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ログ・ホライズン二次創作~フォーカード・バグフィックス!~  作者: mahipipa
第四章 サマー・フェスタと災厄の農園
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<パフォーマンス>

 戦いの始まりはベースを刻むようなハートビートヒーリングだ。緑にきらめくエフェクトが、シオリを包む。抜刀した彼女が〈飯綱斬り〉を叩き込み、我先にと飛び込んできたスイカスケルトンを両断する。〈サマー・フェスタ〉の加護がある今、彼女の膂力をもってすれば、モブならば一撃で容易く崩れ去る。背後から〈猛攻のプレリュード〉がかき鳴らされれば、なおのことだ。その着ぐるみで見えない奏者の指先が、急に曲目を変え、うねる。ヴィクトールの周りにはスケルトンこそいるが、味方は誰も陣取っていない。


「この瞬間を待ってたぜ。お盆はもうおしまいだ! 〈囚われた獅子のダージュ〉!!」


 ぎゃんと獅子の哀歌を轟かせれば、ヴィクトール周囲のスケルトンは勢いよく吹っ飛ぶ。彼もまた、レベルを上げてきた。今までその出番がなかったことに怒り狂うように、彼のギターは激しくかき鳴らされる。死ぬ歌の呼び名通り、スケルトンは死に還っていく。


「ッハ……! 連携は十分っ、では、小道具プロップ対策はどうかな! 〈スネアトラップ〉!!」


 クウシンサイが牙を剥いて笑い、シオリに指を差し向けた。途端に、彼女を阻むように蔦の束が殺到する。シオリはとっさに地面を蹴り、別角度に身体をねじって強引にクウシンサイへ肉薄する。ここに来て移動阻害。いくら勘が鈍くたって分かると、彼女は内心思った。


(やっぱりこいつ、時間稼ぎに出てるな! たぶん、バルビレッジがまだ何かしてるんだ!)


 魔人は時間を稼いでいる。彼が名乗るように、彼がラスボスならば、絶対にあり得ない行為だ。否、イベントでは彼こそがラスボスであったのかもしれない。けれど、今のセルデシアでイベントがそっくりそのまま行われるなど、思っている人間などいないはずだ。シオリだけではない。少なくともエゴは確信していたようだった。


「エゴ!」

「うん。ラスボスとしては考えにくい行動だよね。〈パルスブリット〉!」


 彼女はクウシンサイを指差して、死を宣告する。マントをかざし、クウシンサイはその微細な連撃を受ける。魔法のエフェクトが消えた先に、クウシンサイはいない。はっとヴィクトールが見上げた頭上に、高笑いするクウシンサイの姿は二つあった。


「っ――〈メイジハウリング〉!!」


 通常魔法攻撃を起点として、エゴが畳みかける。たっぷり息を吸った彼女の叫び声が、クウシンサイを中心として、周囲のスケルトンやゴーレムに魔法ダメージを叩き込む。飛び散り、光の粒子となって消えてゆくスケルトンとは反対に、ゴーレムはさしたるダメージを受けた様子もなく、少しずつ前進してくる。ヴィクトールがスケルトンをギターの側面で張り倒しながら随行する。後列ではレンダリルが地面にしっかと靴底をつけ、不休のヒールワークを続けている。


「グォォォォンッ!!」


 ゴーレムが叫んだのはその時だ。その両手に、ばちばちと音を立てる高圧電流が見えた時、シオリは大太刀を自らの前に立て、防御姿勢に入った。

 炸裂音、次いで二つ並んで駆け抜けてくる閃光が、フォーカードの面々に飛び込んできた。シオリの〈ムーンライトヴェール〉の宣言が掻き消されるほどの轟音を聞き、クウシンサイの追撃を行っていたヴィクトールとエゴも回避に専念する。巻き込まれたスイカスケルトンも何匹かはいたが、ダメージがない。当たり前だ。ゴーレムが〈サマー・フェスタ〉装備を付けているわけはないのだから。ゴーレムの横暴でダメージを受けるのは、自分たちだけだ。


「クソみてえなギミック!!」

「褒め言葉として受け取ろう!」


 悪態をついたヴィクトールに、二体のクウシンサイは高々と笑って何かをばらまいた。遺跡の奥、明かりだけでは見極めにくい黒い粒。扇状に飛んで来たそれら『アサガオの種』が、空中で芽吹き、ねじれ、肥大化するのを見れば、シオリも後退のステップを踏んだ。 


「咲けよ、咲けよ、午前ばかりのいのちども! 〈シードブラスト〉ォッ!!」


 クウシンサイが指を鳴らすと、それらは一斉に冒険者たちがいたところへつるを伸ばし、衝突した。今しがたシオリがいたところは緑に満ち、床が見えないほどだった。彼女は足にバネを溜め、エゴやレンダリルの援護射撃を背に、無我夢中で咲くアサガオを飛び越える。石の床に軽やかに着地し、そのまま、狼は片方のクウシンサイの首目がけて大太刀を振りかざす。


「〈フォルトレスヒット〉――〈タウンティングブロウ〉!!」


 命中力を底上げし、スキルを唱えれば、大太刀に力が宿る。ヘイトが増える。当たり前のように、タンクの命は危機にさらされる。上げすぎず、下がらぬよう、その絶妙なさじ加減を、もうシオリは間違わない。その剛直の刃が、クウシンサイの片側を捉え、そのまま壁の方まで吹き飛ばす。そこに手応えがないのは、百も承知だ。これは、〈デコイ〉だ。分かった上で、シオリは振るったのだ。

 全ては、エゴとヴィクトールをヘイトトップから離し、ターゲットを絞るためだ。


「もう盆踊りも飽きたでしょう? おやすみよ。〈アストラルヒュプノ〉」

「ぬ、ぐぐっ……!」


 狙い澄ましたエゴの放心デバフが、ついにクウシンサイを捉えた。わずかに、魔人の足がよろける。そこへ、ギターの首を掴んだヴィクトールが飛び掛かり、大上段から十八番を叩き込もうとする。それを見上げたクウシンサイは、叫ぶ。


「――ッ、まだまだァァァッ!!」


 刹那、運命が、あえかなる因果が、クウシンサイに味方したとシオリは感じた。その叫びと共に、彼は〈アストラルヒュプノ〉のデバフを振り払ったのだ。エゴもそのルールにない抵抗に、一拍の隙を産んでしまう。魔人にふさわしい、魅力的で凶悪な笑みを浮かべ、クウシンサイは再び種を撒く。〈シードブラスト〉に巻き込まれるのはヴィクトールだ。着地寸前を狙ったその攻撃に、吟遊詩人は腕を交差して耐えるしかない。正しくヘイトアンダーなのが救いだった。打ち上げられる彼に、すみやかに、レンダリルの〈ヒール〉が飛んでくる。ヴィクトールは空中で強引に姿勢を変えて、舌打ちして着地する。

 ゴーレムの腕がまた振り下ろされる。迸る雷が、クウシンサイのシルエットを呑み込み、行方をくらませる。ヴィクトールの着地点に、直線範囲攻撃がまっすぐ突っ込んでくる。


「う、ぐっ……攻めにくっ……!」


 何とか攻撃からは逃れたが、ヴィクトールとクウシンサイの距離は広がる。この時も、ゴーレムの床を殴る音に紛れて、地響きが聞こえてくる。


《ヴィクトール、無理に攻めなくて大丈夫。それにしても、あのゴーレムが厄介だね》

《んんん、あいつの位置取りがクウシンサイの後ろなんだよな》


 シオリが念話で呼びかければ、ヴィクトールの苦慮が伝わってくる。が、彼はしばらく唸った後、こう続けた。


《あいつが意志なき機構なら、どっかに動力あるだろ……どこだ?》


 それは何でもない発言だった。が、シオリは妙な引っかかりを覚えて片眉を上げた。確かに、〈意志なき機構〉というのは遺跡に存在する罠や小道具、果てはモンスターなどとして存在する。そして、おそらくヴィクトールの言う通り、大抵は何らかの動力で動いている。だが、それがヴィクトールの口から出てきたのが変なのだ。設定資料集を読み込んでるっぽいレンダリルならともかく、彼はそこまでセルデシアに詳しいわけではないはずだから。

 『その情報をどこで?』

 唇の淵まで出た問いを、シオリは飲み込んだ。今、その是非を問う余裕はない。彼の、その知識を信じることが先だと。


《ゴーレムの背中を見せるように動けばいいってことだね?》

《頼めるか?》

《やってみるさ》


 そう応えて、シオリはぐっと足のバネに力を溜め込んだ。そうして、次の瞬間には矢弾のように飛び出した。


「させんよ!」


 案の定、クウシンサイが妨害を仕掛けてくる。彼の放つアサガオの種を見据え、自分の進行上に邪魔なものだけを選び、刃で刈り取る。それが、シオリにはできる。身体が魂に付いてきてくれている。彼女はひとつむじの業風になって、吼え、クウシンサイに攻撃をする素振りを見せた直後、真横を通過する。


「何――」


 自分からターゲットが逸れたことに、クウシンサイは初めて動揺の色を見せた。よもや、この大舞台を前に、タンクが背を向けるとは思ってもみなかったのだろう。魔人が指を差し向け、〈スネアトラップ〉で進路を塞ごうとする。だが、それは機能しない。


「君の相手は僕だよ」


 代わりに背中を守ってくれるのは〈ヴォイドスペル〉を唱えてくれたエゴだ。レンダリルも言葉を発さないが、背中から前方へ、導くように吹き抜けていく〈キュアブルーム〉のエフェクトで、こちらを見てくれていると教えている。おそらくヴィクトールは賭けている。自分が、シオリという武士が、ゴーレムを見事引き付けて背中を向けさせる瞬間を、戦いながら待っている。


「あのね、クウシンサイ。僕、冒険者たちに自害を勧めたこと、何も悪いとは思っていないんだ」

「ほう、そんな可憐な声で、そんなに恐ろしい言葉を言ったのかい。かわいそうに。さぞ、冒険者の肝は冷えたことだろう!」


 後ろから、エゴの綺麗な声がスキルの合間合間にそう語り始めた。ゴーレムとの彼我の距離は、徐々に狭まっていく。


「だってそうでしょ? この世界はゲームで、システマチックで、『効率』で物事を語っていいんだ。僕らのいた世界では、できなかったことだよ。僕はこの身で、大人と同じような抵抗を許してもらえるんだ」

「私には分かるぞ、付与術師。君の目の色は、遅咲きのアサガオに似ている。居場所のなかった者の目だ。私はそれを、よく知っている」

「分かっているよ。僕は異物だ。僕を生んだ人が、僕を愛さなかったのも、仕方ないことだ。僕はこんなにも、ゲームに慣れてる」


 二者は至近距離でもつれ合い、情熱的に踊っている。淡々としたエゴと演技がかったクウシンサイのやりとりを背に受けながら、シオリはゴーレムの至近距離まで到達する。巨大な体躯から振り下ろされる拳に恐怖を感じはするが、決して焦ることなく、そのすれすれのところを見据えて半歩飛び退る。


「だけど、効率だけじゃ『足りない』と分かっているのは、データに詳しい僕より、比較的新米のヴィクトールや、設定好きのレンダリルみたいなんだ。難しいね」

「その心は?」

「『効率も一つの解法でしかない』ってところかな。この世界は、ゲームの一側面を持っているに過ぎない。ともあれ、僕はまだ無知みたいだから――」


 その瞬間に、シオリは道が拓けるのを肌で感じた。ゴーレムが振り下ろした拳を持ち上げた先に、巨躯を支える二つの足があり、ぽっかり空いた空間があった。迷いなどなかった。彼女は叫びながら距離を詰め、スライディングをして、ゴーレムの股下をくぐる。彼女が先ほどまでいたところには、もうゴーレムの拳が叩き込まれている。敵を追い、足元のアリを小突くように動かす様は、シオリでもぞっとするほどリアルな挙動だった。けれど、その動作をしながら、ゴーレムが『振り返る』瞬間を、誰もが待ちわびていたのだ。


「ヴィクトールぅぅっ!!」


 シオリは彼の名を叫んだ。それと同時に、エゴはこう言い切るのである。


「僕らが秋より先にある楽しいこと、たくさん見つけて、いっぱい素敵になるよ。だから、ごめんね?」

「〈ミスティカルパス〉――!」


 ヴィクトールが踏み込んだ。遺構に宿った数多の〈アルヴの追憶〉に背を押され、彼は影から影伝いに転移するかの如く、ゴーレムの背後まで駆け抜けた。彼のハーフアルヴの身体は、〈妖精の輪〉の力を知っている。彼のカースブレイドの心は、呪われた物品に至るまで、彼の機転を行き渡らせる。ゆえに、彼を阻むものはない。


《うわーっ! あったぁ!! でっかいけどモロに電池と電池ケースじゃん!!》


 彼は、ゴーレムの背中を見た。きっとそこに、〈旧世界〉の電池そっくりのバッテリーを見つけたのだろう。彼の身体はあっという間にゴーレムに飛び乗って、その背中にくっついた電池を蹴り飛ばす。暴れるゴーレムに振りほどかれぬよう、しっかとパーツを掴み、がこん、がこんと音を立て、クウシンサイの側へ電池を転がしていく。おそらく、あの電流は、もう放てない。


「舞台装置は『電池切れ』のようだが、どうするかね。魔人殿」


 レンダリルがそっと問いかける。魔人クウシンサイは、懐に入ったエゴも気にせず、マントを翻し、笑って種を撒こうとした。それが答えだ。それでよかったのだ。彼は身振りで、最後まで悪役を演じきると宣言した。あとは、エゴとゴーレムから電池を蹴り飛ばしたヴィクトールが、声を重ねるだけだった。


「〈ソーンバインドホステージ〉!」

「〈囚われた獅子のダージュ〉!!」


 先に発動するのはエゴのソーンバインドホステージだ。絡みつく光の茨が、クウシンサイの動きを止めた。そして、エゴがするりと離れたその直後に、一度決め損ねた大上段の一撃をヴィクトールが決めた。エレキギターのうなりを上げて、衝撃波がクウシンサイの身体をまっすぐ突き抜ける。


「ぐああぁぁぁぁっ!!」


 遺跡じゅうに届きそうな叫びと共に、クウシンサイは炸裂する茨の光に飲まれていった。そのHPが0を示す。その時、シオリは丁度、ゴーレムが振りかざす拳を、いよいよ自力で受け止めねばと大太刀を構えたところだった。

 ゴーレムの動きがシオリすれすれのところで止まり、急な静寂が訪れる。クウシンサイの在ったところには、朝顔を模した護符と、大きな朝顔の種がころんと転がっているだけだった。彼は、何も語らず、ただ大ボスとして倒される道を選んだのだ。それが、魔人の持つ矜持であったのだろう。

 誇り高く、最後まで、楽しい、素敵な魔人だった。


「うん。楽しかったよ、クウシンサイ。また、夏になったらおいでよ」


 エゴの相変わらず感情の見えない、しかし、いつもよりは柔らかめの声がすれば、戦いが終わったと残りの三人も悟った。シオリは衝動のままに、大太刀を振り上げた。ヴィクトールも、楽器を掲げて応じた。レンダリルは額の汗を拭い、安堵の息をついている。フォーカードの面々は、ついに〈サマー・フェスタ〉の王を討ち取ったのだ。

 今度は、誰も死に瀕していない。今のこの状況だけ見れば、文句なしの完全勝利といえた。


「後はバルビレッジが何をしでかしてくるかだけど」


 あんまりにもエゴがさっぱりとして『次』を求めるので、シオリとヴィクトールはちょっと恥ずかしくなって武器を下げる。その様子に、レンダリルがつい吹き出して、力なく笑ってしまう。


「あっ、こいつ笑ってやがる! さっきまでずーっと黙ってただろ! 詠唱の合図もしないで!」

「あはは、キャラ被りをしていたからな。黙っていても、ことは進むだろうと思って静かにしていた。すまないな」


 むくれるヴィクトールに、レンダリルが笑い返す。でも、結局二人はハイタッチをするのだ。とりあえず、一勝と。


「あんまりのんきに構えてもいられないね。一旦、出よう!」


 それが本当にただの一勝でしかないということは、地響きが伝えてくれている。何か地下への道はないかと探すシオリだったが、これ以上の探索で天井が崩れる方が先だと、すぐに判断を変える。大太刀を鞘に収めて、ボスドロップの護符〈モーニング・グローリー〉と、転がったままのアサガオの種を引っ掴んで走り出した。

 恐ろしい農園の長い長い夜が明けて、空はいよいよ青さを取り戻しつつあった。

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