第116話 錬次の文化祭其の壱
俺、穂月錬次は疲れ果てていた。
俺は一年青龍組の学級委員長として、文化祭の出し物を取りまとめている。
だが、協調性を全て個性に変換してしまったような級友たちを仕切るのは非常に難しかったのだ。
(明日と明後日……あと二日乗り切れば、この苦労も終わる……)
11月11日の金曜日。そんなことを呪詛のように頭の中で繰り返している俺の元に、来訪者が現れた。
「よお錬次、頑張ってるか?」
そこにいたのは俺の姉、穂月燐峯だった。
「……姉貴。何しに来たんだよ、自分のクラスの準備はいいのか?」
「そんなもの、他の奴らに押し付けて来たに決まっているだろ。それより、お前に朗報だ」
「何だよ、朗報って?」
姉の級友に同情するように嘆息して、俺は尋ねる。
「明日の文化祭に静汲が来るってよ」
「!?しず……牧野さんが?」
「おう、錬次のクラスの出し物にも寄るつもりって言っていたぞ」
燐峯は要件を済ませると、すぐに去っていった。
「…………」
俺はその報告と、目の前で繰り広げられている惨事を照らし合わせる。
教室の隅では内装担当が、装飾をどこに飾るかで未だに揉めている。
他方では、軽食の試作品が大量に積まれていて、今なお増え続けている。
「どうすんだよこれ……」
俺は大きく溜息をついてそう零した。
11月12日の土曜日、戸隠学園文化祭一日目。
俺は緊張した面持ちで一年青龍組の出し物である武者喫茶にいた。
既に自分のシフトは終わっているのにも関わらず、他のクラスの出し物を見に行ったりはせずに。
忍者なのに武者喫茶とはどういうことだとの指摘、そもそも武者喫茶ってなんだよという指摘は甘んじて受けよう。
戸隠学園の実態は忍術学校だが、そのことは一部の人間を除いて秘匿されている。表向きは防衛大学の附属高校の一つでしかない。
なので、外部の人間も大勢来る文化祭の出し物として、最初に挙げられた忍者喫茶などというあからさまなものは俺が全力で阻止した。
その妥協案として決まったのが、戦国時代風の茶菓子と武士の仮装をした給仕という武者喫茶だった。
そんな事情を踏まえて、俺が落ち着いていられないのは……今、俺が待っている人が忍びの存在など知らない一般人であるからだ。
「久しぶり、錬次くん」
聞き慣れた声に、心臓が一度だけ大きく跳ねる。
お昼を回った頃。俺と燐峯の幼馴染、牧野静汲がようやく姿を現した。




