第八十二話
しばらくの間ラハールの愚痴を聞いていたアマリーであったが、ずっとこうもしていられないと思い始めた時であった。
ラハールが小さくため息を漏らすと言った。
「どうしたら、ジャスミンに振り向いてもらえるのであろうか。」
その呟きは、誰からも見てもらえなかった自分自身を彷彿とさせて、アマリーはラハールの背を叩くと言った。
「貴方がジャスミン姫の事を大切に思っているのであれば、きっと思いは伝わりますよ。」
「そうだろうか?だが、一体どうすればいい?」
「え?えーっと、そうですねぇ。たとえば、、、、その、、、。」
何も思いつかずアマリーがしどろもどろとしていた時であった。
「ちょっと、アリー?何をしているの?」
アメリアは実は数分前から二人の様子を見ていたのだが、らちがあかない様子にやきもきして事前に決めていたアマリーの偽名を呼んだ。
アマリーは天の助けとばかりにアメリアに今までのいきさつを話をすると、アメリアの顔が見る見るうちに楽しげに変わっていく。
アマリーは背筋が寒くなり、嫌な予感しかしないが、アメリアは楽しそうに言った。
「それならば、逆にジャスミン姫にやきもちを焼かせてみてはどうかしら?」
『は?』
アマリーとラハールの声が重なって、疑問を投げかけるもアメリアは自分の世界に入り込むと、楽しそうにあーでもないこーでもないと話し始めたのである。
「いいわ!ラハール様も男は度胸ですわ!いいですわね!」
何が一体どうなっているのだろうかとアマリーとラハールは思いながらもアメリアに流されるままに別室へと促されるのであった。
別室へと移動すると、アメリア付の優秀なメイドらにアメリアは楽しげに声をかけ、話をすると、皆がきゃっきゃと声を上げて楽しそうに頷き合っている。
アマリーの背筋には冷や汗が流れていく。
嫌な予感しかしない。
「さあ、アリーはそちらの部屋へ。皆、良いわね?」
『かしこまりましたアメリア様。』
恭しく、だがすこぶる楽しそうな笑顔のメイドらに押されて、アマリーは「え?え?」と声を上げならドナドナのように連れて行かれた。
アメリアはラハールと向き合うと、執事に紅茶を入れてもらい、優雅に飲みながらラハールに言った。
「では、ラハール様。ジャスミン様へのやきもち計画を実行いたしましょう。」
ラハールは意味が分からないまま、首を傾げると、アメリアの楽しそうなその計画の話を聞いて少しばかり血の気が引いていくのであった。
「その、それは少しばかり無理があるのでは?アリーは、男だぞ?」
「え?えー、えぇ。そうですわね。でも大丈夫ですわ。」
「あれほどの腕の男をそのような、格好にさせるのは気が引ける。それに、ジャスミン姫がそれでやきもちを焼くかどうかなどわからないぞ?」
「そうでしょうか。ふふ。ジャスミン様の事は、やってみて、どうなるか、楽しみにしていてくださいな。」
上手くいく気がしない。
だが、次期王妃となる人の言葉を小国の自分が無視するわけにもいかず、ラハールは事が大きくなってきたことに頭を抱えるのであった。




