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ログ・ホライズン二次創作~フォーカード・バグフィックス!~  作者: mahipipa
第三章 ギルド「ああああ」とMMOにおける"最害"なるもの
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<ハイドシャドウ>

「気を付けて、こいつ何だかヤバい!!」


 エゴが叫ぶ。

 うねる影が、それぞれ〈武士〉と〈吟遊詩人〉の初期装備を手から発生させて、駆け寄ってくる。もはや、これで和解ができると思っている人間は誰一人いない。


「〈武士の挑戦〉!」

「行くぞ、〈プレリュード〉!」


 素早くシオリがヘイトを引き寄せ、前に飛び出す。それと同時に、ヴィクトールが竪琴をかき鳴らし始める。


「こ、のっ……〈飯綱斬り〉!!」


 シオリは勢いのままに大太刀を振り抜いて、武士の姿をした影に肉厚の刃を叩き込む。


「うわっ……」


 シオリは、その質感に顔をしかめた。建前上、固形化した液体を叩いたような気持ち悪さが、柄を握る手に伝わっていた。確かに斬ったのに、不安定に揺れて元通りに戻る。

 その一瞬の隙をついて、吟遊詩人の姿をした影がシオリに射かけてくる。


「う、ぐ……!」


 矢が自分の身体に食い込んだ時、やはりシオリは不快な感覚に包まれた。芯から疲労が滲み出てくる一方で、身体の内側にねばついたものが絡みつくようなものだ。


「〈ハートビートヒーリング〉! シオリ、まだ行けるかね?」


 緑のエフェクトがシオリの身体を包み、ゆっくりとHPを回復させていく。彼女はきっと前を見た。それを、レンダリルの返事とした。

 エゴが指先に光を灯し、吟遊詩人の形をした影に向ける。


「〈パルスブリット〉」


 パルスブリットと彼女は宣言をした。が、そのすぐ後に通常攻撃を噛ませる。仲間を支援しながら戦うことが真髄である付与術師とて、与えるダメージを少しでも増やさねば押し切られると踏んだのだろう。

 ばちん、ぱちんと弾けたその衝撃で、影が不意に崩れる。HPゲージ諸共に消滅したのを確認するが、妙な手応えのなさに、エゴは眉をひそめていた。


(どこから出てくるかも分からないし、できるだけ早く倒して先に……!)


 シオリが恐れていたのは増援だった。あたりには一面、脈打つインクがへばりついている。そこから何が出てきてもおかしくはないのだ。


「……!」


 そんなシオリの前で、武士の影が膨らみ始めた。冒険者のかたちをしたそれが針山のように変異し、突如として針の射出を始める。


「〈刹那の見切り〉!」


 奥歯を噛み、シオリはスキルを唱えて大太刀を振るった。一度、二度、三度。仲間に向けて飛来する影を全て叩き落として、影を見据える。


「シオリ!」

「私は大丈夫。こいつを……!」


 エゴの呼びかけにも、シオリは振り返らない。初めて見る敵を、じっと観察する。BOTのようなそれは、ふらふらと揺れ動いているだけだ。


「ヴィクトール、ダージュを頼む! こっちで合わせる!」

「おっけ、速攻!」


 エゴを見て閃いたのか、レンダリルが鞭を手に身構える。ヴィクトールが竪琴を握り絞めたまま飛び出し、シオリに襲いかかろうとした武士の影を捕らえる。


「喰らえ、必殺! 〈囚われた獅子のダージュ〉!!」


 奏でられた竪琴の音から、獅子の咆哮の如き衝撃波が放たれる。それとほぼ同時に、レンダリルの通常攻撃が武士の影へと叩き込まれた。それが、揺らいでいた影に対する最後の一押しになった。

 影は、何も言わずに崩れ去った。


「……」

「……」


 最初、それが戦闘終了であったのか、誰も分からなかった。あまりにもあっけなかったからだ。


「ほかにHPゲージは見えないし……多分、勝った」


 油断なく周囲を見回したエゴの一言で、残りの三人は一斉に力を抜いた。シオリも納刀するが、身体の中に染みる嫌な疲労感に、表情を堅くしていた。


「何だよ、あれ……」

「分からない、僕は見た事ない……」


 それぞれに息を切らして、冒険者たちはまっすぐ続く通路を見た。奥に行けば行くほど、脈打つインクはその密度を増している。


「どこかで食事が取れたらって思ったけど、さすがにそうもいかないか」


 シオリはため息をついた。どこからあの影が沸いて出るか分からない。それは、戦いが終わった今でも変わらない。傷口あたりは妙な痺れが残っていて、それも一層気分を悪くさせた。


「今日の食事、よりにもよってチョコマシュマロピザなんだよな」

「折角だと思ったんだが、これはアイギール邸に帰ってからだな……」


 ヴィクトールとレンダリルが料理の入った鞄を見て、苦笑いする。チョコマシュマロピザは、焦げたマシュマロの下にインクを彷彿とさせる黒さが広がっている。

 そのままピザから視線を離したレンダリルが、ぐらりと身体を傾ける。


「……っ」

「おっと、おいおい、大丈夫かよ」

「いかんな、今の戦闘でどこか掠めたらしい。だが、少し耳鳴りがするだけさ。戻ったところでこのインクの侵食が解決するとも思えないが、シオリとしてはどうだね」

「ん……」


 心配そうにエゴに観察されていたシオリは、呼ばれてレンダリルの方を向いた。


「私も奥に行くのに賛成。もう敵の腹の中と見ていいだろうしね。ヴィクトールとエゴは?」

「俺も前に行くのに一票。行けるとこまでは行こうぜ」

「僕は、シオリたちが辛いなら引き返そうかとも思ったけど……」


 エゴは皆を見回して、最終的に道の奥を見据えた。


「ここまで来て、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかないよね」

「決まりだな」


 レンダリルの一言で、皆の意見は固まった。シオリは刀にいつでも手を掛けられるようにしながら、一歩、また一歩と、脈動するインクの中を歩き始めるのだった。


「ガラスの外は綺麗なんだけどなあ」


 竪琴を手にしながらも、ヴィクトールが透明な板の向こう側を眺めている。シオリも、それは同感だった。金の砂が、底も見えない地の底へと流れゆく。その煌めきを、超高硬度地層が青く照り返す。耳を澄ませば、砂の落ちる音だけが聞こえてきそうな、静謐な――しかし、どこか寂しい景色がそこにある。


「死んだ後の世界みたい」

「案外、今のはお化けだったりしてな」


 エゴの呟きに、ヴィクトールがからかうような言葉を投げかける。そうしている間にも冒険者たちの歩みは奥へ奥へと向かっていく。そうすれば、不思議な光景もインクに覆われて、見えなくなっていく。


「うぅ……最悪……。冥界ならもっとマシなとこがいいな……」


 足元のぐにゃりとした、靴越しに屍肉を踏んだような感触に、シオリは身震いする。


「いや、お化けというのは、あながちジョークではないかもしれんぞ」


 眼鏡の奥から目を凝らし、レンダリルがあたりを見回す。


「本をあれからいろいろ読んだんだがね。〈ミラルレイクの賢者〉の説を知っているかな?」

「あ。それは僕も知ってる。〈魂魄理論スピリット・セオリー〉の提唱者だ」


 エゴの返答を聞いて、シオリとヴィクトールもそれぞれ思い返す。


「なんかクエストで出たことあるよね、その名前」

「あー……なんか、なんかそのクエスト受けたことあるかも……!」


 それぞれにあやふやな返事をすると、エゴがレンダリルの前に出ながら口を開く。


「そう、魔法エネルギーの魂、HPとか身体のエネルギーである魄。その二つで僕たちは動いているんじゃないかっていう話……復活システムを、こっち側の理論で説明したものだよね」

「いかにも……では、我々が冒険者として存在するならば、『BANされた〈冒険者〉の魂魄はどこへ行くのだろう』?」

「そりゃ、文字通り消滅したんじゃないか?」

「私はそうは思わない。少なくとも、このエリアでは」


 レンダリルはそう言って、今まで来た道を振り返った。


「削除命令を出されたとして、必ずしも、プログラムは全てのデータを抹消できているわけではない。残滓が残ることもある。ここが舞台の裏側とするなら――」

「そういう残骸が出てきてもおかしくない、ってことか」


 シオリは扉の前に立ち、静かに見上げた。アイコンタクトの後、エゴが羽根ペンをかざし、扉を開く。


「そして、おそらく。その残骸に手を付け、統率する『荒らし』がいる!」


 シオリたちに続いてレンダリルが部屋へ飛び込み、鞭を手に取り、身構える。あたり一面、蠢くインクに満たされた部屋の奥に、小さく金属質の輝きを宿す端末がある。その側には、少なくとも現在のセルデシアでは見ることの叶わない、ディスプレイと思しきガラスの板もあった。

 インクはまだ仕掛けてこない。その間に、冒険者たちはめいめいに周囲の状況を確かめ始める。うねるインクは、柱のように立ち上がり、天井さえも覆っている。


《エゴ、通路は?》

《僕たちが来たとこだけしか残ってなさそう》


 ヴィクトールが随行するレンダリルを連れて、ガラス板の方へ接近する。ぱっと映るのは、地底と思しきエリアと、この場にいる全員のステータスだった。


《お、これ操作できそう》

《そう、こうやってバグをな、一つ一つ潰すとな……新しいバグがだな……。うっ、徹夜のデバッグ……吐きそう……》


 消え入りそうなレンダリルの念話を聞いているのかいないのか、ヴィクトールは端末に指を滑らせる。


《こういうの、情報処理の授業でやったんだよなー……って、ダメだこれ》


 彼はため息をついて、シオリの方へ視線を向けた。


「シオリ、ダメだ。このあたりのエリア、まるっとデータが壊れてるっぽいぞ」

「逆に何ができそう?」

「んー、編集ってのがあるけど……やっていいのか?」


 ヴィクトールがそう言って、編集のボタンに手を伸ばそうとした時だった。


「来た、シオリ!」


 エゴが声を上げる。シオリも、部屋の異変を観測することができた。部屋が揺れ、床のあたりのインクが一斉にあぶく立ち始める。


「うおわっ……!?」


 むせ返るような腐敗したにかわの臭いを漂わせ、インクは波のようにうねり、ヴィクトールとレンダリルを押し潰そうとする。とっさに回避した彼らのすぐ側を通って、インク塊は壁に衝突し、ぶるぶると振動する。

 陣形を整える間、シオリは目を凝らし、そのHPバーを目視できる瞬間を待つ。


(来い……っ)


 それはやがて、形を為した。

 人間の青年。先ほどの襲撃と同じ、初期キャラクターの姿を取り、それは自らの手を見た。先の襲撃と決定的に違うのは、それに色が付いていることだ。

 踏み込もうとしたシオリは、殺気を察知して踏みとどまる。それは手から大太刀が発生させて、鋭い〈飯綱斬り〉を、試すように床に放つ。


「……」


 そうして、それは言葉もなく満足げに頷いた。

 揺らいでいたHPバーが、その体力と名前を明瞭に映し出す。


「――敵視認! 名前は……〈無形のナントゥル〉!」


 エゴが名を唱えると同時に、それは音のない哄笑を上げ、インクに侵食された部屋全体を震わせた。たちまちのうちに、彼の周りに毛を逆立てた影法師が浮き上がる。


「知らない名前だな……! レンダリル、〈ハートビートヒーリング〉を――」


 シオリが視線だけレンダリルに向けて、ヒールの手配を頼もうとする。だが、彼女は、その顔を見て眉をひそめた。


「レンダリル?」


 レンダリルは、どこか青ざめた顔でナントゥルを凝視していた。

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