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ログ・ホライズン二次創作~フォーカード・バグフィックス!~  作者: mahipipa
第三章 ギルド「ああああ」とMMOにおける"最害"なるもの
15/31

<飯綱斬り>

「お前は、誰だ? 私は、お前を見た事が、ある……? 違う、お前のようなモンスターは、記憶には……」


 レンダリルは震える声で、ナントゥルへと訊ねた。シオリも、彼の様子がおかしいということは一目見て分かっていた。彼の明るい緑の双眸が揺れている。ナントゥルもまた、レンダリルを見たまま動こうとしない。二者の間にだけある異様な雰囲気に、シオリの髪がざわめく。

 戦いの前だというのに、耳が痛むほどの静寂があった。その中で、彼の呟きだけが、明瞭にシオリの耳へと届く。


「どこで? いつ? あのとき、肩が、ぶつかった……ような、あのとき? わ、わたし――『おれ』、は」


 不意に、葛藤していた彼の瞳が、ふっと力を失う気配を帯びた。それこそ、冒険者が誰しも持つ『魂の自重を支える翼』が折れるような、ほの暗い死の気配が彼を覆った。シオリの髪が、そのおぞましい予兆に逆立った。


「レンダリル! だめだ!!」


 シオリはとっさに彼の名前を呼んだ。訳の分からない衝動が彼女の中にあった。ただ、彼を放っておけば、何か致命的な状態になってしまうような、ぞっとする予感が胸中に沸き上がっていた。

 呼びかけられたレンダリルの焦点が合う。はっと息を呑んで、彼は構え直す。


「っ……すまん、取り乱した」

「大丈夫。ハートビートヒーリング、お願い」

「承知した。行こう!」


 ハートビートヒーリングが迷いなくシオリに掛けられる。緑の光が彼女を包み込む。それは、いつも通りのエフェクトだ。彼女はほっとして、大太刀を引き抜いた。ナントゥルたちが動き出したのは、それとほぼ同時だった。

 シオリが武士の挑戦でヘイトを引く隣で、エゴは揺らぐ影たちに指を差し向ける。だが、彼女はすぐ、うっとうしそうに目を細める。


「ん、柱が邪魔で射線が通らない……うわわっ!?」


 ナントゥルが何事かを唱える。その動作を視界の端に捉えていたシオリは、ほとんど反射的にエゴをかばった。

 それはほとんど一瞬のことだった。ナントゥルを中心に空気がさざなみのように揺れたかと思うと、呪わしい気を帯びた衝撃波が巻き起こる。同じものが柱からも共鳴するかの如く放たれて、冒険者たちを巻き込み、爆ぜる。そのスキルを、シオリはよく知っていた。


「ああーっ! あいつっ、俺の技をっ!!」


 ヴィクトールが叫び、指を差してナントゥルを糾弾する。それは、間違いなく囚われた獅子のダージュだった。シオリは髪を逆立てた影から放たれる棘を刀で弾きながら、必死に頭を巡らせる。


(どういうことだ? さっき出てきたのも〈武士〉と〈吟遊詩人〉だった。こいつは、ナントゥルは少なくとも飯綱斬りとダージュを持ってる!)


 彼女の中に疑惑があった。その直前に攻撃されたのは、まさに武士の自分と、吟遊詩人のヴィクトールだった。エゴがマインドボルトの魔法を放射し、影たちを攪乱しようとしている時も、彼女は防御に徹しながら思考を続けていた。


(こいつ、まさか私たちを『模倣』しているのか!?)


 結論が出たのは、ヴィクトールがレンダリルと連携を取って柱の破壊に向かったと同時だった。


「癒やし手まで攻撃に駆り出されるとは、忙しい職場で涙が出るな!」

「俺ら決め手が飯綱斬りとダージュしかないからな……ほら、固定資産税が掛かりそうなアレから解体するぞ!」


 猛攻のプレリュードを響かせながら、ヴィクトールが柱の前に陣取る。レンダリルが鞭を振るい、飛び掛かろうとした逆毛の影に牽制を掛ける。武士がヘイトを取得できる範囲が他のタンクより少なくとも、元よりヘイトを稼いでいたシオリの範疇まで転がせば関係はない。揺らめき、マインドボルトのデバフに惑う影法師が、シオリの方へと飛び掛かる。


「エゴ、ヘイトを稼がないような手、ない?」

「んん……〈インフィニティフォース〉からの〈メイジハウリング〉」

「決まり。打って出る!」

「ん、了解!」


 シオリもエゴと息を合わせ、一気に踏み込む。戦いは一瞬にして、多面打ちの様相を呈していた。エゴがスキルの名を唱え、小さな胸に息を吸い込む。


「あぁぁぁ……――!!」


 彼女の甲高く、どこか艶を帯びた咆哮が部屋一杯に反響する。シオリに飛び掛かろうとしていた影法師が、その圧に吹き飛ばされる。あとは、シオリが大きく飛び掛かるだけだ。


「〈飯綱斬り〉!!」


 抜いたままの大太刀を、振り下ろす力と技のままに影の頭蓋に叩き込む。未だ尾を引くエゴの叫びがひび割れた頭蓋に容赦なくめり込む。めきめきと音を立てて、影がひび割れ、爆ぜてただの染みになる。


「っん!」

「ありがと」


 口を閉じたエゴに感謝の一言を告げながら、シオリは彼女と共にヴィクトールたちとは別の方向へと走る。柱の側から、ゆらりとナントゥルが姿を現す。その手に握ったシオリと同じ大太刀で、シオリと同じ構えを取る。

 シオリはその刃を受け止めるよう、自らの刀を翳す。彼女の予想通りの太刀筋で、飯綱斬りの一撃が振り下ろされる。受け止めはするが、手がびりびりと痺れるほどの圧がある。力の掛け方の癖まで同じだ。


「っ、く……こいつっ! 何から何まで私の真似を!」


 鍔迫り合いをしながら、シオリは苦々しい顔でナントゥルを睨んだ。シオリだからこそ分かる。自分の構え、自分の太刀筋、ナントゥルはやはり全てを真似てきている。シオリの中に問いは生まれ続ける。だが、目の前の怪物は躊躇うことなくシオリの刃を弾くと、今度こそとばかりに飯綱斬りを振り下ろす。

 重たい金属同士がぶつかり合い、火花を散らす。


「レベル差と手数で思ったよりヘイトが伸びる。レンダリル、念のため僕と君のヘイトコントロールお願い――〈ヘイスト〉!」

「承った! 〈パシフィケーション〉と〈カムフラージュリーフ〉の切り時というやつだ!」


 わずかな隙をついて、エゴがレンダリルの行動を加速させる。彼は立てた人差し指の先に、ふっと息を吹きかける。あたりにシダーウッドの香りが駆け抜ければ、エゴの上がりかけていたヘイトがふっとなりを潜めていく。彼女はそのまま一度シオリの側を離れ、速やかにヴィクトールたちの側へと向かう。


「エゴ、こっからどうするんだ!」

「まだ柱が邪魔だから僕らは影法師と柱の除去を続行。シオリには悪いけどワントップでナントゥルと張ってもらうのがベストかな」

「それじゃ、解体作業続けるか! 本場のダージュってやつを見せてやるぜ!」


 柱のHPを削り続けていたヴィクトールが、ぎゃんと竪琴を鳴らした。それがもう、彼の必殺技の前兆だということは、もう皆が理解している。


「一芸特化! 〈囚われた獅子のダージュ〉!!」


 猛攻のプレリュードのバフが乗ったダージュの衝撃波が、ぼろぼろになりつつあった柱に叩き込まれる。その一本が、ついに悲鳴をあげて崩れ始めた。乾いたインクの塊が、天井から音を立てて落ちてくる。

 しかし、影法師たちは柱が崩れるその時を待っていたかのように、その毛をいっそう逆立てて、針のように噴出させた。


「させる、かっ! 〈叢雲の太刀〉!」


 シオリは鍔迫り合いをしていたナントゥルを押しやり、大太刀を納刀して狼牙の脚力のままに仲間のところへと飛びつく。無数の針を、居合抜きの圧で吹き飛ばす。危うく針山になりかけたレンダリルと背中合わせになり、小さく息をついた。


「すまない、助かった」

「これが仕事だからね」


 ささやかな言葉を交わせば、互いにそこにいると信じられる。それで十分だと、胸が温かくなる。レンダリルがいつものようにリキャストタイムを詠唱で教えてくれる。タイミングも十分だった。

 ゆっくりと、ナントゥルがシオリたちの方を見る。軽く竪琴のチューニングをしていたヴィクトールが、その輪郭を見据え、弦に指を掛ける。


「人の真似ばっかりしやがって! 中身はないのか、中身はっ!!」


 そんな罵声と共に放たれるダージュの音と呪いの波が、ナントゥルを貫通する。だが、それは光の茨が爆ぜてなお、動きを止めない。ゆっくりと大太刀を垂らしたまま、崩れる柱を背景に歩いてくる。


「……っち、なんだあいつ、マジでただのモンスターって見ていいわけ?」

「それは僕も気になってる。なんだか異様ではあるんだけど、かえってスカスカっていうか……叩いた感じしないっていう、かっ」


 どさくさに紛れてシオリに飛び掛かろうとした逆毛の影法師をパルスブリットで撃ち抜きながら、エゴが懐疑の眼差しをナントゥルへ向ける。


「これがノウアスフィアの開墾で実装されたボスなら、せめてこう、もうちょっと演出がある気がしてな」

「それ。『何もなさすぎる』んだ」

「自分との戦いとかだったら、なんか台詞くらいならありそうだもんなあ。沼地の王の方が口数多いぞ」


 唸るレンダリルとエゴ、そしてヴィクトールの言葉を背中で聞きながら、シオリも頷いた。

 ナントゥルは立ち止まると、シオリへと手を翳した。手の先に黒いインク塊が凝縮され、打ち出される。シオリは奥歯を噛みしめ、刹那の見切りと同時に踏ん張る。両断されたインク塊が、仲間の遥か後方まで飛んで床に潰れ、粘性質の音と共に腐ったにかわの香りを漂わせる。シオリはちらと自らのバフの残り時間を確認する。


「模倣というのは、その程度かい?」


 まだ一言二言声を掛ける時間はある。シオリは大太刀を自らの顔の横で構えて、ナントゥルを挑発する。それは一切、言葉を発さない。だが、明確にこちらを見つめている。

 得体の知れない違和感。シオリが無形のナントゥルから感じるのは、間違いなくそれである。沼地の王のことを考えれば、ゲーム当時のただのモブのようでさえある。いっそ『作り物すぎる』。彼女の中で、疑念は渦巻き続けた。


「模倣品は、しょせん模倣品ということかな」

「……」

「ならば、本物の飯綱斬りを見せる。それだけだよ」


 結局、期待する言葉は返ってこなかった。ナントゥルはただ、刀を持ち上げる。シオリは髪がざわめくほど不快なそれを見据え続ける。後方の仲間は振り返らなかった。彼らは彼らの為すべきことができる。

 しんじるこころと、ふみだすゆうき。今、必要なのはたったそれだけだ。


「おおおおおぉぉッ!」


 狼の遠吠えがインクに汚染された部屋に轟いた。足に力を込め、シオリは太刀を構えたまま、一気にナントゥルへと詰め寄る。猛攻のプレリュードとハートビートヒーリングが、彼女の背中を押す。目の前のナントゥルの足元から光の茨が吹き出す。エゴが支えてくれている。このチームは一人一人が非力だからこそ、タンクだから守りに徹するということはできない。全員で、一丸になる必要がある。シオリは刃を振り上げる。タンクとは、結束のための旗手なのだとばかりに。


「〈飯綱、斬り〉……!!」


 自分そっくりの防御の構えを取るナントゥルに、シオリは迷いなく大太刀を振り下ろした。火花が散る。ぎちぎち、がちがちと、お互いの大太刀が折れてしまいそうなほどの圧が掛かる。ナントゥルもまた、刃を押し上げてシオリを弾こうとしている。シオリはただ、牙を剥き続ける。その腐ったインクの肉の最奥に、己のあぎとが触れるまで。


「くら、ええええぇぇッ!!」


 全体重を掛け、シオリは絶叫した。ありったけのバフを背負った彼女の一撃は、鍔迫り合いの末にひとつの亀裂を生み出した。

 ヒビが入ったのは、ナントゥルの大太刀の方だった。初めて、それは目を見開いた。

 そこからはもう、あっという間だった。彼女の肉厚の刃はナントゥルの頭を捕らえ、そのまま股下までを一気に引き裂いた。溢れ出るのは血ではない。死んだ時のエフェクトでもない。腐汁に等しい黒のインクだ。うめき声さえ上げず、それは両断され、二つのインクの水たまりになって弾け飛んだ。


「はあ、はあっ、はぁ……っ」


 刃に付着したインクを振り払い、シオリは素早く仲間たちのいるところへと後退した。エゴたちも影法師を刈り尽くし、様子を伺っている。


「やったか?」


 最後の柱の破壊を目で見て確かめていたヴィクトールが竪琴に指を掛けたまま、インク塊を凝視する。


「分からない。HPゲージはからっぽだけど……」


 肩で息をして、エゴがナントゥルの残りHPがないのを再確認する。


「……」


 レンダリルだけが無言だった。飛び散ったインクの染みから目が離せないといった様子で、立ち尽くしている。誰もが漠然とした違和感を抱えたまま、構えを解こうとした。その時だった。彼が叫んだのは。


「違う! あいつは死んでいない! 〈自己蘇生リバースセルフ〉から仕掛ける気だ!」


 シオリの中で謎が氷解した。HPゲージはからっぽでも、無形のナントゥルは消えたわけではない。『まだそこにいる』。この状況から動き出す手立てを持っている。

 露見したかとばかりにインク塊が蠢き、一つにまとまってうねり始める。彼女は大太刀を構え、もう一撃と一歩踏み出す。


「シオリの命も、ヴィクトールの歌も、レンダリルの心も、君にはあげられない――」


 しかし、シオリより先に動いたものがいた。


「まだ、やる?」

「エゴ!」


 それは、エゴだった。シオリの制止も聞かず、ゆっくりと白いワンピースの裾をなびかせて、彼女はインク塊の前に出る。

 インク塊は震えて、形を為そうとする。彼女の首に両手を回して、くびり殺そうとするかのように、肉体を形成しながら液体を伸ばす。その腐ったにかわの香りが混じる吐息が、彼女の顔に掛かるか掛からないかのところで、彼女は悲しげに首を横へと振った。

 そして彼女は、まだ輪郭も不安定なインクの頭部に向けて指を突き付け、最後に一言スキルを宣言した。


「〈ヴォイドスペル〉」


 全ての魔法を虚無へと還す魔法攻撃職の切り札。彼女が唱えたのは、そんな魔法だった。インクの頭部、その口のあたりが、自己蘇生を失ってはくはくと動く。虚無に魔法が力を失っていくのと同時に、少しずつ崩れて、蒸発していく。かたちになりかけた指先も、腕も、脚も。全ては影のごとき染みに還り、ほつれて床へと吸い込まれるように消えていく。

 最後には、どうしてと言わんばかりに手だけが残って、沈むように消え、霧散した。後に残るのは、ガラス片と不安定に落とす空間と、最初に見た端末だけになった。

 ナントゥルは、撃破されたのだ。


「今度こそやったぁぁ……」

「そうだね……僕も、つかれた……」


 ヴィクトールの気の抜けた声を聞き、エゴも今のヴォイドスペルが最後の力だったとばかりにその場に座り込む。


「あともう一仕事あるがね。やれやれ、本当にいつもギリギリだな、我々は……」

「ほんとにね」


 レンダリルが額の冷や汗を拭って呟く。疲労困憊のシオリもエゴのところへいって、手を差し伸べる。


「立てるかい。手を貸すよ」

「ありがと。そうだね、もう一仕事あった」


 手を取って立ち上がったエゴは、懐からきらきらと輝く黄金の羽根ペンを取り出した。

 四人の冒険者たちは、揃って端末の側へと歩み寄った。ナントゥルのインクに侵食され、ぼろぼろになった部屋の出口は、もうどこにもない。


「先に、僕らのサブ職業を戻さないとね。これでいいのかな」


 エゴは黄金の羽根ペンで、領主のところに正しい職業を書き記した。彼女がペンを走らせる度、かすかにきらめく赤いインクが画面の中へと吸い込まれていく。

 まず、エゴのサブ職業が領主から学者へと戻る。彼女はほっと息をついて、残る全員のサブ職業の修正に入る。


「お? よしよし、やっぱ俺はこれだよな! 呪われしハーフアルヴの詩人、復ッ活!」

「そういう設定なの?」


 サブ職業がカースブレイドへと戻ると、ヴィクトールはエゴの横目も気にせずぐっと拳を握った。


「うんうん。やはりこうでなくては」

「料理人ないとこの先キツそうだしね」


 シオリとレンダリルのサブ職業も料理人に戻り、二人は顔を見合わせて安堵の表情を浮かべた。彼女たちを取り巻く不穏な疲労感も、嘘のように消滅する。

 だけれども、冒険者たちには気がかりなことがあった。改めてやって来た道を振り返る。


「ないな、出口」

「なくなっちまってるんだよなぁ。どうする?」


 今にも崩れそうなガラスの空間と、その隙間から時折こぼれ落ちる金の砂。あとは、押し潰されたり壊れたりで、めちゃくちゃになった部屋がある。とてもではないが、走って戻れそうにはない。シオリはヴィクトールとレンダリルに視線を向けたが、どちらにもアイデアはないようだった。


「んん、自由入力もできるみたいなんだけど……三つの単語だけなんだよね」


 ただ一人、画面をずっと見つめていたエゴが、不意に呟いた。冒険者たちはめいめい画面を覗き込む。


「つまり、『三単語で外に出られるアイデアを出せ』ってことか」


 ヴィクトールがぽんと掌の上で拳を打つが、すぐに眉を下げる。


「でも、俺たち四人だぜ?」

「名前を羅列するだけでは効果はないだろうなあ」


 そうは言ったものの、レンダリルも腕を組み、唸っている。頭の中で必死に言葉を組み立てているのか、どさくさに紛れて呼ばれたマイコニドにも応じることができていない。この時にも、天井や壁は悲鳴を上げている。焦り始めたヴィクトールが、落ち着きなく視線を巡らせる。


「やばいやばいやばい、急がないとっ! あーと、じゃあ……『冒険者』『移動』『イズミ』!」

「それ冒険者がイズミに殺到するんじゃない?」

「よし。『冒険者』『転移』『最後に訪れた街』だな!?」

「いやいやいや、移動中の人どうなるんだい、それ」

「じゃあシオリは何かあるのかよーっ」

「うぐぐ、そう言われると厳しい。ううん、エリアが隔絶されてるから範囲指定はだめか……」


 シオリが首を横に振る間も、エゴは黙々と考え続けている。とはいえ、彼女も自分の頬のあたりを羽根ペンの羽で撫でて眉を寄せたままだ。


「『我々』では通らないか。うーん、我々を示す言葉があればいいんだがな」

「!」


 苦悩していたレンダリルのその言葉を聞いて、ぱっと顔を上げたのはエゴだった。彼女は身を乗り出して、レンダリルに顔を寄せる。


「レンダリル、今、何て?」

「え!? いや、我々を示す単語がないなと思ってな」

「それ! それだよ!」


 びっくりして目を白黒させるレンダリルにそう答えて、エゴは落ちるガラスも気にせずに何度も頷いた。そのやりとりで、思案の沼から出てきたシオリも顔を上げる。


「……そうだ。ギルドだ!」

「そうか、ギルド! 誰か入ってるか!?」


 シオリも皆のステータスを見て確かめる。四人はギルドに入っていない冒険者たちばかりだった。それならばと、冒険者たちは頷いた。

 『ここで自分たちのギルドを仮結成すればよい』と。


「でもギルドの名前はどうするんだね!?」

「そんなもんあとで変えりゃいいだろ! エゴ、A連打! 『ああああ』だ!!」

「う。おっけー」


 ちょっと嫌な顔をしたが、エゴは素直に従った。ステータス画面を開き、Aを四つで『ああああ』と入力し、四人の承認をもってギルドを結成する。また一つ、巨大なガラスの破片が天井から降り注ぐ。もう時間はない。四人は、覚悟を決めて身を寄せ合った。


「書くよ!」


 エゴが黄金の羽根ペンを走らせる。

 《ギルド:AAAA》。熱を持つ金の砂が、いよいよ濁流になって部屋に注ぐ。

 《転移》。砂の圧力でガラスのヒビがより深くなり、音を立てて天井が崩落を始める。

 ――《イズミの街》!

 黄金の羽根ペン先でエゴがそう記した瞬間、冒険者たちの視界は眩しい光に包まれた。崩れゆく全ての景色が白に飲み込まれて、何も見えなくなる。


 何もかもが光に消えゆく中、目を閉じたシオリは彼方から、さざなみが近付く優しい音を感じ取っていた。

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