五十八ノ罪 闇の後継者②
――ゴポ……ゴポ……ゴポ……ゴポ……ゴポ……。
先の戦いで、自身が操るsin僟の更なる力を表出させた傑は、再び訪れた身体の不調を整える為、Dr.アンフェールが遺した回復ポッドに入り、傷を癒やす。
金属とガラス張りで創られた堅牢なポッドの中は緑の液体で満たされた中で、傑は、先刻までのミカエルとのやり取りを思い出していた。
二度に渡る宿敵ミカエルとの戦闘は、傑にとってやっと過去の自分を乗り越えることが出来た大事な一戦ともなった。
そんな彼を心配そうに眺める者達の影が、近くに居た白狐達の目に映る。
「――ちっ、アイツら、散々俺達の事を悪魔扱いしてたくせに、自分達の都合がよくなったら俺達に鞍替えとかマジ意味わかんねぇ」
Dr.アンフェールが遺した研究室から連なる廊下の入り口に、天獸や天使によって命を堕とした者達が回復ポッドに入った傑の姿を心配そうに見つめる。
その大半は子供たちであり、橋姫が嗜める様に白狐に言う。
「やめなよ。相手はほとんどが子供じゃない。大人達に影響を受けやすいその子供たちが、今や傑の心配をしてくれるようになったってことは、もう彼等にとってあたし達はもう脅威となる存在じゃないって認められたってことでしょ?」
そう言いながら、橋姫はひっそりと此方を見る子供たちにウィンクをしてみせた。
その様子に、白狐も安堵の表情を見せた彼らに溜息を吐きながらも抱え込んだ不満を一旦は抑え込んで見せる。
白狐も内心悪いのは大人達であり、子供たちはそれに付いて行かざるを得ない状態であったことは理解している様であった。
白く整えられた長髪を搔き乱すことで抑え込んだ不満を発散し、ひっそりと見つめる子供に声を掛ける。
「いいか?今のお前達には大人っていうのは一番頼りになる存在なんだろうが、いつまで経っても近くにずっといると思わないようにな」
「――ちょっと、白狐っ……!」
「ま、俺達を悪者と思ってなさそうなお前らなら大丈夫そうだがな」
白狐を止めようと近づく橋姫だったが、白狐の子供たちに対する接し方と会話にフッと笑みを溢して、足を止める。
子供たちは白狐の言葉に理解を示す様子は見せないが、「それでもいい」と白狐は優しく微笑み、子供たちが去るのを見送った。
「案外優しいところあるんだね」
後ろから橋姫が声を掛ける。
「別にアイツ等は悪くは無いからな」
「‘‘大人たちが間違っている’’って言わなかったのは偉いと思うよ。今のあの子たちにとって|自分の意思を持たない大人《CPU》達でもここで生活していくのに必要な存在だからね」
口元を緩く引き上げた白狐であったが、彼の両手は血管が浮き上がる程に力強く握られていた。
白狐と橋姫の二人が戻ってきた頃、亜久良と三吉、夢魔と童子の四人は、天使の事について話していた。
「――ウリエル、ガブリエル、そしてミカエル。東京で出会った天使がアレで全部なら残るはあと二体か」
「えっと、後の奴等って何て名前だったけな。……サキ――」
名前が思い出せない白狐に、亜久良が答える。
「――サキエルとラファエルだ。どちらもユダヤ教、キリスト教に名前が記載されている天使だが、橋姫と夢魔の話を聞く限り、サキエルは闇の天使。ラファエルは俺と三吉が戦ったが……、いや、失敬。戦ったと言うには、奴の能力を引き出すには至ることが出来なかった。奴はずっと、あの白くて醜い化け物共を俺達に向かわせ、そいつらと必死に戦った記憶しか存在しない」
亜久良の言葉は次第に悔し混じりの声に変わり、顔を俯かせる。
握られた右手は血管が浮き出る程に握られ、それ程までに悔しかったのだろうと一目見ればわかった。
その光景に耐えられなかったのか、それともその天然が故か、童子が口を開く。
「‘‘ぜうす’’ってどんな見た目してるのかな?」
白狐と橋姫、夢魔は目を丸くさせた。
突然の疑問に、皆が固まる中、童子は気にせず続ける。
「天使達が白くてスタイル抜群の姿だったら、ぜうすって人はもっとかっこいい感じの見た目なのかな?」
先の三人は頭にそのゼウスの姿をイメージするが頭を振る。
「いやいやいや、まず、天使達が姿形だけ人間に似てるってだけで、神様が俺ら人類に姿を似せているとは限らないだろ!?――そもそも天使達は手足が二本ずつと人間の様な貌をしているってだけで、羽はあるし体型だって人間離れしているんだから俺らと同じ様な姿とは似て異なるだろ。どうせ、神様ってもんも俺達を躊躇なく地獄に堕とすような存在だ。人様の形なんてしてなくて、化け物のような姿をしていたりするんじゃないか?」
「いや、古くからどの国でも神様という存在は大半が人間のような姿をしている。日本の‘‘伊邪那岐’’、‘‘伊邪那美’’然り、北欧の‘‘オーディン’’にインドの‘‘シヴァ’’。中にはエジプトの‘‘ラー’’や‘‘メフィスト’’の様な例外もいるにはいるが、天使らの言うゼウスという神はどの文献にも豊かな白髭を蓄え筋肉質な体格の老神として描かれている」
「ってことは、俺らを地獄に堕としたゼウスは人間の姿形をしているって言うのか?」
白狐の持つ疑問に、亜久良は丁寧に答える。
「いや、そうとも限らないかもしれない。天使達は俺の知っている限りの様相ではところどころ違っていた。もしかしたら、神・ゼウスとやらも俺らの常識から少し離れた姿をしているのかもしれない」
そう言い終えた亜久良は、何かの気配を感じ、即座に自身の乗機であるルシイドに視線を移した。




