四十二ノ罪 地天激動大戦㉓ 終結
狼の貌を模した胸部に三頭犬が貌を覗かせる腹部。
兎の脚部は、熊の脚部に覆われ、右腕部は蛇、左腕部は狐が担当をし、臀部は九尾の尻尾が生え、両端には不死鳥の尾とセンターには狼の尾。
蝿の王の翅に獅子鷲と不死鳥の翼、そして堕天した王の羽根が四重奏を奏でる。
頭部は鬼のような形相で睨みつけ、申し訳程度に兎耳が側頭部辺りからチョコンと生えている。
sin僟が合体したことによって完成したその歪な容姿は、人々がこれまで犯してきた大罪を具現化したかのようであった。
天然の黒曜石の様に艶やかな輝きを放つボディに、鳩の血が映えたツインアイ。
所々に入ったそれぞれの大罪を象徴した差し色は、その巨大ロボットが如何に人の業と言うモノは罪深いのかを体現していた。
傲慢とも言うべき頑強なボディ、今にも襲い掛かりそうな怒り狂った貌。
その姿は、悪魔の王に相応しい出で立ちで目の前の天使どもを睨みつける。
「それこそが、私が予てより想像していた真の罪僟!七罪合体、ザイガである!!人間達の欲深き罪を解放したソレは今までのsin僟とは比べ物にならない程の強力な力を持っている!その力で目の前の天使どもに悪烈なる一撃をお見舞いするのだ!!」
自分が予てより望んでいた姿を拝むことが出来たDr.アンフェールの表情は、今までに見せたことのない高揚感でいっぱいであった。
幸せに包まれたその笑顔は傍から見れば、企みをその内に秘めた悪魔の笑みであったが、そんなこと、アンフェールは微塵も気にしてなどいない。
ただ目の前に映るロボットの晴れ姿を拝むことが今の彼にとって一番の幸せだった。
「ザイガ……。」
傑はボソッと呟いた。
彼の脳裏に謎の映像が走る。
それは、東京とは自然豊かな木々が生い茂る光景。
様々な影が、一斉に走り出したところで映像にジャミングが入る。
『そうか、どこかで見たことがあると思っていたが、罪咎か……。今またここで、相まみえようとは』
『か~、また面倒くさそうなのが現れたね。これじゃ、またゼウス神に怒られちゃうよ』
ミカエルとガブリエルはザイガの姿に何かを重ね、ばつが悪そうに言葉を吐く。
ただ一体、ウリエルを除いては。
ウリエルが口にした果実は、自我を失わす程の力を与え、《《彼の中に宿る本来存在しないはずのモノ》》を引き出した。
それが、絶対神であるゼウスが黄金に輝く甘美な果実を食すことを禁止にした理由でもあった。
目の前に立ちはだかる悪魔の王にウリエルは怖気づくことなくマグマの鎧に包まれたその身体ごとぶつける。
鎧の温度はこの世に存在するどんな理からも外れ、踏みしめる大地は徐々に溶け始めていた。
手四つの力比べをザイガと行なうが、此方もこの世の理から外れた存在であるためか、ザイガはウリエルの鎧の影響を受けることなく対峙する。
今までバラバラで戦っていたsin僟隊が初めて一つになって敵と戦っていることに一抹の不安も抱えていた。
しかし、それを搔き消すかのように全員の脳裏に何者かの意思の様なものが乱入してくる。
「ナニコレ!気持ち悪い!」
「これは……コイツの戦い方か!?」
脳に直接届く何者かの意思に従いながら、パイロット達はザイガのコントロールを開始する。
それぞれが、それぞれの持ち場である部位に力を込め、相対する正気を失った天使を斃さんと意気込む。
右腕部を担当する橋姫と左腕部を担当する白狐は、手四つでウリエルの力に屈しないよう力を入れる。
下半身を担当する夢魔と三吉は、押されないように踏ん張らせ、背部担当の亜久良は、押し返すように三種の羽根を羽ばたかせる。
童子は腹部の魔犬の貌を使いウリエルを纏う鎧を剝ぎ取ることに専念する。
そして、中央に鎮座する傑の神経はザイガ全体へと行き渡っており、傑の力がそれぞれの個所に割かれる。
だが、それでもウリエルとの取っ組み合いは膠着状態に陥り、残った余力を胸部の狼へと捧げた。
狼を模したその胸部が大きな口を開き、赤黒いエネルギー体が露わになり、悪魔の叫び声と共に目の前の天使を覆いつくす。
‘‘悪魔王ノ息吹’’
巨大な光線はウリエルに直撃し、直線約十キロ先へと突き放した。
サタスのアグリールよりも強力なソレは、ウリエルの鎧が一部崩れていたとはいえ、天使の半身を吹き飛ばすには充分な威力であった。
故に、パイロット自身にもそれなりの罰があった。
傑は全身に走る程の激痛を感じていた。
特にダメージを受けていたのは頭部だった。
全身に神経を張り巡らせ、更にはザイガのアグリールは傑の怒りを材料にする。
故に感情を司る大脳辺縁系を刺激し、感情を引き出すことで強力な威力の悪魔王ノ息吹を放出する。
それによって、一つの肉体でマルチタスクを行なう傑の脳は莫大な疲労と衝撃が彼を一遍に襲ったのだ。
声にも出せぬ程の痛みに傑の肉体は、小刻みに振るいあがる。
息は溢れ、目は目尻が引き裂かれそうになるほど見開き、白目に宿る毛細血管が千切れていく。
両の手は意識せずともこめかみを押さえつけ、息が漏れると共に強烈な吐き気が襲い掛かる。
「どうしたの!?傑!大丈夫!?」
「傑さん!一体何があったんですか!?」
傑の突如の変貌ぶりに、他のパイロット達は動揺を隠せない様子でいた。
吹き飛ばしたウリエルは、身を焦がしながらその半身で立ち上がろうとする。
ガブリエルとミカエルは、その様子を上空から見下ろし、この戦闘の行く末がどうなるのか見届けようとしていたが。
『僕たちもウリエルに加勢した方がいいのでは?』
このままではウリエルが悪魔の力を得た人間達に返り討ちに合ってしまうのではと感じたガブリエルは、ミカエルに力を貸した方がいいのではと口を出した。
『あの状態のウリエルには、もう既に敵か味方かの判別などついていない。それに、ニンゲンに負けたと言う理由で禁止されていた林檎を食してああなったのは奴の自業自得だ。我々が手助けをする道理はない。』
と、冷たく言い放ったミカエルは、ザイガの方に視線を向ける。
死よりも激しい痛みに耐えようとする傑であったが、既に全身満身創痍であった。
「傑!聴こえるか!」
その声は、悪魔の博士、Dr.アンフェールだった。
「お前はもう、アグリールを使うな!それは、お前の生き死にに関わるような危険な技なのだ!サタスよりも強力な怒りを贄として放つソレはお前の命も、感情も全てを消えさせてしまう!それを使うのは、最後の手段だ!」
「そんな危険なモノ、外しておけよ!」
「今は言い争っている暇じゃない!来るぞ!」
目の前には既にウリエルが炎の剣を持って、迫ってきていた。
「剣だ!ザイガの武装の一つ、‘‘咎の剣’’を使用しろ!」
「咎の剣?……コレか!」
亜久良が、傑の代わりにザイガのモニターで言われた咎の剣を探し出す。
九尾の尾に挟まれた一本の狼の尾がその咎の剣と呼ばれるモノに変形することが分かり、それを掴むよう、橋姫に指示する。
右腕部担当の橋姫は、言われるまま狼の尻尾を掴む。
すると、瞬く間に尻尾は変形し、巨大な剣へと変化した。
その剣は黑く輝き、剣と呼ぶには禍々しく、又、剣と呼ぶには刺刺しい象をしていた。
もしそれを剣と呼ぶのであれば、それは魔剣。
悪魔が天使という古来からの仇敵を確実に殺すために創りあげた悪魔の剣。
ウリエルは炎の剣を振りかざし、対するザイガも咎の剣を振るう。
お互いの剣は激しく弾け、鈍い音が響く。
何度も何度も弾き合い、火花が散る。
「このままでは埒が明かない!……そうだ!」
亜久良は一つの解答を導き出した。
それは、初めての合体で行なう一か八かの賭け。
もし失敗したならばと言う後の事を考える暇は無く、失敗すれば即、死もあり得る難解な行動。
だが、それでも彼等にとってはやるしかなかった。
やらなければ、此方がやられる。
世界が滅びる。
それを阻止するためには、亜久良の作戦を遂行するしか他にない。
「一か八かの大博打だ!私は、貴様たちの力を信用する!いつまでたっても、神嶌に頼りっぱなしは情けないからな!我喜屋もそうだろう!」
「ああ!!俺だっていつかは傑を超えてやるんだ!だったらここで躓くわけにはいかねーよ!」
ザイガの左腕部のマニピュレーターがウリエルの灼熱に燃える剣を鷲掴みにする。
激しい音を立て、黒煙が空高く舞う。
グリモンが担当する左腕部の悪魔的権能。
それは、強欲を担当するsin僟、グリモンならではの能力・奪取。
ザイガは今、それを使いウリエルの炎の神剣を文字通り、‘‘奪い取ろう’’とする。
グリモンに触れられた神剣は、柄の部分から徐々に姿を消し始め、グリモンのマニピュレーターに場所を移していく。
ウリエルの手から、神剣が消失したことによりウリエルはバランスを崩し前のめりに倒れ掛かる。
ザイガは、その機を逃すことなくバランスを崩し前のめりに倒れる勢いを利用し機体を左回転で一周しその勢いのままウリエルの胴を切り裂いた。
マグマの鎧は既に入ったヒビによって防具の意味を成さず、ウリエルの身を守ることなくその役目を終え、ウリエルは自身を斬った悪魔に並々ならぬ視線を送りつける。
理性を失った炎の天使は、呪いの詞か、はたまた断末魔なのか、区別もつかない音を発し、燃えるように消え去った。
だが、戦いはこれだけでは終わらなかった。
強敵であったウリエルとの戦闘で披露したsin僟隊であったが、即座に目の前に現れたガブリエルの攻撃に反応せざる終えなかった。
ガブリエルが自身で作成した水の剣に、奪取した炎の剣をぶつける。
蒸発する自身の剣を手放し、水の天使であるガブリエルは距離をとり、天空に掌を掲げた。
掲げた手の先には、街一つは飲み込むほどの大きい渦が出現し、無数の矢が雨となって降り注ぐ。
ガブリエルの役割は、神の代行者。
禁断の果実を食したウリエルが悪魔に殺されることは自業自得であった。
とは言え、得た力は今この場にいるどの天使よりも強力であることに変わりはない。
故に、一番『神』に近い力を持っていると言っても過言ではなかった。
そんなウリエルが目の前で人間が操る悪魔の機械人形が真っ二つに斬り伏せたと言う事は、奴らは神に匹敵する力を得たと言う事と同義なのである。
ならば、神の代行者であるガブリエルの役割はただ一つ。
自身が斬り伏せられようとも、『目の前に立ちはだかる悪魔の化身を何としても神の元へと歩ませない事』
自分の持ちうる全ての力を持って悪魔に与する人間をこの手で殺す。
それが、ガブリエルが無謀と分かっておきながらも、悪魔に立ち向かう理由であった。
「亜久良!お前の担当する背部にはベルグラの翅があるだろう!それを使え!」
Dr.からの助言に言われた通りベルグラの翅を選択する。
すると、翅は姿を変え、巨大な弓へと変化した。
名は‘‘罪の弓’’。
狙いを定めた、ザイガは何も掛けられていないその弓の弦を弾く。
弓束から漆黒の矢がこれまた無数に射出され、ガブリエルの矢を貫いていく。
物量も質量も圧倒的なザイガの攻撃の前に、ガブリエルは成す術もなく、ザイガが放った矢によって、その命を終えた。
後方に佇むミカエルは、風のシールドを貼ってその身を守ろうとするが、力及ばず、上半身に二か所、下半身に三か所の擦り傷を負ったところで、これ以上の戦闘を望むこともなくその場を後にした。
こうして、大都市東京を舞台にした悪魔と天使の激闘は人類の悪魔的進化と二体の天使の死によって幕を下ろした。




