第104話 宙飛の文化祭其の弍
僕、風見宙飛は薄暗い中で墓石(の模型)の陰に潜んでいた。
しばらく待機していると、入り口から客が歩いて来る。
「慚愧懺悔六根清浄」
僕は適当にそれっぽいことを言って、その人物を脅かす。
「ひゃっ⁉︎」
それに驚いた客が悲鳴を上げながら、尻餅をつく。
「えっと、大丈夫……立ち上がれる?」
腰を抜かしている様子の彼女、まだ若そうな少女に僕は手を差し出す。
「無理そうです……」
「ここだと他の客の邪魔になるから……えっと、おぶるから掴まって」
そう言って僕は彼女を背負う。
「すみません……」
「ここで良いか」
僕はお化け屋敷を抜けて、裏方の準備をする部屋で少女を下ろす。
「ありがとうございます」
礼を告げる少女を改めて見る。先程は暗くてよく分からなかったが、その中学生くらいに見える彼女の鋭い眼差しと焦茶色の髪に、僕は既視感を覚える。
「さて、どうしようか……君、学園に誰か知り合いでもいる?」
戸隠学園の文化祭は入場自由だが、こんな山奥にある学校の文化祭にわざわざ来る人は少ない。特に彼女の年齢なら誰かの身内という線が強い。
「今日は姉を訪ねる為にこの学校へ来たんです。一年玄武組に在籍していると聞いて、このお化け屋敷に入ったんですけど……」
「それは、悪いことをしたね」
「いえ、お化け屋敷で客を脅かすのは当然です。それより、姉がどこにいるか知りませんか? わたしの名前は勿朽実滝、姉の名前は勿朽流華です」
やはり、彼女は流華が寝言で言っていた『みたき』か……
「それと、もう一人探している人がいるんです。姉が愚痴っていて、確か風見とか言いましたか、死んだ人間のような目をしているという男です」
「……」
死んだ人間って……そこは普通、『死んだ魚のよう』だろ。
(でもこの様子だと、僕がその風見だとは彼女にはまだバレていないのだろう)
「な、なんでその男を探しているの?」
死んだ人間のような目を隠す鴉天狗の面を摩りながら、僕は彼女に問いかける。
「見定めるためです。……姉が随分気にしている人みたいなので」
「それだけ?」
「……勿朽家の宿命から、お姉ちゃんを解放できる人なのかも」
(宿命、ね……)
「実滝、此処にいたの?」
そこで準備室の扉から声を掛けられる。
「お姉ちゃん!」
そこにいたのは着物を身につけた勿朽流華だった。
(彼女の仮装は何だったか……ああ、濡れ女か)
一瞬考えたが、流華の着物がびっしょりと濡れていることで、その妖の名を思いだす。
この季節にそんな格好をして風邪をひかないか心配になるが、水使いの彼女にその心配は無用だろう。
「それと風見くん? なんで実滝と一緒に……」
そんなことを考える僕に流華は怪訝な表情を向ける。
「風見?」
実滝が僕の方を向く。
「......」
観念して僕は鴉天狗の面を外す。
「その死んだ人間のような目、あなたが風見さんだったんですか……」
僕がチラリと流華を横目で見ると、彼女は気まずそうに目を泳がせる。
(まぁそうなるよね。ていうか、実滝ちゃんも何気に失礼だな)
「僕は持ち場に戻るよ、勿朽さん。ごゆっくり」
僕はそう言って、押し黙る二人に背を向けて歩き去った。




