第115話 涼の文化祭其の参
おれ、折霜涼はそれからしばらくの間、紫苑と朝槻が作品について語り合っているのを、複雑な表情で眺めていた。
「あっ、私もう店の仕事に戻らないと。綾文先生、ありがとうございました」
紫苑はそう言って朝槻に深く礼をする。
「涼くんも、ありがとうね」
そしておれに駆け寄ると、頬に口付けをして去っていった。
そんな風にして、教室にはおれと朝槻が取り残される。
「それで、一体どう言うつもりだよ?」
おれの詰問にも朝槻は飄々とした態度を崩さない。
「ちょっとした親切さ。助かっただろう?」
「それはそうだけど……」
「では本題に入ろうか。折霜くん、君に頼みたいこととは『霊獣退治』だ」
「霊獣退治……だと?」
「君たちは先日、筑波山で蝦蟇の妖を退治しただろう? 要するにそれと同じようなことをやって欲しいんだ。この国には筑波山の他でも、数多の妖・霊獣と呼ばれるものが生息しているからね」
「なんで、そんなことを?」
「いわゆる取材だよ。君たちが蝦蟇を倒す姿にえらく創作意欲が刺激されてね。でも見ての通り小生は唯の大学生だ。それらの霊獣と相対するような力は無い。だから君に頼みたいんだ」
ただの大学生という文言には同意できなかったが、そこを指摘しても意味は無いだろうと思い、おれは別のことを尋ねる。
「でもどうして、おれに頼むんだ? あの場には錬次と宙飛もいたし、そもそもおれ達よりも頼れる奴がいるんじゃないか?」
「言っただろう? 霊獣を倒すこと自体が目的じゃない。その過程を取材することが重要なんだ。火搗の末裔や五星風家の異端児も中々に興味深いが、それよりも君の闘いを描きたいんだよ。その、絶対零度のような情熱をね」
「あんた、イカれてるな……」
「少しくらいイカれていないと面白い物語は紡げないのさ。……それで、引き受けてくれるかい? 勿論、旅費は出すし、休日のみお願いすることになるよ」
「その頼みを受けて、おれになんの得があるんだよ。紫苑との仲を取り持ってくれたことには感謝するが、そんな簡単に危険な誘いには乗れねぇぞ」
「先程の行為は前金だとでも思ってくれればいい。報酬は別に用意するよ。それを抜きにしても、君は強くなりたいんじゃないかと思っていたけどね。霊獣との戦いは良い経験になるとは思わないかい?」
「確かに、そう言われりゃそうだが……」
「一般人である小生の前で戦えば、君の悪癖を改善できるかもしれないよ?」
この女、どこまで知っているんだ?
「で、報酬ってのは何だよ?」
考えても無駄だと思い、おれは話を進める。
「御影紫苑の父親、その居場所を知りたくは無いかい?」
「!!!」
紫苑の父親は彼女が小学生の頃に失踪している。以来、行方が知れない彼の所在をこの女が知っているというのか?
「小生が指定する全ての霊獣を倒し終えた時に、彼の居場所を教えよう」
「何で、あんたがそれを知っている?」
「悪いがそれも企業秘密だ、今はね。どうだい? やる気になったかい?」
「……相当危ない橋みたいだが、それを聞いたら引き受けないわけにはいかないな」
「ありがとう、君ならそう言ってくれると思っていた。では日程が決まったら連絡するよ」
そして連絡先を交換した後、朝槻は部屋から出て行った。
ここから、おれの「霊獣退治」が始まった。




