああ、思い出した。彼女は一年白虎組の青春舞鯉登だ。
「それで話とは?」
「12月9日に、次期生徒会長を決める生徒会選挙があるのは知っているよね」
手前が切りだすと、青春はそう答える。
当直を終えた後、図書室の奥にある資料室で手前は青春と向き合っていた。
「選挙か、そんな行事もあったね」
生徒会選挙。この学園の生徒会長は単純な投票では決まらない。
各々の立候補者と彼らの支持者達が争い、総力戦によって勝者、つまり次期生徒会長になる者を決める。
「でね、二年生の白秋道縷。彼女の支持者として、汝にも戦って欲しいのさ」
「……まだ選挙活動期間では無かった筈だけど」
確か選挙戦前の二週間が選挙活動期間と定められていた気がする。
「ふふっ、そんなの律儀に守っている奴なんかいないよ。表立って集票しなきゃ良いだけ。この学園がその程度の謀略も出来ない者を生徒会長にする訳ないでしょ」
青春の言葉に手前は納得する。まあそれくらい忍びとしては初歩だよね。
「何故、手前に? 折霜くんと同じ組だったよね。彼を誘えばいいじゃないか」
「折霜はもう既に誘ったさ。忙しいからと断られてしまったけどね。彼だけじゃない、他にも何人か誘っているけど、数はあればあるほど良い。特に鹿深くんのような優秀な忍びなら尚更よ」
「……」
(正直気が乗らない。どう断ろうか)
とそこで、手前はあることに思い至る。彼女の苗字、青春。それはつい最近聞いた名だ。
「了解、その誘いを受けるよ。ただし交換条件がある」
「ありがとう。……で、交換条件って?」
「戸隠学園と四聖獣の封印について、君の知っていることを教えてもらう」
手前の提案に青春は薄く笑んだ。
この選択がどう言う結果を齎すか。それは未だ不透明だ。




