第105話 宙飛の文化祭其の参
11月13日の日曜日、戸隠学園文化祭二日目の早朝。
僕、風見宙飛は戸隠学園の周辺に広がる山林の中を走っていた。
もうすっかり習慣になっていたトレイルランを終えて玄武寮に戻ろうとした時、木陰で膝を抱える少女を発見する。
(実滝ちゃん、何でここに?)
急いでその少女、勿朽実滝に駆け寄ると、僕の存在に気づいた彼女が顔を上げる。
「あっ、風見さん」
「どうしてこんな所にいるの?」
「昨日は姉の所に泊まらせてもらったんです。それで、その部屋の窓から風見さんが森の中へと駆けて行くのが見えて、追いかけようとしていたら迷ってしまって……」
(それでここで途方に暮れていたという訳か……しかし、そもそも何で追いかけて来たんだ?)
実滝にそれを問いかけると、彼女は俯きながら言う。
「あの後、わたしも考えたんです。お姉ちゃんのこと、うちの家系のことを知ってもらった方が良いんじゃ無いかって。……風見さんは、どこまで知っているんですか?」
玄武寮に戻りながら、僕が自分の知っていることを詳らかにした。
「玄武や八岐大蛇の事は知っているみたいですが、『四聖獣の封印』については知らないようですね」
実滝は難しい顔で考え込んだ後、そう呟いた。
「四聖獣の封印? 四聖獣って青龍、朱雀、白虎、玄武の事だよね……」
(おいおい、関わって来るのは玄武だけじゃ無いのか?)
その四体の聖獣は戸隠学園の寮や組の名前にもなっているので馴染みがある。
(偶然では、無いんだろうな。……この学園は一体何を隠している?)
「はい、四聖獣の封印。その目的は、それらの聖獣を要として、この国を守る結界を張ることです」
「結界……封印じゃないの?」
「日本にはびこる魔をしずめ、封印するための結界です」
「四聖獣を封じる事自体が目的では無いってことか」
(それは、厄介だな……)
玄武を倒すとか、そんな力任せな方法では解決は望めなさそうだ。
「それで、風見さんにお願いがあるんです」
「僕に、お願い?」
「戸隠学園にまつられているという、玄武の姿を見てみたいんです」
先程の話が確かなら、この学園の何処かに玄武が居ても不思議では無いけれど……
「どうして、そんなものを見てみたいの?」
「お姉ちゃんが勿朽家の宿命を受け入れているのは、わたしのせいでもあると思うんです」
「君のせい?」
「……玄武を封じる巫女となる条件は、勿朽家女系の血を引く女性。もしお姉ちゃんがいなかったら、その役目はわたしにまわって来る。だからお姉ちゃんは……」
血統が術の発動条件になることはままある。だから実滝の話は納得できるものだ。
(理屈としてはね……)
感情では、受け入れられるものか。
「それなのに、わたしは勿朽家のことも玄武のこともほとんど知らない、教えてもらえない。だから、お姉ちゃんが背負っているものを、少しでも知りたいんです」
「……そういうことなら、僕も協力するのは吝かじゃ無いけど……」
「本当ですか!?」
「この学園のどこに玄武が祀られているかは、分かっているの?」
「お姉ちゃんの話では、玄の間という部屋から、さらに奥にある、冬の間という場所に封じられているらしいです」
(冬の間? 玄の間よりも先があったのか)
前回は気付かなかったし、由密に見せて貰った図面にも描かれていなかった。
「分かった。そこへ潜入する算段を立てるから、君は流華さんの元へ戻りなよ。あとで合流しよう」
「はい、ありがとうございます」
前回のこともある。玄冬先生にも止められた。
でも、構うものか。僕はもう退くつもりは無い。




