四十六ノ罪 罪咎(ザイガ)
アンフェールは、傑達の前で生命体の誕生について語り始めた。
それは、人類にとっても、悪魔にとっても途方もない程、昔の話。
神・ゼウスによって行われた世界構築の儀式‘‘膨張宇宙論’’。
これにより、七つの星々が生みだされ、その星の一つである、この地球にゼウスは生命を誕生させた。
だが、そこにゼウスが意図していなかった者達が生まれた。
生物の誕生は、ただのゼウスの暇つぶしで行なわれたもので、一つの‘‘地球’’というジオラマの中で、動き続ける生物達の活動を観察する為に生物は生み出されただけだった。
故にそこに生物としての欲望や感情、意思などは持ち合わせず、ただプログラミングされていない人形が不規則に日々を送り続ける。
そして、どのような生涯を歩むのか、どう進化していくのか、それをゼウスは永い時間を掛けて、見届けようとしていた。
だが、そこにゼウスが《《意図していなかった者達》》が誕生した。
悪魔が誕生した途端、生物達は意思や欲望を持ち、食事や交配活動を始めた。
ゼウスはその行動に疑問を持ち、即座に自身が生み出した人形《生物》達の事を調べ上げた。
だが、悪魔はゼウスが意図していなかった‘‘|本来生まれるはずの無かった特別’’な存在。
しかも、地球上には存在しておらず、その存在を掴むのも神にとっては難航を極めた。
やがて、ゼウスは地球上の生物の一斉リセットを行なうことを決め、五体の天使に、期限内の一斉リセットの命を下した。
地球はこれまで五回の危機を迎えていた。
これが所謂、‘‘五つの厄災’’と呼ばれるものである。
これまで地球に生息していた生物たちは、この五つの厄災によって、絶滅と誕生を繰り返し、現在に至っている。
人類も、例外ではない。
では何故、それ程までに危機的状況に陥ったにもかかわらず、生物が全滅しなかったのか?
その答えの全ては、ザイガの元となった地獄の祖。
‘‘罪咎’’が関係する。
次にアンフェールはかつて存在した悪魔の王とでも云うべき‘‘罪咎’’について語る。
罪咎は、悪魔の中でもとても優しく、地球上の生物の事を愛していた。
鳥も、魚も、虫も、恐竜も。
その巨体を活かし、生物たちの悩みを解決し、手助けを行ない暮らしていた。
そんな罪咎の事を、他の悪魔達も慕っており、愛していた。
しかし、天はそれを許すことは無かった。
一つ目の絶滅は今から四億四千万年前に行われる。
一つ目の厄災:今から約4億4400万年前のオルドビス期末に起こったとされる火山噴火による地球寒冷化によって、三葉虫、サンゴ類、コノトドン等の地上の生物の約八五%が絶滅した。
続いての絶滅は三億七千四百万年前。
二つ目の厄災:古生代デボン後期にあたるフラスニアン期に板皮類や甲冑魚等の海洋生物の八十二%が絶滅した。
原因は寒冷化と海洋無酸素事変が原因であった。
三度目は二億五千百万年前、これまでの歴史上最も最大の大絶滅が行なわれる。
三つ目の厄災:古生代後期であるペルム期末に行われたそれは、存在する海洋生物の約九十六%、地球上の生物の九十~九十五%にも達するとされ、三葉虫や方解石サンゴ、紡錘虫類は完全に絶滅し、他にも様々な二枚貝死滅、かの有名なアンモナイトを含む貝類も大打撃を受けた。
このような、大絶滅が引き起こされた理由として、世界的海岸線の後退により食物連鎖のバランスの崩壊、スーパープルームによる活発な火山活動、それに伴う気候変動によって温室効果が促進されると言った悪循環が発生されたためと考えられる。
四度目の大量絶滅は約一億九千六百六十万年前であった。
四つ目の厄災:中生代の三畳紀末にパンゲア大陸を分裂し、大西洋を形成させる地殻変動に連動して起こった火山活動と隕石の落下が絶滅の原因とされている。
最後の大量絶滅は今から約六千六百万年前。
そう、白亜紀に起きた恐竜類の大量絶滅である。
五つ目の厄災:三畳後期~ジュラ紀、白亜紀まで繁栄した恐竜類は、鳥類を除き、全ての種が絶滅した。
人類の学者が長い年月を掛けて研究、解読した人類誕生よりも以前の歴史。
書物も何も残されていない時代の歴史を調べ上げるのに必要だった物は、その当時の歴史を刻んだ無機物たちであった。
ある者は、土から、またある者は、木に刻まれた年輪から、またある者は、岩の層から、その当時の空気を感じ、想像で自分達が存在しない時代の歴史を語る。
当然、人が調べ上げたものには間違いはあり、研究した成果が全て正しいと言う事は無い。
しかし、他に調べる者がいなければ、その調べ上げて辿り着いた研究成果と言うモノは、全て、一つの答えたり得るモノへとなる。
そう、人類がこれまで調べ上げた生物の、果ては地球の歴史と言うモノは、正解であり、間違いでもあるのだ。
古代より、存在した地球の自然物に刻まれたその疵という歴史は、実際に刻まれたモノで、嘘偽りと言うモノは決して存在し無い。
しかし、分かるのはその疵から読み取れる内容であって、そこに刻まれていない者は、決して読み取ることは出来ない。
人類は、知らないのだ。
過去に起こった大量絶滅の原因を。
厭、どうして大量絶滅が引き起こされたのかを。
一回目は、火山活動による寒冷化。
それは即ち、火山を爆発させるように誰かが仕向けたと言う事。
その正体は、炎の天使、ウリエルの仕業だった。
彼が、火山に力を与え、海洋上の生物の大半を死滅させるように誘導した。
二回目は、水の天使であるガブリエルが引き起こした。
地球上の水を操り、水中に存在する酸素を減らし、生物の量を減らした。
三回目は、ガブリエルとウリエルの共同であった。
ガブリエルが、世界の海岸を後退させ、ウリエルが火山を活発化にさせることで、之までにない程の生物が死滅することとなった。
四回目は、ウリエルによって引き起こされた、火山活動。
それに加え、何度やっても、生物全体の絶滅に至らないことに嫌気がさしたウリエルは、ビッグバンの副作用によって誕生した小惑星を地球へと墜落させた。
そして最後、五回目の大量絶滅はウリエルが火山活動によって引き起こすよりも、小惑星を墜落させた方が効率がいいと分かると、全長十m~十五mの小惑星に白い球体を混ぜ、地球へと墜落させた。
そう、全ては、神であるゼウスの命令に従った天使によって引き起こされたものであった。
ゼウスは、自分が生み出した生物が自分の思い通りの進化を遂げていないと分かると、天使に生物絶滅の命を下し、新たな生命体の誕生を試みようとしていた。
特に生物の命を何とも思っていない裁きの天使、ウリエルは率先して生物絶滅へと行動を移し、また、神の伝言者であるガブリエルもゼウスの言葉に従い、生物絶滅を試みた。
しかし、どれも失敗に終わる。
その全ての厄災から生物を守ったのは他の誰でもない。
罪咎であった。
罪咎はその巨大な身体を活かし、地球上に存在する生物を庇うことで、本来絶滅する筈だった生物達は僅かな数を残して、生き延びるに至る。
それでも、中には罪咎の庇護下に入ることが出来ず、半ばで絶滅してしまった者達もおり、心優しき悪魔の祖は、その流れる涙で長い年月を掛け地球の環境を調和し、生物が生きるに十分な環境へと変えていった。
だが、そんな悪魔の王でも体に限界が訪れてしまう。
五回目の厄災が訪れた時、ウリエルの放った隕石がその巨大な身体に命中したことによって、罪咎の命は終わりを告げてしまった。
命尽きた身体から粒子が現れ、悲しみに暮れる生物達を癒す様に地球全体を漂い始める。
その光景は正に命の灯が尽きることを知らない雪が舞っている様であった。
おかげで、隕石衝突の汚染によって寒冷化した地球は、滅亡の一途を辿ると思われていた。
しかし、罪咎から流れ出た粒子は暖かく生物の命の灯を消さないよう優しく包んでくれた。
やがて、罪咎の粒子によって世界は復興の一途を辿っていた。
神も罪咎が自分の命を削ってでも守った自分が生み出した生物に興味が湧き、その先の進化を見据え一旦の全生物の絶滅を取り止める。
罪咎の因子は地球全体に渡った後、一部は地獄へと向かい漂着する。
当時から地球上の生物を研究していたアンフェールはその因子を調べ、ザイガ因子と名付け、今日に至った。
そして現在、Dr.アンフェールはそのザイガ因子を使い開発したsin僟、ザイガと相対する。
一通り、これまでの歴史を語ったアンフェールは一息つき、表情を変えるが、これ迄の怒りや喜びとはまた違う、怒りに混じりどこか悲しげな表情を見せていた。
そのアンフェールの感情に比例するように皓き悪魔の力が急激に上がる。
悪魔の博士は、押される黑きザイガを見下ろしながら、また口を開く。
それは、彼等sin僟隊に関するアンフェールの叫びであった。




