第101話 巻物探妖其の拾肆
「おっと笹舟さん。どうしたん、忘れ物でもしたんかい?」
ここから離脱したはずの笹舟喩能が戻ってきたので、オイラ、漣蒼茉は努めて軽薄に問いかける。
(彼女に対して、こんな風に繕う意味はないんだろうけど……)
「そういうのはいい。時間の無駄だから」
笹舟はいつも通り淡々と言い放つ。
「漣くん、今は巻物を持ってないよね」
「ああ。始まってすぐくらいの時に蒼鷺の式神を槌屋と協力して倒したけど、そいつの巻物は槌屋が持っているはずだよ」
「その槌屋くん、多分槌屋くんじゃないよ」
「は? どういう意味だ?」
「はっ、刑部の奴に騙されたみたいやね」
そこで、拘束されている狭山が愉快そうな声で会話に割り込んだ。
「?」
「刑部遍が変身した偽物だったってこと」
笹舟が短く説明する。
「もう君以外じゃ間に合わない。わたしの指し示す方向へ、全速力で向かってくれない?」
「ああ、分かった」
笹舟が示した方角へ、オイラは自慢の俊足を最大限に生かして駆ける。
行く手を遮る蝉の式神を切り伏せながら進んでいると、やがて交戦する音が聞こえてきた。
程なくして、四人の姿が視界に入る。
地面に倒れている、甲賀学園の制服を着た長身の少年。
土塊によって拘束されている穂月。
土を操りながら攻撃を仕掛ける槌屋。
そして、それに対するもう一人の土使い。
そいつはこちらの代表でもないのに、戸隠学園の制服を着ていた。
(そうか。あいつが刑部遍か!)
一瞬で状況を把握する。
オイラは刑部の背後へ飛去来器を投げ放った。
「っ!」
寸前で気づいた刑部は、手にした槍で飛去来器を弾く。
だが――
「這燕」
その時にはもう、オイラは刑部の懐へ潜り込んでいた。
「なっ――」
がら空きになった胴へ、新たに取り出した飛去来器を振り上げる。
「ぐはっ!」
刑部の身体が後方へ吹き飛ぶ。
背中から地面へ倒れたその瞬間、槌屋が地面へ槍を突き立てた。
迫り上がった土が刑部の身体へ絡み付き、その動きを完全に封じる。
「危ないところだった。助かったよ、漣」
槌屋は刑部の懐へ手を入れ、三巻の巻物を取り出した。
「三つも……」
その中の一つを見て、オイラはようやく理解する。
「なるほどね。オイラたちが取ったはずの巻物まで、こいつが持ってたのか」
その時だった。演習林全体へ、終了を告げる鐘の音が鳴り響いた。




