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小さな刺

 アマリーとハンスは、周りから見れば束の間の逢瀬を楽しんでいるように見えたであろう。


 そう、見た目両者ともに微笑みを携え、中庭で楽しげに会話しているように見える。


 だが、その実は。


「いえ、ハンス殿下それでは教育面はどう支援されるのです?」


「確かにそれは問題だが、問題は多方面にある。」


「ええ。そうですわね。一つの方面だけに特化しては国などもろくなるものですわ。」


「はぁ、問題が多い。」


「問題がある事は向上心があると言うことです。殿下はいずれ素晴らしい王となられますでしょう。」


「どうしてだろうか。君と話をしていると私の教師陣を思い出す。」


「そんな、恐れ多いですわ。」


「君は一体勉強は誰に見てもらっていたんだい?」


 アマリーは紅茶を一口飲んでから言った。


「ロッテンマイン先生とエルドラド先生に習っております。お二人共庭師のセバスと仲が良くて、その繋がりで勉強を教えていただけたのです。」


 ハンスはその名を聞き、思わず紅茶を吹き出しそうになった。


「は?!」


「お二人共博識なのですよ。」


「ちょっと待ってくれ。もしやアルト・ロッテンマインとエレノア・エルドラドのことか?」


「まぁ、ご存知ですの?」


「いやいやいや、その二人は。」


「ハンス殿下。アマリー嬢。昼食の準備ができたそうですよ。」


 ルルドに声をかけられたアマリーはにこやかに頷いた。


「ルルド様。今日の紅茶はミーン地方のスニフ茶ですか?」


「さすがはアマリー嬢。正解だ。」


「豊かな香りが印象的なので、とても美味しかったです。」


「それは良かった。紅茶はいろいろとあるから、楽しんでくれ。」


「はい。」


 ハンスは先程の続きが喋りたくて溜まらないが、ルルドとアマリーの会話を邪魔するのも気が引けて黙ると、少しばかりその様子を見守った。


「あと、今日のデザートはウェルズ湖の郷土菓子らしい。」


「本当ですか?ふふ。楽しみです。」


「それは良かった。」


 ハンスはそんなルルドに、氷の貴公子はどこへ消えたのだろうかと思っていた。


 何故だか、ルルドはアマリーに対してかなり柔和な態度である。


 こんな事は今まで一度もなかったのでかなり疑問に思っていると、警備をしていたテイラーがこちらへやって来てハンスに耳打ちをしてきた。


「あの、もしやと思っていたんですが。」


「何だ?」


 テイラーは真剣な眼差しでルルドとアマリーに聞こえないように囁いた。


「ルルド殿はもしやデブ専なのでしょうか。」


「まさか。」


 二人はハッとした目でルルドを見つめた。


 確かにそう言われれば、納得がいく。


 だが、ハンスは思いとどまった。


「待て待て待て。だが俺の従姉妹のシェザンヌには氷の貴公子そのものだったぞ。」


「えー?じゃあ違うのかなぁ。」


 テイラーはため息をつくと二人を見た。


 何故なのか、二人はとても気があっているように見えてとても気になる。


 そして思いついたように言った。


「なら、アマリー嬢の婚約者をルルド殿にしては?」


 その声は思いの外響き、アマリーとルルドがこちらを振り返った。


 テイラーはしまったと口をつぐんだ。


「テイラー様。」


 アマリーの目がすっと細まり、テイラーが一歩後ずさりをすると、ルルドが口を開いた。


「テイラー。馬鹿なことを言うな。」


 静かに怒りを含ませたそのルルドの言葉に、アマリーは胸に痛みを感じてうつむいた。


 やはり、ルルドも自分との婚約は嫌なのだ。


 他の貴族らのように奇異の目では見ないし、口調も優しく自分にも親切だったので、つい、ルルドは外見を気にしない人なのではないかと思ってしまっていた。


 そんなわけがないのに。


 アマリーはそこからの記憶は曖昧で、気がつけば夜になっていた。


 ため息が漏れてしまう。


 変に期待していた自分に気付き恥ずかしくなるが、今分かって良かった。


 それでも、小さな棘のように、ちくりちくりとアマリーの胸は痛むのであった。



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