第109話 宙飛の文化祭其の漆
勿朽勿忘の前を離れた後も、僕、風見宙飛と勿朽実滝はほとんど言葉を交わさないまま冬の間を調べ続けた。
一時間ほど調べたものの、それ以上めぼしいものは見つからず、僕らは地上へ戻った。ずっと見張りを務めてくれていた鹿深に礼を言って、玄武寮に戻る。
「実滝、……と風見くん」
寮の玄関には勿朽流華が心配そうに佇んでいた。昨日と同じく着物を着ているが、それはすっかり乾いている。
「二人で一体、何処に居たの?」
彼女は僕らに気付くと、そう尋ねてくる。
「お姉ちゃん、わたし達……冬の間へと行っていたの」
実滝の言葉に流華は驚いた顔をした後、僕の方をキッと睨む。
「風見くん、どういうこと?」
「えっと……」
僕が何と答えようか逡巡していると流華が溜息をついて続ける。
「どちらにしろ、こんな所で話すことじゃ無い。実滝。それと……風見くんも、私の部屋に来てくれる?」
流華は今までで最も険しい顔で僕を見てそう言った。
「同室の由密さんはお化け屋敷を仕切るのに忙しいから、しばらくは帰って来ないと思う」
(僕の人生に女子の部屋に入る機会が訪れるとは思わなかったな……)
玄武寮の女子区画にある流華の部屋、女宿室に入った僕は、そんな場違いなことを考えていた。
「だから、ゆっくり聞かせてもらうよ。どうして二人が冬の間に行くことになったのか、そこで何を見たのか」
部屋に入ると流華が冷たい声でそう言った。
「お姉ちゃん、これはわたしが……」
「僕が説明するよ」
僕は釈明しようとする実滝を手で制して言った。
「珍しく殊勝だね。そこに座って、飲み物を用意するから」
流華はそう言って流し台へ向かう。
「……」
戻ってきた流華が僕に手渡したのは、水道水が注がれたコップだった。因みに寮の蛇口に浄水器なんてものは付いていない。
次いで流華は冷蔵庫から緑茶を取り出し、それをコップに注いで実滝に渡す。
(あからさまだなぁ、まぁ良いんだけど)
僕はコップに入った僅かに塩素の香る水で喉を湿らし、説明を始めた。
「まず今朝のことから……」
「……それで、冬の間をしばらく探索した後、地上に戻ってきたんだ」
僕が経緯を話している間、流華は眉を顰めつつも無言で聴いていた。
「なるほどね。迂闊だった、実滝じゃ冬の間に行ける筈が無いと油断していたよ」
沈黙を破って流華が言う。
「まさか、風見くんが既に玄の間までは訪れていたとはね。全く、余計なことをしてくれたよ」
言って流華は僕を睨む。
「お姉ちゃん、風見さんを責めないで。わたしが無理にお願いしただけだから……」
「……実滝、少しの間席を外していて。風見くんと二人で話をするから」
実滝の懇願に流華は考え込むように黙った後、温度を感じさせない口調で言った。




