<グランドフィナーレ>
シオリたちがクウシンサイとの決着を付け、地上へ上がってくる時、センコウは冒険者たちに武器と〈サマー・フェスタ〉装備を渡して回り、状況を盛り返していた。
最初は三人で。少しずつ、少しずつ仲間を増やして、朝の目前の最も暗い時間を耐え忍び続けていた。諦めなかった。意地と矜持を剥き出しにして、念話で叫び続けた。俺たちは戦う。俺たちは戦える。無駄じゃない。無意味じゃない。こんなことは、もうやめだと。
(朝だ! オレたち、勝ったんだ!!)
ついに白む空が、燃える朝日が、彼の小柄で健康的な身体を包み込んだ。同時にそれは、砕けたスイカや折れたきゅうりたちの亡骸をも、等しく照らしていた。センコウには、その朝の光が、ついに来た救いに感じられた。
夏の反逆は、このまま終わるかに見えた。悪巧みをした連中はみんな死ぬか降参するかして、めでたしめでたし。はいはい、全部もとどおり。よかったよかった――。
「何だありゃ……」
だが、遺跡が崩落し、それが見えた時、誰しもが持ちかけていたその考えを、一旦地面に置き直した。遺構の尖塔よりなお高く丸い影は、もう冒険者たちの恐怖の象徴として刻み込まれていたし、球体に刻まれた緑と黒のしましまは、あの雨に乗じて押し寄せた悪意とそっくり同じだ。
「何だ、ありゃあっ!?」
〈サマー・フェスタ〉の馬鹿騒ぎに巻き込まれた冒険者たちを最後に出迎えたのは、とびっきりのサイズのスイカだった。
◆
「何だ、ありゃ……」
ヴィクトールも呆然として、遺跡から出てきた巨大スイカを眺めていた。モンスターの名前自体はスイカ・スケルトンであるが、その規格外の大きさから、いかにこれが念入りに改良されたものか想像するのは容易だった。
〈ボス級〉より、見た目もHPも大きい。間違いない。エゴが警戒した〈レイド級〉だ。
「なるほどね。確かにレイドだ、こりゃ」
呆れて頬を引きつらせ、シオリもそう呟いた。夏を知る怪物の置き土産は、秋を知るものによって、かくも育つものなのだ。
真に最強最悪の農民一揆を掲げるのは、やはり巻き込まれた冒険者たちではなかった。〈農民〉のサブ職業を持った、孤独な冒険者バルビレッジだったのだ。
「聞け、農奴どもッ!!」
初めて、シオリは彼の声を聞いた。神経を尖らせながらも、意志を感じさせる男の声だ。それがスイカの球体の頂にいると知る。金の髪とフードつきのマントを朝日に揺らし、憤怒と隔意でこちらを見下ろしている。
「今なら見逃してやる。いますぐ持ち場に戻れ!」
「あんなブラック労働に誰が戻るかよ! よくもやってくれたな!!」
捕らえられていた冒険者の一人が声高にバルビレッジを糾弾し、〈サマー・フェスタ〉の水着姿で巨大スイカに駆け寄っていった。「あっ」とシオリが声を上げるより早く、スイカが僅かに前身した。ぷちっという音と共に一人の冒険者のHPゲージが0まで失われる。今更だが、〈サマー・フェスタ〉装備で攻撃は通るが、別に相手の攻撃を無効にできるわけではないのだ。おそらく、漁港でスイカスケルトンの残党と乱闘が始まることだろう。レンダリルが天を仰ぎ神に祈るような仕草をする。続いて、バルビレッジは声を張る。
「お前たちはアキバに戻り、俺を貶め、心底満足して眠りにつくのだろう。結構だ。だが、お前たちの行いについて考えたことがないわけではないだろう」
一度息を吸って、バルビレッジは息を吐いた。シオリからすれば、遠目に白い息が見えるようだった。本当はこんな声を張り上げるタイプではないのだろう、と。
「お前たちは、一度はおそれに屈した。夏の眷属ども相手に武器を捨て、両手を挙げ、あるいは頭を下げ、額ずいて命乞いをした! 一度は俺の方へ味方したが、いま、何食わぬ顔で俺に武器を振り上げている者もいる! お前たちは、アキバに戻っても、決して己の臆病を認めはしないだろう!! 次の叩いて良さそうな獲物を見つけて、今後もずっとへらへら嗤うだけだ!」
拳を握り、バルビレッジはクウシンサイのように冒険者たちを睥睨する。そうして、堂々と唱えるのだ。
「俺は、お前たちの臆病と裏切りを許す! 許した上で、このまま俺を脅かすであろうアキバに侵攻する! 邪魔立てするなら、死ぬまで轢き殺す!! それがいやなら、持ち場に戻って畑を耕すがいい!!」
シオリは冒険者たちの様子を見回した。実際、バルビレッジ側について反旗を翻した者は確かに存在したし、今まさに巨大スイカとかいう頭の悪いものに乗っかったバルビレッジを冷笑する者だっていた。だが、彼らだって分かっているはずなのだ。バルビレッジを打倒した後のことを。
逃げたものや負けたものは雨の日の絶望を忘れられないだろう。裏切った者は後ろ指さされる悪寒を感じるだろう。勝ち続けたものは勝利は一瞬の積み重ねでしかないことを知るだろう。そして全員が、強者を引きずり下ろした薄暗い悦びと、次は自分がこうなるかもしれないという不安を覚えるだろう。
冒険者たちはアキバに帰って、初めてまことの恐怖を識るのだろう。
「どうする?」
「う、いやだ、もうスイカスケルトンに殴られるのは……だけど……!」
現に、冒険者の何人かは、バルビレッジに従った方がいいんじゃないかと迷いもしている。従えば、「あいつに従っただけだ」が通る。その弱さから来るずるさを、ここで知らない人間などもういないだろう。
(本当に、夏なのは見た目だけじゃないか。沼地の王の沼の方が、まだマシだ)
苦笑いして、シオリはすっかり青くなった空を仰いだ。見た目は本当におかしなスイカの夏祭りだった。だけど、その内側にある〈大災害〉の軽視と人同士の軋轢は、種よりずっと苦くて、果肉と皮の間よりずっと水っぽい――うんざりするような、旧世界の味をしていた。
それを全て噛みしめた上で、シオリは雲を突くようなスイカの天辺にいるバルビレッジにフレンドを送った。念話をするために。きっと、後ろに控えるレンダリルはそうしてから、対策を考えるだろうから。
《話は聞いたよ、バルビレッジ。なるほど、あんたを助けようとしたサマー・フェスタの怪人たちの気持ちも分からないでもないし、このまま行けば、あんたか、私たちか、あるいは両方か。心に深手を負って生きていくことになる。この騒動、思ったより根が深い》
念話は届く。でも、返事はない。それでよかった。シオリは、大太刀に手を掛けたまま、わずかに唇の端を持ち上げた。
《アキバの統治機構もスタートしたばっかりさ。疑心暗鬼になるのも分かる。だが、あんたも、私たちも、名乗りを上げなかった。その上で、こんな辺境で荘園の主を気取ってたって、何にもならないさ。だから、その辺は抜きにして、私の意見を伝える》
頭を軽く掻いて、シオリは一度だけ深呼吸をして、前を見た。弱者が痛まぬように、強者が痛めつけられぬように、そのために何が必要か。その意志を声にする。念話などではなく、彼女の心は、狼牙の全身を使って響き渡る。
「そのスイカはここで食い止める! 私はあんたの意志を許すが、あんたのやったことは許さない。やるんなら、あんたはセルデシアの力を借りず、あんたの身一つで円卓会議に乗り込むんだな!!」
少なくともシオリの結論は、そうだった。バルビレッジを尖らせたのは、他ならぬセルデシアの柔軟性である。彼自身の心をありのままアキバに伝えるにしても、その巨大な力は障害になるのだ。交雑したバルビレッジの魂とセルデシアを、一度引き剥がす必要がある。シオリには、そのように表現ができた。
一瞬だけ、間違えたかと思うような静寂が、シオリの側を通り抜けた。けれど、彼女の叫びは無駄ではなかった。
「……っ、そうだそうだ! やるぞ、皆ッ! 相手はモンスターじゃなくて人間だってこと、忘れるな! 怖がるな、あいつも、俺たちも、話ができる人間だ!」
「そうだ! 単にボコすんじゃ駄目だ。おれたちは死んだって屁でもねえから恨み合うだけだ! スイカだけまず止めるぞ!!」
「話し合いの舞台に引き込めるかな……でも、まずはそれからだよね!」
彼女の咆哮に応じたのは、バルビレッジではなかった。誠心誠意を取り戻した、冒険者たちの叫びだった。心地良い熱気が、彼女のポニーテールをなびかせ、膨らませた。
自分たちはまだ戦える。そう思っているのは、きっと巨大スイカも冒険者も同じだった。やっと、冒険者たちは対等であると思い出したのだ。それならば、もはや言葉は必要なかった。スイカがゆっくりと回転を始める。バルビレッジはその真上に浮遊して在った。島と漁村ひとつ巻き込んだ最終決戦は、こうして幕を開けたのだった。
《聞こえた言葉は短かかったが、いい演説だった》
《こういうのはダリルの仕事だと思うんだけどね。サポートありがとう》
出張ってきそうなレンダリルが引っ込んでいたのを、シオリは分かっていた。おそらくは、他のメンバーに根回しをしてくれていたのだろう。現に、いくらかの冒険者たちは森の方へ散開して、行動を開始している。シオリは、センコウが手招きしているのに気が付いて、急いでそちらに移動を開始する。シオリの視線の向こうにあるのは、四人乗れれば御の字の、一艘のぼろい飛空艇だった。
「直したばっかりのポンコツだが、ちょっとなら動くだろ! スイカのヘイトはこっちに任せて、あんたらは空から迎撃を頼む!」
「って、言ったって……ヴィクトール?」
「ここで出来ねえって言うのはすっげーかっこ悪いだろ! 任せろ!!」
操作ができるのかどうかと、シオリは疑問に思った。が、それより早く動いたのはかさばるからとカメレオン衣装を脱いだヴィクトールだった。彼は目を凝らして、ぼろの飛空挺の操作パネルを調べ、〈アルヴの追憶〉の導くままに、思い切って一本のレバーを引いた。その瞬間に、飛空挺は息を吹き返して、ごうごうとエネルギーを焚き始めた。操作方法もあいまいな初対面の飛空挺は、かっこいいことが大好きなハーフアルヴを主に選んだようだった。
「俺は呪われし詩人、ヴィクトールだぞ! アルヴの遺産ぐらい、動かしてやらあ!」
「さっきまでカメレオンだった人とは思えないなあ」
「そこ! うるさいぞ! やっぱカメレオンの方がいいな。着るわ」
「えっ、何で?」
エゴのぼやきに指を差し、ヴィクトールが眉を寄せてツッコミを入れ、ヘルメット代わりに着ぐるみを着直す。エゴが問い返す間に、シオリとレンダリルもぼろの飛空挺に乗り込んで、席につく。
「ところでこれ、シートベルトはないのかね?」
「ないよ」
「ああーっ! バグのありそうな乗り物にシートベルトなしで乗るなんてーっ!!」
「ダメージ受けないように、しっかり捕まってろ!」
シオリの呟きを耳にして、情けない声を上げるレンダリルをよそに、ヴィクトールは端末を弄り、足元のペダルを踏んだ。回転翼がうなりを上げ、ぐんと船を持ち上げる。風の中、センコウが手を挙げるのを見下ろして、シオリは軽く手を挙げ返した。
かくして吟遊詩人の操る飛空挺は、猛然と空へ駆け上がる。そうすれば、景色はより明瞭に見え始める。思わず、シオリは「うわ……」と眉をひそめた。
島の中央から北部の海岸へ向け、巨大スイカは疾走を始めている。そのHPゲージは、冒険者たちの奮闘で少しずつ削れてはいるものの、海岸に辿り着くまででは倒しきれないだろう。陽動部隊を買って出た冒険者たちが、代わる代わるにタンクを引き受け、犠牲者を出さないよう尽力している。他にも、島から夏祭りの雑魚モンスターたちを出さないよう、遊撃部隊が島の各地で戦っている。
総力戦。そんな言葉が、シオリの脳裏をよぎる。
《こちらセンコウ、聞こえるか?》
《聞こえてるよ。私たちはどっちに迎えばいい?》
《北だ。そのまま、スイカのルート通りに進んでくれ。先に行った面子が対策を打ってくれてるはずだ》
風を切って進む船の縁から、シオリは目を凝らして先を見た。確かに、スイカが進んでいるルートの先に、魔法攻撃職と思しき人々が集まって、何かを仕掛けている。
「ヴィクトール!」
「分かってる、ってッ!!」
北へ。そうシオリが告げる前に、ヴィクトールがおんぼろのペダルをへし折りそうな勢いで踏む。限界まで加速した飛空挺は、白い煙を上げながらスイカの頭上を追い越していく。今までのどの時よりも近い距離に、シオリはバルビレッジの顔を見た。焦りと、孤独と、覚悟。そして、ちょっとの驚きを見せた彼を、彼女たちは追い越していく。
「ナメやがってバカ野郎っ!」
ヴィクトールは、もう船の仕組みを理解したらしい。パネルを弄って、側面に組み込まれていた、やっぱりボロの砲を起動させた。豆鉄砲同然の弾丸が、ぺしぺしとスイカの表面に当たってダメージを与えている。舌打ちしたバルビレッジから、〈妖術師〉の魔法である〈フロストスピア〉が牽制で飛んでくる。一つ二つではない。きっちりバフで発動数を増やして、船を狙っている。船体に氷の槍が掠める度に、船はぐらぐらと揺れる。
「これ以上は墜落するぅー! 若人、無理よくないぃ!」
「スイカ追い越して待ち伏せすりゃ勝ちだろうが! あとちょっと持ちこたえろ!!」
椅子にしがみついて頼りない声を上げるレンダリルだが、その手は飛空挺にしっかりと付けられている。己の魔力を飛空挺に供しているのだと、シオリはすぐに理解する。煙を吐いてなお落ちないのは、そういうことだ。ヴィクトールがハーフアルヴとして船を理解したなら、レンダリルは法儀族としてからくりを理解したのだろう。
ならば、信頼に報いねばと、彼女は大太刀に手を掛けたまま、身を乗り出した。
「エゴ! バルビレッジを逃がさないために、私は、私たちは何をすればいい!」
この暴力を止めるために必要なのは、ありったけの知恵だ。だからまず、シオリはエゴに問いかけた。エゴは紫の瞳を夏の太陽に輝かせ、空を仰ぐ。彼女はこんな時でも、冷静さを失わない。
「そうだね。まずはスイカの速度を追い抜いたから、あとは僕らの振り返るタイミングと、皆が仕掛けてる罠へスイカが突撃するタイミングだけど。計算できる?」
「……っ、私がする! 私なら、できる!」
名乗りを上げたのは、レンダリルだった。身を震わせ、片手を椅子から離せないまま、それでも彼は名乗り出た。正味怖いだろうに、彼は声を張り上げる。
「ヴィクトール! このまま加速して、今だと言ったらハンドルを切りたまえ。できるかね?」
「やる! アルヴ印のゴールド免許なめんなよ!」
ヴィクトールが笑って応える。まずはひとつ。
「エゴ、私と一緒に飛空挺の船体維持! それから、君のサブ職業は〈学者〉だろう! 盤面を読み解く手伝いをしてくれ!」
「分かった。いいよ。できるかな」
「君ならできる。頼む!」
「悪い気はしないね。やってみるよ」
エゴが小さく頷いて、レンダリルと一緒に操作盤を覗き込み、セルデシアの文字で書かれたそれを彼へと伝えていく。彼は目を伏せ、ぶつぶつと言われた数字を組み合わせていく。その最中、彼は一度だけ、シオリに声を掛けた。
「シオリ。ヴィクトールが船体を旋回させて、船がスイカの真正面を向いた時、あれに全力で攻撃を頼む」
青い夏の空の下、全ての命を押し潰して走る緑と黒の怪物を、シオリは見据えた。そのHPはなおも減少を続けている。レンダリルはギルドマスターとして、イディズより、クウシンサイより、ゴーレムより大きいそれを、相手取れと言うのだ。
嗚呼。シオリはため息をついた。束ねた黒髪が、いっぱいにざわめく感覚があった。恐怖ではない。彼女を支配していたのは、圧倒的強者を前にした戦士の武者震いだった。きっと、彼女は牙を剥いて笑っていた。
「そいつは、最高の誉れだね」
風を切って、飛空挺は進む。しばしの間、計算に意識を向けていたレンダリルが顔を上げる。
「接敵まで、十五!」
カウントダウンが始まる。十四、十三、十二、十一。木々をなぎ倒し、命を燃やす怪物の上で、バルビレッジも決着の瞬間を見据えているのだろう。シオリは船の頭に脚をかけて、低く、これから狩りをする狼のような姿勢を取る。
「十、九、八――」
朗々とした声に導かれるかのように、一行は風にひりつく肌の感触も忘れて突き進む。七、六、五。浜辺が眼下に見えてくる。魔法攻撃職の冒険者たちはめいめい武器を構え、その瞬間を待っている。四。ついに森から巨大スイカが飛び出してくる。勢いをつけて回転するそれは、主と共に夏の果てを夢見てひた走る。
三。バウンドしたスイカが砂浜に着地する。砂が飛び散り、いくらかの冒険者を巻き込んで光の粒子に変えていく。
二。冒険者たちが杖を掲げる。砂地が揺れ、一度は隠されていた『それ』をつまびらかにする。
一。砂に開いたのは、巨大なレイドモンスターすら呑み込む円錐状の落とし穴。バルビレッジが目を見開き、フィールドの高さに沿ってスイカもろとも落下する。
「今だ!!」
痩躯のドルイドの叫びが、甲板を駆け抜けていった。ヴィクトールがハンドルを限界まで切る。強烈な遠心力が掛かり、エゴが落っこちそうになる。レンダリルが彼女の手をぎゅっと握って、支えている。その間も、シオリの重心は微塵も狂わなかった。
勢い余ったスイカの怪物は、落とし穴の斜面を駆けあがり、随行していたバルビレッジを巻き込んで高々と砂浜を舞った。彼はスイカにしがみつくような姿勢になって、シオリを見下ろしていた。
「ッ、おおおおおおぉぉぉッ!!」
狼の遠吠えが轟いた。一人の狼牙の武士が、船の舳先を蹴り上げて、まっすぐ飛んできた瀕死の怪物に相対する。〈常在戦場〉と定めたその腕が、ずっと納めていた大太刀を抜く。居合い。その一瞬に全てを賭けて、彼女はスキル発動の宣言をした。
「〈一刀両断〉、〈飯綱斬り〉――!!」
極限まで高められた刀の圧は、最初、スイカに一つの点を作った。それは頑丈な皮にめり込み、赤く熟した果肉を貫通し、種を砕いて、後方まで抜けていった。全ては一瞬のことだ。駆け抜けて行った衝撃破が、縦に、横に、広がっていく。真正面にあった飛空挺そのものを避けるように、裂けていく。もう、この怪物に、シオリの剣圧を防ぐ手立てはない。
ただひた走ってきた勢いそのままに、それは爆音を立てて砕け散った。空中で三尺玉の花火のようなエフェクトを残し、形も残さず消滅する。
「な……」
驚いた顔のバルビレッジが、そのまますっぽ抜けたようになって、自由落下で下へと落ちていく。彼の視線の下にあるのは、母なる海だけだ。
ほどなくして、人一人が落ちるにあたって妥当な量の水しぶきが海面から上がった。戦いの終わりは、あまりにもあっけなかった。
空中に飛び出していたシオリは、ヴィクトールがとっさに加速してくれた船の上に着地する。ぐらつく身体を、エゴとレンダリルが支える。その空いた片手に落ちるような形で、ぽんとボスモンスターのドロップ品が落ちてくる。シオリも、それを両手で受け取って、苦笑いする。
「本当に、ろくでもない夏祭りだよ!」
白い皿の上に、瑞々しいスイカが一切れ。それは、馬鹿騒ぎに巻き込まれた被害者に、セルデシアから与えられた、なけなしの謝礼のようであった。




