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第107話 宙飛の文化祭其の伍

「……ここが玄の間ですか。やっぱり風見さんの言っていたように、奥に繋がる道は見当たりませんね」

 勿朽実滝がそう呟く。


(……相変わらず此処は空気が重く、そして冷たいな)

 僕、風見宙飛は彼女と共にこっそりと玄の間へと入り、辺りを見回していた。


「そうだね。そんな簡単に判る様な作りにはなっていないんだろう。隠し通路のようなものになっているんじゃないかな?」


「見つからなかったら、無駄足になってしまいますね。わたしのわがままで、こんなところまで連れてきてもらったのに……」


「いいさ、僕の人生なんて無駄と無意味を繰り返している様なものだから。それに僕だって、流華さんが背負っているものを知りたいとは思っているし」


「……そうですか」


「……実滝ちゃん、ちょっと動かないで静かにしていて貰えるかな?」

 言って僕は目を瞑る。呼吸を整え、全身の、視覚以外の感覚に集中する。


(やはり空気の動きが妙だな……)

 さっき僕らが入ってきた扉以外にも風の通り道がある筈。


「こっちだ」

 目を開けた僕は部屋の壁を見て呟く。


「? こちらには本しかありませんよ……」

 実滝の言うとおり、ぱっと見その壁には本棚しかない。だけど……


「右端の本棚横の床、よく見ると埃の積もり方が若干異なっている。まるで定期的に上に何かが載っていたみたいに」


「‼︎ 本当です。もしかしてこの本棚の裏側に、隠し通路でもあるんでしょうか……」

 そう言って、実滝は本棚を移動させようと試みる。しかし彼女の奮闘虚しく、本が詰まったその棚はびくともしなかった。


「駄目です。動きません」


「よく見ると微かに床が湿って、そして傷んでいるね」

 僕は近づいて棚横の床をさらに検分する。


(でも、結露じゃないよな)

 床は隣の本棚と同じくらいの面積が傷んでいる。結露にしては範囲が不自然だ。


「……となると氷の幕を張って、本棚を滑らしているのかな」

 おそらく玄冬氷冥の能力も玄冬氷筍と同じ氷だろう。それならばあの細腕でも動かせる気がする。


「涼が居れば同じことが出来るんだけどな」

 僕は先日の強化合宿で行われた模擬戦を思い出して呟く。


「……実滝ちゃん。君は流華さんと同じように水の忍術を使えるの?」


「同じとは全然言えませんが……はい、わたしも水の属性です」


「じゃあこの辺り、氷が張られていたであろう範囲を、薄い水の膜で満たしてくれるかな」


「分かりました。けど、水じゃあその棚を動かすのは難しいんじゃないですか?」

 言いながら実滝は術を発動させる。


 空気中の水分が凝集して水の塊が出来ると、彼女はそれを棚の下に薄く敷き詰める。


「うん、水だけじゃあね」

 言って僕は棚の側にしゃがみ込み、風を操る。


「棚の下の水に空気を送り込み続けて、微細な気泡を作る。これで少しは摩擦が減るはずだ。実滝ちゃん、棚を押してみて」

 僕の言葉に、実滝は本棚へと駆け寄り、それを動かそうと試みる。


「! これならいけそうです」

 ゆっくりと棚が滑っていく。僕はそれを見ながら、泡が消えないように風の操作に集中する。


「そこまでで良いよ、実滝ちゃん。本棚の裏を見てご覧」

 必死に棚を動かしていた実滝が、僕の言葉にそれを止める。


「……本当に、ありましたね」

 見立て通り、本棚の裏には隠し扉が存在していた。


「行くよ、覚悟はいい?」

 唖然としている実滝に構わず僕はその扉に手を掛ける。横開きのその扉はあっさりと開き、奥には闇を覗かせる。


「もちろんです!」

 僕の言葉に実滝は深く頷き、そう言った。

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