第118話 錬次の文化祭其の参
「良いの? 仕事抜け出しても」
「もう俺のシフトは終わっているから、大丈夫だよ」
俺、穂月錬次はお茶と軽食を済ませた牧野静汲と共に、武者喫茶から出て行く。
「そっか。じゃあ錬次くん、案内をお願い。そうだね、まずは燐峯ちゃんのクラスに行きたいかな」
「了解、ならこっちだよ」
そう言って俺たちは建物を出て、玄楡棟へと向かった。
穂月燐峯のクラス、二年玄武組の出し物は『忍者喫茶』だった。
(あの馬鹿姉貴……)
俺は胃がキリキリするような感覚を覚えて、深く息をする。
「いらっしゃい。お、静汲と錬次。来たのか」
そこで、くノ一の格好をした燐峯が中から出てくる。
「久しぶり、燐峯ちゃん。その服、本格的だね」
「おひさ、静汲。ああ、近くの忍者村で借りて来たんだ」
「そっか、この辺りにあったもんね」
「……」
燐峯が言う忍者村が、今も実在する隠れ里かどうかは知らないが、静汲が思い描いているのは、近隣の忍者体験施設のことだろう。
あるのだ。ここ長野県戸隠には、本物も偽物も。
(忍びを隠すには忍びの中……なのか?)
「こんなとこで突っ立っていてもなんだ。入りなよ、お二人さん」
燐峯の勧めで、俺たちは店の中に入る。
ここでも静汲は軽食を頼んだ。意外と彼女はかなりの健啖家なのだ。
俺はいつ忍びバレするんじゃないかと不安でいっぱいで、食欲も湧かずお茶だけをいただいた。
しかし、そこは流石二年生。その振る舞いは、いかにも普通の高校生といった感じで、正体を看破されそうな瑕疵はなかったと思う。
「錬次くん、私に隠し事しているよね?」
だが、店を出たところで、静汲はそう言った。
「隠し事って、何のことだよ……」
そう言う俺の声は思い切り震えていた。動揺を隠しきれていない。
「今日の錬次くん、何かおかしかったもの。思い返せば……昔から偶に、こんなことがあった。錬次くんと、多分燐峯ちゃんも私には言えない秘密があるんでしょ」
「……立ち話も何だし、まず移動しよう」
静汲がどこまで勘付いているかは兎も角、こんな人目の多い場所で、話すことではない。
俺なんかよりも、静汲が危ない。
「……そうだね、また案内して」
そう言って、彼女はおとなしく俺について来た。




