第123話 忍びの遺伝子
「もう無理だ……」
勉強開始から30分後、俺様、破竹灯篝は机に突っ伏していた。
「いや、早いよ」
榎根本慈雲が生物学の教科書で俺様を叩きながら言う。
「こんなもの、いったい何の役に立つんだ?」
「そんな小学生みたいなことを……」
「全然気が進まん。風見に教わった時は、もうちょっと集中できたんだが」
「風見って、玄武組の『下降噴流』風見宙飛のこと?」
「知っているのか?」
「彼は地味な癖に悪目立ちしているからね。直接話したことは無いけれど、色々噂は聞くよ」
「へぇ、どんな噂だ?」
「何を考えているのか分からない。どうしようもなく弱いのに強い奴を倒したりする。不気味で近寄りたくない……とかね。そういう噂は結構聞くよ。近寄りたくないって生徒も多いみたい。一般人とは異なる感性を持つこの学園内の生徒にさえ忌避されるなんて、異様だよ」
「ふん、モブの評価なんてくだらねぇな」
「篝くんも忌避される側だからね。しかし、どうして風見くんに勉強教わることになったんだい?」
「千峩の奴に唆されてな……」
そこで俺様は風見とのやり取りを慈雲に説明した。
「ふぅん、それで粉塵爆発についての講義を受けたんだね。そうか、篝くんにはそっちの方がいいのかな?」
慈雲は俺様の話を聞いて、納得したように頷いた。
「そっち、って何だよ?」
「自分に関係ある話題なら興味を持つんじゃないかと思ってね。そうだね、今は生物学の勉強中だから『忍びの遺伝』について話そうか」
「忍びの、遺伝?」
「表の世界での理屈で説明がつかない固有忍術、その才能は遺伝するんだ」
「あん? でも俺様の両親はそんなもの使えなかったぜ。だから捨てられたんだからな」
「遺伝するのと、その遺伝子が発現するのは別の話だよ。それに忍びの遺伝子はちょっと特殊でね。固有忍術を司る遺伝子がホモの場合は、純血と呼ばれ必ず発現する。でもヘテロの場合には半血と呼ばれ、忍術が発現しないこともあるんだ。例外もあるし、具体的な遺伝子座やメカニズムも、まだよく分かっていないらしいけどね」
「知らない単語がいくつも出てきて、よく分からん」
多分、俺様の頭からは煙が出ているだろう。
「もう授業でやったところだよ……」
「……それが理解できれば、俺様だけが忍術を使えた理屈も分かるのか?」
「ある程度はね」
「そうか……」
「少しはやる気が出た? じゃあ基礎からやり直そう」
「ああ、お願いするよ」
そこからも俺様は慈雲に教わる。
まだ勉強は嫌いだが、それでもやろうと言う気持ちが少し芽生えた。




