第120話 錬次の文化祭其の伍
防具を脱ぎ、辺りに人が居ないことを確かめた後、俺、穂月錬次は牧野静汲に向かう。
「それで、錬次くんの隠し事っていうのは?」
同様に防具を脱いだ静汲は所在なさそうにしていたが、意を決して俺に尋ねる。
「俺は、俺たちは『忍び』なんだ」
「忍び……忍者ってこと?」
「そう、穂月家は古来より続く忍者の家系であり、この戸隠学園も、そんな忍者を育成するための学校だ」
言いながら俺は掌に小さな炎を灯す。
「!!」
誤魔化しの効かない異能の証に、静汲が息を呑む。
「……これが錬次くんの隠していたこと、か。そうだね、こんなこと軽々しく話せないよね」
「ごめん、ずっと黙っていて」
「黙っていたことには、別に怒っていないよ。ただ、驚いただけ。それに錬次くんは、私に危害が及ばないようにしてくれていたんだよね」
(そうなのだろうか? 確かにそれもあるかもしれないが、俺は怖かったのだ。この秘密を知られて、拒絶されることが)
幼き頃に、実際に拒絶された涼の様子を見てしまったことも、無関係では無いだろう。
拒絶された後に、あいつのように立ち直れる自信は、俺には無かった。
「いや、言えなかったのは俺が弱かったからだ。その癖にずっと隠し続けることもできなかった、罪悪感を御しきれなかった半端者が俺だ」
燐峯はきっと隠し通していたのだろう、大雑把に見えてどこまでも鋭い彼女は。
「そんなこと……」
「だからさ、静汲さん。もう俺に関わるのはやめた方がいい」
「錬次くん……」
「姉貴がどう思っているかはともかく、俺にはもう静汲さんを……そして自分を傷つけないでいられる自信が無い」
だから、離れる。
「そっか、悔しいけど……私じゃあ、錬次くんの足枷にしかならないんだね」
静汲は寂しそうにそう言う。
「ごめん……静汲さん」
足枷、その通りかもしれない。結局、俺は自分を守るのに必死なのだ。多分、涼や宙飛も同じような気持ちだったのだろう。俺よりもずっと早く、その決断を選んだ彼らも。
「じゃあね、錬次くん。今まで楽しかったよ」
そう告げて、静汲は道場から出て行った。
何時間そうしていたのだろう?
静汲が出て行った後の道場で俺は呆けていた。
「お、いたいた」
とそこで道場に入ってくる影が一つ。
「……姉貴」
穂月燐峯は普段通りの表情で俺に声をかける。
「静汲に聞いたぞ。秘密、話したんだな」
静汲は、あの後また燐峯に会いに行ったのか。それで、俺が話したことを彼女にも確認したらしい。
「怒っているか? 勝手に打ち明けたこと」
「んにゃ、別に。お前がそのことを、ずっと心苦しく思っていたことは知っていたし」
「そっか……」
「でも、突き放す必要は無かったんじゃねぇの? あいつはお前が忍びであることを誰かに吹聴するような、まして責めるような奴じゃあないだろ」
「分かっているよ、そんなこと。これは俺なりのけじめだ」
「ふーん、錬次がそれで良いなら、あたしはこれ以上言わねぇよ。でも、お前も静汲のこと分かってないよな」
「? どういうことだよ」
「今はいいや、いつか分かる日も来るだろ。それより、傷心のお前をお姉さんが慰めてやんよ」
言って燐峯は俺の肩に腕を回す。
「止めろよ! 気持ち悪りぃ」
「あん、今何つった?!」
その後もしばらく、燐峯は鬱陶しいほど絡んできたが、俺にはそれがとてもありがたかった。
こうして俺の初恋らしきものは終わった。
文化祭編、終。




