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ログ・ホライズン二次創作~フォーカード・バグフィックス!~  作者: mahipipa
第四章 サマー・フェスタと災厄の農園
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<コバートウォーク>

《来た。手筈通りに行くよ……駄目だったら、僕がヘイスト使ってヘイト集めるから、その隙に行って》

《エ~ゴ~く~ん……君はヴィクトールにあんなことを言っておきながら~生き急ぎすぎではないかね~》

《最悪に備えてるだけだよ》


 エゴの念話が丁寧に他の三人に送られる。レンダリルも文句を言うが、彼女に従っている。彼らは路地裏で息を潜めて、スイカスケルトンが前を横切るのを待った。雨に濡れた砂利を踏む音が、一歩、また一歩と迫ってくる。

 今後のことを考えれば、できるだけ疲労は避けたい。シオリは試行回数が少ないことを祈りながら、スイカスケルトンが狙いの場所に踏み込んだ瞬間、飛び出した。

 さて、セルデシアは、エルダー・テイルの法則に則っている。翻って、全ての法則がゲーム通り正しく行われているかと問われれば、答えはNOである。この世界は地球に存在した当たり前の法則――すなわち、料理に慣れたものが手料理をすれば料理ができるというルールが同時に存在する。

 つまり、戦闘以前に『熟練の冒険者が魔物をとっ捕まえて、身ぐるみを剥ぐ』という行為は、そこそこに保障されている。では、スイカスケルトン相手に追い剥ぎをしよう。というのが、エゴの最高のアイデアだった。

 四人はダメージを入れることを諦め、ドアの前を横切ろうとしたスイカスケルトンを捕まえ、家屋に引きずり込んだ。そして、縛り上げた上で、被ったピカピカもとい、カピカピのスイカの皮を奪い取ったというわけである。


「よし、まず一個!」

「あと三つ! うおおおスイカの皮マラソンしてやらあ!」

「いけーっ! 羅生門もびっくりの剥ぎっぷりを見せつけてやれー!」

「あんたもやるんだよ!」


 かくして、長時間の奮闘の末、フォーカードは乾ききったスイカの皮を被り、路地に駆け出す。当然、スイカスケルトンと鉢合わせする。四人に緊張が走る。だが、スイカスケルトンは同族と思ったのか、こちらのことなど気にせず歩いていく。作戦は成功だった。


「……何やってるんだろうな、俺たち」

「正気に戻らないでくれよ、ヴィクトール。うう、私はスイカ、スイカ・ブシ……」


 雨に濡れたスイカの皮から、青果物特有の夏の匂いが染み出してくる。しかし、悠長なことは言っていられない。シオリは自らの正気に言い訳をしながら、先陣を切って裏路地を進み始めた。

 もちろん、エゴの提案で『スイカを被った者がスイカスケルトンを叩いたらサマー・フェスタ装備の扱いにならないか』というのを実験した。だが、それは通らなかった。いくらなんでも、生存している冒険者を全員見つけて、スイカの皮を配るわけにもいかない。それならばと、酔っ払いオオトラ亭まで四人は再び雨の中を走り始めたのだった。

 雷鳴はなお激しく鳴り響き、お世辞にも夏祭りの風情があるなんて言えない状態で、彼らは風雨に揺れる酔っ払いオオトラ亭の古びた看板を見上げる。スイカスケルトンはごまかせた。あとは、サマー・フェスタ装備までの経路を確保するだけだ、と。

 乾きかけていた服が冷たい雨を吸っていく。だが、シオリの髪は戦いの気配が迫るにつれて、徐々にざわめきつつあった。


《エゴ。首謀者がいるとして、それがオオトラ亭にいると思う?》

《僕はそうは思わないかな》


 雨で声が掻き消されないように、シオリはエゴへ念話で問いかける。いつものように感情を見せない雰囲気ではあったが、わずかな間が、彼女もまた解決に向けて頭を捻っていると伝えてくれる。


《金銭目的。考えられなくはないね。アイデンティティのため。ちょっと後先考えなさすぎ。そもそも、オオトラ亭を乗っ取ってアイテムを総取りするんなら、冒険者はどこに運ばれてるの? 追い出すだけでいいと思うんだけど》


 おおむね、シオリの予想と同じ答えが返ってきた。シオリも、あの気の毒な冒険者たちがどこに運ばれているのか興味はあった。レンダリルとヴィクトールにも念のため同じ念話を送ってみたが、二人もほぼ同じ見解だった。

 オオトラ亭は通るべき中間地点セーブポイントでしかないのだ。泥水を跳ね上げて走る彼女は、十分に覚悟した。だから、風雨に揺れるぼろの扉を蹴り開けて、中に飛び込むことができた。


「来たぞ! この騒動の仕掛け人はどいつだ!」


 武士らしく声を張り上げ、彼女は首謀者を知るものを訊ねた。


「よぉ、冒険者! ようやく来てくれたか。ヒマでヒマで死んじまうとこだったぜ、っと!」


 それに応えたのは、二階の階段に大股を開いて座る一人の戦士だった。耳障りな声で呼びかけると、それはぎらぎらに装飾が施された金の鎧を鳴らして立ち上がる。宝飾は得てしてきらびやかと表現されるものだが、それの鎧は過剰すぎて下品と表現するにふさわしい。腰から下げたレイピアもまた然り。ここまで見ただけなら、悪趣味な冒険者かとシオリだって半目になったかもしれない。だが、誰もそうしなかった。その戦士の頭は、ぎざぎざとした鋭い口――いわゆる、蚊をデフォルメしたかたちだったからだ。

 それは、背中の羽を軽く動かしながら、声を発した。


「オレはイディズ! お前ら風に言うならイベントボスってやつだ! ようこそ、恐怖と混乱の夏祭りへ!」

「話せるんなら話は早いぜ。殺す!」

「サマー・フェスタ装備もなしにか? オレがいなきゃ、二階に行けたのに残念だったなァ!」


 ヴィクトールが己とレンダリルのスイカを剥いで床に叩き付け、叫ぶ。蚊の亜人型モンスターは不快な笑い声を口器から出しながら、ぎょろっとした目で階段の上を見やる。エゴがどうくぐり抜けるか考えている横で、レンダリルが腕を組み、口を開く。


「お前は、自分がイベントボスだと認識しているのか?」

「そうだとも。お前等を楽しませるために作られたと聞いた時は耳を疑ったがな。だが、そうだとこの身体は言っている。じゃあ、そうなんだろう。お前と同じだろ、法儀族だいたいひん


 むっと眉を寄せるレンダリルに向けて、イディズはゆるく指を立てる。


「イシシッ、俺たちは楽しんでほしいのさ。とびきり刺激的で忘れられない夏を作りたくて仕方がないんだ。だから、一等賞で到着したお前らにイベントマッチを申し込む!」

「イベントマッチねえ……」


 刀に手をやったまま、シオリは相手の提案を待つ。イディズはキンキン声で、こう説明した。


「お前等が欲しくて欲しくて仕方ないサマー・フェスタ装備は二階にきっちり保管してある。でも心配無用! 優し~いオレは、それを取りに行かせてやる! ただし、二人だ。残りの二人はここで残って、オレと遊んで貰うぜっ! 二人犠牲にしてくれりゃ、二人は助かるってわけだ。な、胸がかゆくなるぐらいドキドキするだろ?」


 イディズは軽く身体を揺すってレイピアの存在を主張する。シオリはちらとエゴに目配せをした。念話も必要ない。エゴは小さく頷いて、ゆるりと濡れたワンピースもそのままに前に出た。


「一人は僕が行く。忍び込むのは得意だからね」

「じゃ、残り一人を選びな。おっと、後続を待とうなんてケチな真似してくれるなよ?」


 シオリもそれは考えていなかった。ここは酒場である。外のように縦横無尽に戦うには、大人数では狭すぎるのだ。だからその代わりに、イディズの前に一歩出た。このモンスターがいかほどの力を持つかは未知数だが、どの道『猛攻を防ぐ』なら、タンクの仕事だろう、と。


「小さな狼ちゃんはオレと遊んでくれるのか。嬉しいね! さて、野郎二人はどうするよ!」

「私が残る。ヴィクトール、行きたまえ」


 視線だけを向けて、レンダリルがヴィクトールを急かす。


「だけどボスだろ! あんたじゃ死んじまうかもしれないんだぞ!」

「DPSとタンクでは戦線の維持はできんよ。何、君とエゴが早めにことを済ませてくれれば、こちらも楽できるというものだ。違うかね?」


 ヴィクトールは逡巡した。口を噤んで、瞳を揺らし、ほんの数秒だけ押し黙った。


「……っ、しっかり持ちこたえろよ! ヒョロヒョロだってこと、自覚しとけよ!!」

「頼んだぞ、若人たち!」


 けれど、一足先に階段に足をかけていたエゴの手を引いて、階段を上がって行く。エゴは〈ヘイスト〉をレンダリルに掛けて、後はヴィクトールと共に駆け上がる。シオリはその背中を見送って、改めてイディズに向き直った。

 己を奮い立たせれば、狼牙の髪がざわめく。居合いの型を取りながら、彼女はただ、宣言するだけだ。


「さて。こっちのメンバーは決まったよ……では、死合おうか」

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