表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/111

第108話 宙飛の文化祭其の陸

 僕、風見宙飛と勿朽実滝は隠し扉から続く階段を降りていく。

 暫く進むと、開けた空間に出る。


「ここが、冬の間……」

 実滝のその言葉に僕は反応出来なかった。冬の間に足を踏み入れた瞬間、僕は暗闇の中に巨大な何かが存在していることに気づいた。


 それは頭から尾まで優に十メートルを超える巨大な霊獣だった。


「これが、玄武なのか……」

 目を凝らすと、その亀の姿をした霊獣には同じく巨大な蛇が巻き付いている。亀は黒々とした体表に黒曜石のような甲羅を持ち、大蛇は漆黒の鱗で覆われている。その4つの目は全て閉ざされている。


 玄武の巨体は円形の陣に囲まれており、動く気配は微塵も無い。しかし、その圧倒的な威圧感は僕らを萎縮させるには充分だった。


「本当に……存在したんですね」

 暗闇に目が慣れて玄武の存在に漸く気付いたのだろう、実滝がそう呟く。


「取り敢えず、辺りを探索しようか」

 僕の提案に実滝は黙って頷く。


 僕は慎重に辺りを伺い、歩みを進める。

 飾り気の無い黒曜石の壁を眺めながら少し進むと、僕はそれを見つけた。


(なんだ……座敷牢?)

 僕は海馬の奥から噴き出そうとする記憶を必死で押し留めながら、壁に開いた空間に近づく。

 すると鉄格子で封じられたその空間に人がいることに気づく。


(誰か閉じ込められている?)

 座敷牢の中を覗き込むと、そこに居たのは白地に青い花柄の着物を纏った成人女性だった。


 流華と実滝によく似たその顔は青白く、生気を感じられない。その肌の至る所に浮き出た出来物のような突起は、よく見ると爬虫類の鱗にも見える。焦茶色の髪は傷んでいたが、伸ばしっぱなしと言う訳でもなく良く整えられていた。枝のように細い腕には管が取り付けられ、その管は横の点滴台に伸びている。


「……勿忘、伯母様」

 いつの間にか僕の横に実滝が立っていて、座敷牢を見ていた。


「彼女を知っているの?」


「はい。会ったことはありませんでしたが、間違いないと思います。勿朽勿忘くちなわすれな、わたし達の母様の姉で、今代の勿朽家の巫女です」

 鉄格子を握る実滝の指だけが、僅かに震えていた。


 実滝の言葉を受けて僕は改めて彼女を見る。


 勿忘の目は開いて僕らの方を見ているが、焦点が合っている様には思えない。だがその瞳と微かに聴こえる呼吸から、生きてはいる様だと僕は思う。


(いや、これを生きていると言って良いのか?)

 廃人、その言葉が脳を過ぎる。


「流華さんはこれを知っているんだよね?」


「だと思います。姉は冬の間に入ったことがあると言っていましたから」


「……そう」


(こんな無情な現実を突きつけられれば、あんな性格にもなるか)

 それがいずれ自分にも訪れるとなれば尚更だ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ