第110話 宙飛の文化祭其の捌
「それで、どうしたら風見くんは私の事を諦めてくれるの?」
実滝が出ていった後、勿朽流華は冷たい声で僕、風見宙飛にそう切り出した。
「どうしたら諦めるって……」
見ると流華は右手の親指の爪を噛んでおり、相当苛立っているのが伝わってくる。
「どうせあなたには何も出来ないだろうからって静観していたけれど、実滝まで巻き込むのなら、釘を刺さない訳にはいかないよ」
(寧ろ巻き込まれたのは僕の方じゃないのか? いや、こんな揚げ足取りに意味は無いだろう)
そう考えた僕は、ずっと気になっていたことを切り出す。
「何故そんなにも人と距離を取るの? 妹さえ遠ざけるような真似をして……」
「私は無駄なことはしたくないの」
「運命を受け入れるっていうの? あんなの……希望も何も無いじゃないか」
僕は地下で見た勿忘の姿を思い出しながら言う。
「私は希望なんていらない。辛くなるだけだから。だから迷惑なの、あなたの行動は」
「実滝ちゃんにも同じことが言えるの?」
僕はポケットの中で携帯を操作しながら、彼女に問いかける。
「うるさいな。……もし私が間違って希望を抱いて、その結果……勿朽家の宿命から逃げるようなことがあったらどうするの!? その時は実滝がその役割を背負わされるんだよ。あんな、死ぬより辛い……私は絶対にそんなことさせない。ねぇ、あなたに希望を煽った責任取れるわけ?」
その言葉に僕は漸く、勿朽流華の本音を聴けたような気がした。それと同時に何故、僕が彼女に惹かれたのかも分かった気がした。
(彼女は僕に似ている。自分の為には生きられない人間。自分に価値を見出せず、自分の人生に生きる意味を見出せないから、誰かの為に生きようとする)
その対象が僕の場合は流華であり、流華の場合は実滝な訳だ。
(なるほどね、それが核心か)
だとしたら、ここからは……狂言の時間だ。




