第12話 残差
四月末から五月頭の大型連休。
僕は実家に帰ることにした。
今のままでは、玄冬に勝てるはずがない。
勝てる見込みがあるとすれば、あの技だけだ。実家でみっちりと修行するしか道はないだろう。
旧友の折霜涼と穂月錬次も誘ったが、断られた。
二人とも部活動があるらしい。
(青春しているなぁ)
なので、僕は錬次に一つ頼み事をして、一人帰路に着く。
「こんなに早く帰るなんて。気が重いなぁ」
僕は電車に揺られながら呟いた。
5月5日、木曜日。大型連休最終日の夜。
修行を終えて戸隠学園に戻ってきた僕は、涼と錬次を戌亥訓練場に呼び出していた。
「そこまで!」
暗い訓練場に、錬次の声が響く。
僕の忍者刀は、涼の首筋に添えられていた。
これまで涼とは何度も模擬戦をしてきたが、僕が勝ったのは初めてだ。
「何だよ、今のは?」
「修行の成果だよ」
僕は涼の首筋から忍者刀の刃を外し、困惑した涼の問いに答える。
「意味分からん。どういう原理だよ。おれにも教えろ!」
「風見家の秘伝だから教えられないよ。それに教えても、涼には無理じゃないかな」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ」
「風見家秘伝ってことは、親父さんに教わったのか? 彼は何か言ってなかったか?」
僕が涼と言い合っていると、錬次がそう問いかけてくる。
『今まで逃げ続けてきたのに、どういう風の吹き回しだ?』
「……別に何も。この技をずっと教えてもらっていただけだよ」
脳裏を過ぎる言葉を無視して、僕はなんでもないように答えた。
「その技もそうだけど、竜巻を出しても気絶しないし、成長しすぎだろ」
「気絶しなかったのは、俺が備品置き場から拝借してきた手甲のおかげだろう」
涼の主張を、錬次が訂正する。
「『残差』。設定された量の験力を装着者から引き出す忍具だ」
「力の使い方が分からない初心者用の玩具じゃねーか。高校生にもなってそんなの使う奴なんていねーよ」
錬次の説明に、涼が呆れた声で言う。
(ここにいるのだが)
悔しくないと言えば嘘になる。
それでも、今の僕には必要な道具だった。
(まあいい。使えるものは何でも使うのだ)
「ありがとう、錬次。これを使えば僕でも、なんとか力を制御できるよ」
左手に装着された鈍色の手甲を見て、僕はそう呟く。
「涼に勝てるなら、何もできずに敗北ってことはないだろ。健闘を祈るぞ」
「おれに勝っておいて、無様な結果は許さねえぜ。気張っていけ」
錬次と涼の激励を受け、僕は答える。
「まあ、やれるだけやってみるよ」
決戦は明日。最強と最弱の闘いが、幕を開けようとしていた。




