四十四ノ罪 皓きsin僟
突如、地獄のモニターに姿を現したDr.アンフェールに、地獄の住人たちは、その身を震わせる。
これまで、共に天使を討つために協力してくれた悪魔の博士は、今、自身が開発した新たな機体に乗り、此方を攻撃しようとしていた。
あまりの展開に驚きを隠せない傑達人類に、裏切りの悪魔であるアンフェールは続ける。
「これから始まるは、悪魔と天使の対決の第二幕だ。まず手始めに、《《コイツ》》が天使に通用するか、君達で試させてもらおう!!」
「さぁ、私の前に姿を現すのだ!咎を背負いしパイロット達よ!!」
「そ、そんな!こっちはさっきの戦いでボロボロなのに……!」
強敵であった天使達との連戦に疲弊しきっていた橋姫が珍しく弱音を吐く。
「四の五の言っている暇は無い!もし、相手が天使であれば、待ってくれている暇なんてない!ここは無茶してでも、出撃るしかない!」
「だけどさ……」
七人は、疲労で動かないその身体を叩き起こし、再びsin僟へと乗り込む。
その中でも身体にダメージを負っていた傑は、三吉にある提案を持ち掛け、アンフェールとの対決に臨む姿勢をとる。
彼等が、遭遇した巨大な理不尽に対抗する手段を与えてくれた悪魔の恩人であるアンフェールとの戦いを前にして、各々はこれまでのアンフェールとの思い出を振り返る。
その不気味な形に似合わない、どこか人間味を感じる言動。
パイロットの性格を分析し、的確にアドバイスをする
再び、sin僟隊は地獄絵図と呼ぶに相応しい東京の地に降り立った。
つい先刻までの戦闘で、辺り一面、炎と瓦礫の山に覆われ、戦いの残骸は目を覆いたくなるほどに新しく、惨たらしいモノであった。
おまけに天獸の死体の群れは、蒸発したことによって地上から姿が消え去っており、天使達から街を守ったはずの戦いが、自分達がこの惨状を引き起こしたのではないのかと、記憶を塗り替え、自責の念に駆られそうにもなる。
目の前に現れたのは、ザイガに酷似した皓き巨体。
ザイガの解き放つ漆黒の闇とは相反し、その闇を全て飲み込むかの如く照らしだす光《白》。
悪魔が開発したとしては、とてつもない違和感を抱くほどの神秘さが、そこにはあったが、どこか冒涜的な光《白》にも感じる
他にも、ザイガと比べて決定的に異なるモノがあった。
どこか、生物的要素を取り入れ野性味溢れる構造になっているザイガに対し、|皓いザイガは、細部に至る迄、全体的に機械的な装いをしていた。
「これは、私が開発した新しきsin僟。その名も‘‘皓きザイガ’’。君達のこれまでの戦闘パターンを全てこの機体に移し、君達の癖や戦闘能力をコピーし、且つ!君達の悪癖を全て取り除いて完成させた‘‘対神・天使殲滅用機体’’へと進化を遂げたのだ!!君達がザイガとなって戦うまでこれほど時間がかかるとは思っていなかったが、まさか、あの天使を二体も死滅させるとは、私も計算外だったよ」
柔らかな、しかしどこか冒涜的に、自身が開発した新たなsin僟を自信満々に語り、尚も止むことなく、稀代の天才科学者、アンフェールは続ける。
「おかげで、最低でも天使を殲滅させることができる程の実力を此奴は有していることが既に分かった。君達の先の戦闘も既に学習済みであるからな」
その言葉に、sin僟隊のメンバー全員が、固唾を飲んだ。
向こうは、これまでの戦闘データを寄せ集めて完成した文字通り完成版。
対するこちらは、先程の天使達との戦闘で、身体にダメージを受けており、同等の力が発揮できるのか彼ら自身も分からない。
「君達には、もうここで退場してもらおうかなと思っていてね。しかし、この《《ザイガ》》には、《《新しい真価》》が残されている。最後に、それを発現させるための贄になってもらおうと思っていてね。どうだい?協力してくれないかね?」
全員の肌に、冷えた厭な汗が流れる。
「もし、ザイガが進化をしたら、そうだな。恐らく、残りの天使もそれほど苦戦せずに斃すことができるだろう」
そのアンフェールの言葉は、如何にも予想通りの成果だと言わんばかりに、嘲笑を交えていた。
「つまりだ、君達はもう、用済みなのだよ」
不敵な笑みを浮かべ、以前まで共に戦っていたと思える隣人の様な柔和な笑顔は一つもない。
あるのは、悪魔と痛感させられる程に、痛く冷たく、深く、黒い、笑みだけ。
その、悪魔の笑みに気圧され、悪魔に立ち向かおうとした人間達は不安を募らせる。
——が。
「亜久良、今後はお前が指揮を執るリーダーになってくれ」
突如、傑が口を開いた。
その突然の言葉に、誰もが驚き、言葉を飲む。
「どういうことだ?」
亜久良もあまりの唐突さに呆気にとられ、人並みの疑問文を返すしかなく、傑は、その言葉の真意を亜久良に伝えた。
「俺は、このザイガの全ての箇所をコントロールしなくちゃいけないらしい。おまけに、俺が担当するところもある。それに加えて、皆に指示を出すのはとてもじゃないが、俺にも限界がある。だったら、亜久良、お前の方がこういうの向いてるんだと思うんだよな。頭いいし、俺、リーダーって言う役割があまり得意ではないし、とにかく、皆を引っ張っていって、的確なアドバイスができる人間なんだったら、亜久良の方が向いてると思うんだよな」
亜久良の胸から、初めて人から認められた時と同様の高揚感が沸きあがる。
久しぶりに、‘‘人に認められた気がした’’。そんな思いを、プライドが邪魔をし、思わず、思ってもいない言葉を、鼻を鳴らし口にする。
「ふん!当たり前だろう!!貴様の指示よりも、私の指示の方が的確かつ、効果的だろうな!」
半分本気、半分は、不安だった。
自分が、誰よりもこの場で知識があることは、確かに認める。
しかし、知識がある=リーダーには決して結びつきはしない。
その考えが、最近になってようやく千方 亜久良という天才的な青年は痛感し始めたところであった。
当然、亜久良も過去には頭が良く、誰よりも賢かったため、学級委員や生徒会長の役割を担ってきたこともある。
だが、その時と今では確実に、状況が違う。必要なスキルが違う。
今、sin僟隊のリーダーに必要な知識は、戦闘面に関する知識だ。
どういう風な動きをすれば、自分達が有利に立ち回れるか。相手の動きをどういう風に予測し、それに対応した動きを、誰にどう伝えれば、その最適解を実行できるのか。
いくら勉強ができ、知識もある亜久良と言っても、こと戦いにおいては、からっきしの初心者もいいところなのである。
その反面、傑は天使との初戦で、仲間の力を借りながらも辛うじて天使を撤退させることに成功し、彼が休養中で亜久良含む5人で天獸達と戦うとなった時でも、モニター越しに、それぞれのsin僟の特徴を把握し、その特徴に合った連携を指示することによって、劣勢に近い状況であった戦闘を無事に、終えることが出来たのだ。
その時に初めて痛感した。
己が他者に劣っていたことを。
知識だけでは、人々の先頭に立つことが出来ないのだと。
傑は、戦いの知識だけでなく、その知識が正しい、間違っていないと言わせる‘‘説得力’’と信頼関係を構築するコミュニケーション能力がずば抜けて高く、それ故に、自分達は傑の言葉を信じて戦い抜くことが出来たのだ。
今の自分に、傑ほどの信用があるのか、目の前の敵に勝つことができる程のセンスと余裕があるのか、亜久良は不安だった。
鋭い目尻を引くつかせ、眼鏡をクイッと滴る汗とは反対の方向へ持ち上げる。
モニターに映る傑の顔は、ただ真っすぐ、一つの迷いも見せない自分を完全に信じている様子で此方を見つめている。
もしここで、自分がやらかせば、東京が、日本が、ましてや地球が破滅の危機に陥るだろう。
仮に、アンフェールが天使に斃されたとしても、今度は人類全体が、天使によって絶滅することになる。
なればここで、仲間の信用を得るために、仲間からの期待を裏切らないためにも、自分が何としてでも、仲間を勝利に導かなければならないと、亜久良は決心を決めた。
「神嶌《貴様》が言ったのだからな。私がリーダーに相応しいと。ならばその期待、絶対後悔させないと誓おう!私が!貴様たちを勝利に導かせよう!」
黑き鬼達は、神と天使を嘲笑うかのような、冒涜的な光を放つ悪魔のロボットの前に立つ。
地上は再び、二機の悪魔の化身によって戦火に包まれようとしていた。




