四十ノ罪 地天激動大戰㉑ 禁断の果実
ミカエルと傑の戦闘は、熾烈を極めた。
仲間を傷つけられたその光景は傑の深層心理へと到達し、仲間を傷つけられたその光景が傑の中に潜む怒りの感情を更に昂らせる。
徐々に攻撃速度を上げていくサタスであったが、それと同時に機体の関節部がギシギシと悲鳴を上げる。
「コロスコロスコロス」
淡々とその単語だけを呟き、無意識のうちに操縦桿を動かす。
対するミカエルはサタスの攻撃を軽々しく受け流し、僅かな隙間を縫って一撃一撃攻撃を当てる。
だが、サタスはその攻撃に怯むことなく前へ進む。
鋭い刃は無垢なその身体に傷をつけようとするが、文字通り刃が立たなかった。
「お、おい!神嶌のヤツ、何かとんでもないことになってないか!?」
「ねぇ!アレ、大丈夫なの!?」
ミカエルの強力な攻撃が直撃したかに思えた傑を除いたsin僟隊は、アスロトの強靭なボディによって事なきを得た。
初めて、傑の駆るサタスが暴走した姿を見て驚く亜久良と三吉であったが、同様に橋姫、白狐、夢魔、の三人もその姿に驚きを隠せていない様子であった。
「前って、あんなにヤバそうな動きしてたっけ……」
「ううん、あの時以上に酷い状態になっている気がする……!」
「傑さん!聞こえますか!?返事してください!傑さん!」
夢魔の呼びかけにも応答はなく、荒ぶる狼は、目の前の獲物を狩ることだけに意識が集中していた。
360度、どの角度からもサタスの攻撃は止まず縦横無尽に動き回るその姿は正に機神の如くであった。
「前にも同様の事があったのか」
「あの時よりも、酷いよ。アレはもう人が操縦しているとかそんなレベルのモノじゃない」
「おい!Dr.!どうなってるんだ!このままじゃアイツ壊れちまうよ!!」
「フフフ。フハハハハハハ!!!」
「おい何嗤ってやがる!」
「流石だ!神嶌傑!流石は、神を冠せし名を持った人間よ。私の想像以上のモノを見せてくれたよ!」
「どういうことだ!説明しろよ!」
「なぁに、心配するな!タケルは無事だ。奴が平常心を取り戻した時、お前達には新しい力が宿るだろう。」
「何言っている?」
「その力をもってすれば、天使は全て斃すことができるはずだ」
その言葉を最後に、アンフェールとの通信は途切れた。
四人は現在の傑の状態がこのまま続けば危ないと察知し、ミカエルと戦闘をしている最中の傑をなんとか、元の状態に戻す方法を考える。
「まず必要なのは、夢魔の能力。これで、奴の興奮状態を抑えることが出来ればいいのだが、続いて、三吉のもう一つの能力。これで、傑のsin僟を修復できればいいのだが」
「俺の機体を直せたんだ!アイツのも綺麗さっぱり元に戻るだろうぜ」
頭脳明晰の亜久良を中心に、傑を援護する算段を整える。
「レヴィーで白狐をサタスと天使の方へと放り投げ、その一瞬で天使が持つ神槍を奪う。そして、グリモンとミカエルが戦闘している間に、夢魔のアストと三吉のアスロトで、サタスを鎮静化+修復をする。私は、恥ずかしい限りなのだが、戦闘向けの機体ではない、だが、恐らく新しく開花した新機能を使えば天使の動きを一瞬だけ停止させることができるかもしれない。だから、我喜屋がミカエルに近づく瞬間、奴の動きを停止させる。当然、皆の機体にバフは掛けさせてもらう」
それぞれのsin僟の特徴を生かした完璧ともいえる内容。
しかし、それには最大の誤算があった。
傑のsin僟であるサタスと天使であるミカエルの異次元ともいえる戦闘スピード。
その隙間に入り込めるほどの操作技術をまだ誰も、持ち得ていないと言う事だった。
「入る隙がない……!」
「どうなっているのだ!奴らの速度は!神嶌に至っては、機械の行動速度を遥かに凌駕しているぞ!」
白と黒の光は止まることを知らない。
光が動くたびに、爆音が響き、空に赤黒い閃光が走る。
神槍を掴み、天使ごと空へ投げ飛ばしては床に叩き伏せた。
だが、サタスの手は止まらず土煙が二人を包んでも殴ることをやめない。
黒き野獣を正常に戻す為、橋姫は自身が駆る朱黒の機体を土煙の中に突っ込ませた。
蛇の鞭で右腕を掴み、サタスの動きを封じようとするが、当然止まることはない。
サタスは空いた左腕で何度も何度も天使の顔面を殴り続ける。
亜久良は夢魔に|幻想抱く乙女の香り:花《ラッシヴィアス・セント:リナロール》を使用するよう命令した。
アストは下半身に力を溜め空高く跳び、助走無しで約二十メートル先のサタスとミカエルがいる地点の上空へと到着し、アストの兎耳から青藤色の鱗粉がばら撒かれた。
同時に、アスロトも傑の元へと辿り着き機体の回復を試みる。
「もういい!もういいんだ!神嶌さん!!もういいんだよ!」
「落ち着いてください!私たちは無事です!天使達は何とか撤退しました!」
興奮状態のサタスにはなかなかアストの能力が傑の奥底にたどり着くことができない。
夢魔は自身のD指数を上げ、更に粒子の量を増やす。
「もう落ち着いてくれ!傑さん!不死鳥の遺骸薬!!」
アスロトの閉じていた尾翼が扇状に開き深緑色の粒子がサタスを包んだ。
粒子は機体についている傷を埋め始め、瞬く間に戦闘前のクリーンな状態へと期待を修復した。
夢魔の操るアストの粒子も、莫大な量を傑のsin僟へと流したおかげで、段々と傑の意識が元に戻されていった。
だが、次の瞬間その隙を狙っていたかのように、ミカエルは素早くサタスの股をすり抜け宙へと舞い、四人の前に君臨する。
そしてもう一体。
『許……さない……。俺は、絶対アイツを殺す……』
ウリエルは瀕死の身体を動かし、その身に宿す黄金の果実を口に含む。
途端に、身体全体に激しい鼓動が走り、全身が燃え盛った。




