四十三ノ罪 裏切り
大都市、東京で起きた天使達との対決。
結果は、傑達sin僟隊の面々が三体の天使を撤退に追いやり、二体の天使を新たなる力、七罪合体した巨大ロボットである‘‘ザイガ’’によって討ち取ることに成功し、sin僟隊の勝利で一旦の幕を下ろした。
疲労困憊の面々は、唯一息のつける場所である地獄へと踵を返す。
傑も何とか意識をsin僟の操縦に向け、地獄の扉が開くのを待つ。
見渡す限り、都会のジャングルと呼ばれるような景色は無く、燃え尽きることを知らない炎と黒煙、更には白い獣と呼べるか分からない者達の死体に、荒廃した大地。
東京はかつての大都市の姿を無くし、閑散とした地獄とでも呼ぶべき光景であった。
天使達の撃退に成功したsin僟隊であったが、その表情は明るいモノではなく東京の現状に悲壮な思いが漂う。
この戦いで失ったものは彼等からしてみれば、とても大きなものだったのだろう。
彼等が斃した天獸。
天獸とは言え、その中には元々人間であった者達が大多数を占める。
言わば彼等は、殺さなければ殺されるとは言え、人間をその手で殺めてしまったも同然だったのだ。
暫くして、地獄へと続く黒穴がその姿を現す。
操縦者達は、その中へとsin僟と共に入り地獄へと赴く。
最後に傑は、荒廃した大地を一瞥し地獄へと再び堕ちた。
地獄に堕ちた彼等を待っていたのは、彼等に罵倒をした人間達と先の天使達との戦闘に巻き込まれ、地獄へと堕ちた人々だった。
「……なんだ」
自分達を悪魔の手先呼ばわりした人間達は、帰還した傑達を親の仇の様に睨みつけ、床に唾を吐く。
その人混みの中を掻き分ける二つの影。
「童子!!」
自分の名前を呼ぶその声に、童子はどこか懐かしさを感じた。
「童子!お前無事だったのか!ごめんなぁ!俺がもう少し早く迎えに行っていたら、お前がこんな目に合うことも無かっただろうにな!」
声の主は、自分の父親だった。
自分が天使の手によって地獄に堕ちた日以来の再会であった。
我が子が無事の姿を見て、父と母は、自分達の愚かさを実感しながらその手で自分の娘の身体を優しく抱く。
自分がもう少し、早く迎えに行くことが出来ていたのなら、そういう後悔を何度も何度も、童子の父親はこの時まで何回も繰り返していた。
***
一九九九年 十二月三十一日。
年の瀬、高校の一年生だった童子は、その時、仲が良かった友人と共に渋谷で買い物をしていた。
今まで食にしか興味がなかった彼女も年頃の女の子、友人の可愛いファッションを見て、自身も彼女みたいな可愛い服装をしてみたいと感じていたのだ。
友人がおすすめするデニムのオーバーオール、そしてブラックのパーカー。
そして頭には、白のキャップを被り、自分が今までしたことのなかった格好に童子は胸が高鳴るのを感じ、もっともっとと、友人にお洒落な服が購入できるお店を教えてもらい、一緒にウィンドショッピングを楽しんだ。
食事は勿論、童子のおすすめを紹介し、それを食べて喜ぶ友人の顔を見て童子は友人の笑顔をおかずに自分の一押しメニューを頬張る。
こんな時間が永遠に続けばいいのに……。と童子はその時思った。
気が付けば夜も更け、そろそろ帰宅する時間だ。と二人は駅に戻ろうとするが、年替わりを渋谷で過ごそうとする人々と、線路での人身事故が発生した為に電車が止まり、帰られなくなった帰宅難民とで彼女達の駅前はごった返していた。
仕方なく、公衆電話から自宅へ電話を掛けようとするが、回線がパンクしており、親の迎えも期待できそうにない。
童子と友人はお互い逸れないように手を握り、人々が落ち着くのを駅の隅っこで待っていた。
雪がゆらゆらと不確定な動きで舞い、それと同様に人々も不規則な出来事に動揺し戸惑い始める。
一つの負の出来事は、時に大勢の人間を巻き込み、それよりも強大な負へと誘う。
それは、言葉として‘‘負の連鎖’’などと言われているが、今、童子が目の当たりにしているのは、その連鎖の序章でしかなく、そんな事は彼女達、そして周りにいる大人も子供も誰だって知る由の無いことなのである。
彼女達は、既に始まった連鎖を止める術なども無く、ただ刻一刻と己らが破滅する未来を待つことしかできない。
残酷にも進み始めた時計の針を止めるのは誰にも出来ない事なのだ。
新しい人生を歩むためにこの地へ訪れた彼にだって、友人も家庭も全てが偽りへと変わってしまった彼にも、いくら天才だと謳われた彼にだって。
一度、破滅が始まると自分達はそれをただ知らず待つのみ。
現実と言うのは非情で無慈悲なもの。
そして迎える破滅の時、父が迎えに来ることを信じて待っていた少女の前に現れたのは、自分達を冥府に送り届けんとする天からの来訪者の光だった。
***
これが、童子が地獄に堕ちてしまった経緯である。
だが、彼女の親との感動の再会は、そう長くは続かなかった。
先の戦闘を地獄でモニターしていた人々は、激闘繰り広げてきた傑達を睨みつける。
そこには、地上を天使達の手から取り戻してくれた等の感謝の念は無く、大事な人々を殺されたかのような恨みの念が込められていた。
「お前達、良く平然と帰ってこられたな」
「この人殺し!!」
「「「人殺し!!!人殺し!!!!人殺し!!!!!」」」
群衆の声が一つとなって、彼らの精神を蝕む。
自分達がやってきた行為は間違ってなどいなかった。
彼等を助ける為には、ああする他無く、自分達は最小限の被害に抑えようと必死だったのだ。
当然、他の手段があればそれを選んでいた。
天獸に成った彼等を元の人間に戻せる手段があったのであれば、喜んでその手段を選んだ。
しかし、それは無かった。
続けて、群衆の先頭に立つ男は口を開いた。
「おい、そこのガキ。お前が、やったこと忘れていないからな」
男が指をさしたその先には、童子がいた。
男が言っていたのは、ニュースにもなったsin僟隊が悪魔の手先と言うあらぬ噂が広まった出来事。
童子が必死で、街一つ消えるであろう威力の爆発を一手に引き受けて防いだあの時の事だった。
「アンタら二人が、そのガキの親か?アンタら一体娘にどういう教育してんだよ?てかあれか?アンタらもソイツら同様、悪魔の手先って言うことか?」
男の言葉を、童子の両親は背中で受け止め、愛する娘を抱きながらフルフルと振るえる。
‘‘自分の娘は悪魔の手先じゃない!!’’
と、群がる民衆に一喝しようとさえ思ったが、自分にはそんな資格はないのではないかとも考えてしまう。
愛する娘が、悪魔の手先と言われるようになった原因は自分にある。
そう思うと、ただ娘の身体を謝罪と否定を込め力強く抱きしめる他無かった。
「テメェーら……!」
傷だらけの肉体を引き摺り傑が口を開こうとした瞬間、亜久良が制止する。
「憤りを感じるのは分かる。俺達だってお前と同様はらわたが煮えくり返る程に腹を立てている。だが、暴力だけでは全てを解決することにはならない。それに、向こうには、女性や子供たちがいる。いくら大人男性だけを殴ったとして印象が悪くなるのは此方だ。下手に手を出すよりかは、ここは我慢するしかない」
その亜久良の言葉に傑は他の仲間の顔に目を配る。
全員が、怒りを感じているのは一目瞭然だった。
そして、もう一人、悪意のある人間の言葉に怒りを滲ませている人物がいた。
「……うちの悪口はいくら言ってもいい。……だけど、うちの父ちゃんと母ちゃんの悪口だけは許さない!!」
童子は今までに見せたことのない形相をし、好き勝手にモノを言う群衆に怒りをぶつける。
以前の童子であれば、たとえ親の悪口を言われたとしても、何も反論など出来ずに受け止め、傷つき、それで終わっていたであろう。
しかし、激しい戦いを乗り越えたことによって童子は成長し、ただ言い負かされて終わるだけではなくなっていた。
あまりの童子の迫力に押された群衆は、ばつが悪そうな雰囲気になりながらも、尚、その口を止めることはしない。
「お前たちのせいで、俺達の帰る場所が無くなったんだ!」
「アンフェールは言った!天使を全て斃せば、俺達は生き返ることができると!」
「所詮は悪魔の戯言だ!信じられるか!それに生き返ったところで、帰る場所がないんじゃ意味がないじゃないか!!大体、その悪魔本人は一体どこいったんだ?まさか、逃げ出したんじゃないだろうな!」
確かに、激しい戦いを終えた傑達を出迎えたのは彼等に疑念を抱く人々の群れだけであった。
そこに悪魔の機械を生み出した博士の姿は無く、声なども一切聞こえることはなかった。
人々が不思議に感じ、全員が声を潜めると、辺りは不気味な静寂に包まれ、鳥肌が全身に走る。
傑達は初めて地獄に堕ちた時とは違う別の不気味さを憶え、固唾を飲み込んだ。
「なんか、気持ち悪くないか?」
「えぇ、何とも言えない気持ち悪さが、全身を包みますね」
「こ、怖いよう」
全員が辺りを見回す。
ここにいる人間以外の怪しい影は散見されない。
しかし、確実にこの地獄に漂う空気は不穏な気を纏っていることがここにいる誰もが感じ取り、体を寄せ合うことで、不安から逃れようとしていた。
「Dr.!今どこにいる!天使達を斃してきたぞ!」
傑が、傷ついた体を引き摺りどこかにいるであろうアンフェールに声を掛ける。
だが、姿を現すどころか、返答も無いことにより一層不気味さが増す。
返ってくるのは、生暖かい異様な風とゴォォンという謎の轟音。
何の音か確かめに行く白狐と傑を突如、亜久良が引き留める。
「アレを観ろ……」
亜久良が指さす先には、大画面のモニターが映っており、そこには何かの機械の中に居るであろうDr.アンフェールの姿が映っていた。
「Dr.!一体どこに行っていたんだ!俺達はとっくに帰っているぞ!」
「フハハハハハ!君達のおかげで完成したよ!私の最高傑作が!」
「君達が抗う姿がもう見れないとはつくづく残念だが、仕方ない。これも私の野望の為!君達とはここで、袂を分かつ!」
「何言ってるんだ!?まさか、俺達を裏切ったのか!」
「さぁ、人類よ。第二幕の始まりだ」




