四十八ノ罪 悪魔
アンフェールの言葉は更に加速し、それに呼応するかのように皓き・ザイガにも力が加わる。
「先ほど言ったザイガ因子を使って私は、七つの感情に呼応して力を発揮する機械人形、通称:sin僟を開発した!だが、それは罪咎が消滅してから既に数万年は過ぎていた。私は私を呪った。地球上の生物が愛すべき存在であり、我々悪魔の象徴でもあった罪咎は既に地獄に住む悪魔達しか存在を記憶していた者はおらず、sin僟を扱える者は、この地獄には存在しなかった。地球上にもそのような存在を確認するまでには至らず、結局私は、このsin僟を使い、天使に、神に復讐することも出来ないまま、無駄な時を過ごした。やがて地上には人類という新たな生命体が生まれ、我々悪魔と似た二足歩行を可能とする存在が現れた。私はもしやと思い、命を堕とした人間達をsin僟の操縦席に座らせることにした。だが、どの人類もsin僟に足る者達はおらず、更に私は、有限の時をsin僟の研究へと捧げた。私はあらゆることを試した。そして気づいた。感情に呼応する為の重要な核が無いことに。我々悪魔には七つの重要な想念がある。怒りを御する‘‘憤怒’’、子孫繁栄の為に重要な本能‘‘色欲’’、全てを諦め、‘‘怠惰’’、全てを喰らい尽くす‘‘暴食’’、自分はどの生物よりも優れていると言う全ての生物に宿っている感情‘‘傲慢’’、他者の優れた才能や財を手にしたいと言う人間の心に宿る感情‘‘強欲’’。これらの核を七機のsin僟に宿す為、それぞれの象徴となる悪魔に、私は話をした。誰もが快く引き受けてくれた。私は彼等の意思を無駄にはしまいと、《《彼等の全てをsin僟の中に埋め込んだ》》。そう、悪魔を絶滅へと追いやったのは、この私だ」
「亜久良、君は自分が以前の自分と違うことに気づかないか?夢魔、君もだ。他の者達は、感情を御することに長けているのか、そこまで変化はないが、君達二人は、D指数がある一定の数字以上になった時、人格が切り替わる感覚を憶えなかったか?それが、そのsin僟に宿る悪魔の魂さ。君達七人が乗っているsin僟には七体の悪魔が宿っている。そのお陰で、君達の感情は大幅に爆発し、天使との戦闘で勝ち続けることが出来ているのだ!!今君達の中には、私がかつて師と仰いだ悪魔達がその身に宿っている!!その事を感じながら、私の前で頭を垂れて死ぬがいい!!」
亜久良には見覚えがあった。
いや、この場にいる全員にその覚えがあった。
しかし、その中で色濃く別人格と思われるものを体感したのは、亜久良、夢魔、そして傑だった。
亜久良は脳の中に別の人格がいるように感じ、 夢魔は無意識のうちに艶っぽい発言をした事を思い出す。
傑は、怒りで我を忘れた時、生前とは違う、誰かが自分の中で暴れだしている感覚を感じていた。
アンフェールが言うには、それら全ては彼等が搭乗しているsin僟の中に宿った悪魔が原因であるらしく、その悪魔の力も借りていることによって、天使共とも互角かそれ以上の戦闘が出来ていると言う事であった。
全員言葉を失った。
自分達の中に本物の悪魔が宿っていると言う事に。
「お前は今まで、嘘を吐いていたのか?」
「嘘?」
アンフェールがこれまでに語った事実を傑は受け入れることが出来なかった。
地獄の同胞たちを殺したのはてっきり天使だと思っていた。
しかし、その実際はアンフェールが自分の復讐心の為に仲間を手に掛け、悪魔の開発を始めた。
これまでに仲間の敵討ちだと思いアンフェールに同情してきた自分が恥ずかしく、情けない。
さらに現在は、その共に戦ってきた仲間である自分達を、己の野望の為に裏切り、改良した新しい機体で、攻撃を始める。
傑の心には、どす黒く、燃える怒りの感情が込み上げてくる。
「抑えろ!神嶌!貴様が怒りに飲み込まれたら——」
「甘い!亜久良!傑の怒りを利用しなければ、今のこの私を斃すことは一生できないぞ!君達は、このまま天使にも神にも叛逆することなくここで終わるつもりなのか!?そうでなければ解放しろ!自分の欲望を!感情を!その生きざまを!」
「自分達の中に宿る悪魔を解放しろ!!そして私に立ち向かってこい!今の私には、それ程の力がある!」
亜久良は悩んだ。
今の傑は怒りに飲み込まれることなく、全力を出し切ることが出来るのか。
恐らく、今彼のsin僟の中に居るのは憤怒を象徴し、また悪魔の代表格と言える魔王‘‘サタン’’。
もし、本当にアンフェールの言うことが本当なのであれば、かの魔王を傑に抑え込んでもらいながら、戦う必要がある。
「そんな余裕、今の彼にあるのか……?」
亜久良が悩んでいる間にも、目の前の皓きザイガは力を更に加え、漆黒の巨体を押し倒す。
「おい!このままじゃ、天使を殺る前に、俺らが先に殺られちまう!」
白狐が声を荒げた。
地面に押し倒され、明らかに劣勢へと追い込まれたsin僟隊にアンフェールは嘲笑し、罵倒する。
「フフフ、君達の力はそんなものか!!よくそれで天使を、神を斃すと言ったな!今の君達の力では、到底この先の戦いを勝ち抜くことは出来ないだろう!天使も馬鹿じゃない。一度、負ければそれ以上の力を持って、またこの地球の人類を消滅させようと攻めてくるだろう!その時に、このような状態では君達は一生勝つことが出来ない!自分の中に潜む悪魔を呼び起こすのだ!!それが出来ないならここで死ね!私が代わりに、天使と神を殺し、この大地の新たな王となろう!!」
亜久良は覚悟を決めた。
自分が与えられた役割を全うする為に、先程誓った願いを叶える為に、自分の傲慢に掛けて。
「神嶌、君の怒りの全てをここで解放しろ!夢魔は一旦自分の担当箇所に集中!白いザイガとの距離をとれるように脚部に力を入れてくれ!」
「わ、分かりました!」
夢魔は亜久良の指示に即座に返答する。
「三吉も夢魔と同様に、担当箇所に集中してくれ!相手との距離が取れたら、また指示を出す!橋姫と我喜屋は、絶対にその手を離すなよ!俺が良しというまで絶対に今姿勢を崩すな!」
「「わかってる(わ)よ!!」」
「童子は、俺が指示を出すまで待機だ!しかし、いつでも飛べる準備と、腹部だけには集中していてくれ!必ずお前の役割が必要になる時が来るからな!」
亜久良の指示に童子は、息を飲み、真剣な眼差しで操縦桿を握っている手に力が入った。
更に亜久良は続ける。
「全員、神嶌の解放に備えろ!全員で神嶌が怒りをコントロールできるようにサポートするぞ!」
「そんな無茶なこと、出来るのかよ!」
「出来るのかよ!じゃない!やるんだ!ここで諦めたら白狐《お前》はアンフェールや天使、神だけじゃなく傑に負けたことになるぞ!」
sin僟隊新リーダーの言葉に白狐は喉を詰まらせる。
彼の最終目標は、神嶌傑を超えること。
白狐にとって今、ここで敗れてしまっては、その目標は叶えることが出来ず、死んでしまう。
そうなればこれまでの彼の努力も、成果も全てが水の泡となる。
白狐は自分に気合いを入れる為、両の頬を引っ叩き、操縦桿を前方へと押し込んだ。
「ウオォォリャァァ!!!」
白狐の雄叫びに続き、橋姫も自身の両手に力を加える。
愛する者の負担を少しでも減らす為、自分の力を少しでも多く使って欲しいが為に。
「傑!大丈夫!アンタにはあたし達がついている!存分に怒ってちょーだい!!」
「私も、橋姫さんの意見に賛成です!絶対に私が傑さんの事を暴走なんてさせませんから!安心してください!それに……傑さんは絶対に悪魔に負けるような人間じゃありません!」
「そうだよ。めんどくさいけど、ここで負けたらもっとめんどくさいことになる。さっさと終わらすために、早く力を解放させてよ。自分の力で、もう一回、治してあげるからさ」
「うちも、傑君が変にならないようにしっかりサポートするよ!何が出来るかわからないけど、とにかく頑張るから!」
全員の言葉が、傑の心に届いたのか、憤怒の力を解放せんと自分の奥底に眠る怒りを起こそうと体全体に力を加える。
全身の血液が、物凄い速度で駆け巡り、一周するごとに沸々と沸騰していく感覚が感じ取れた。
「グッ……!ガァッ……!」
頭部に激しい痛みを覚える。
全身の毛細血管がブチブチと音を立てて破けていくのが傑にも分かり、操縦桿を握る両手は赤く染まった。
内から現れる悪魔の叫び声は、傑の耳に届くが、それを薙ぎ払うように首を振り、否定をする。
この戦いに勝つためにも、自分達の世界を取り戻すために、今度は幸福な世界を掴むために傑は悪魔の言葉に飲み込まれないように、怒りに飲み込まれないように、しかし怒りを忘れないように精神を保つ。
アンフェールの操るブランク・ザイガが傑達の乗るザイガを地面へと埋め込もうとするその時だった。
ザイガは逃げ場のない地面を背に力を加え、ブランク・ザイガを巴投げし、窮地から脱した。
全員覚悟を決める。
ここで決着をつけると。
共に戦ってきた戦友をここで葬ると。
亜久良が口を開く。
「これが私達とアンフェールとの最後の戦いだ!!」




