54 夜のお話会
シンが寝ていることを確認して、フードから隣のベッドに飛び移ってお座りしているマリアに、瑠華が声をかける。
「マリア、空間遮断してくれる?」
頷いたマリアが空間魔法で、シンが寝ているベッドの空間のみを囲むように遮断する。こうすれば、ベッドで寝ているシンに会話を聞かれないですむ。
こればかりは、未だ言えないからね。
瑠華はテーブルの横の椅子に横向きに座って足を組み、テーブルの上にマリア、膝にムツキ、瑠華の前にテトとリトがお座りする。
左手にマリアの温もりを感じつつ、膝に乗っているムツキのもふもふの毛を撫でて癒されつつ、テトとリトを見ながら聞いてみる。
「君達はシンが言っていたこと、知らないの?」
「トリロ伯爵とやらが、“英雄”を侮辱したって話か?」
「そう」
どんなに考えても、ルッシャート王国のトリロ伯爵なる人物に逢ったという記憶が全くない。ルッシャート王国の国王陛下や王妃、王太子には逢ったことがあるし、話をしたこともある。貴族にも、何人か逢った記憶はある。
けれど、トリロ伯爵は一度もない、筈。一応挨拶を交わしたことがある貴族については、ジルトニア皇国に限らず他国の貴族でも覚えている。一言二言の挨拶程度だったとしても。
これでも僕、元公爵子息だからね。そこら辺はちゃんとしていたのだから。
父様、母様に恥をかかせないように、フィンランディ公爵家の名に泥を塗らないように。
只でさえ“欠陥色”なんていう、侮られる要因を持っていたから、それ以上の隙など見せてはならなかったから。
瑠華の問いに、従魔達は首を傾げる。
「前にも言ったけれど、私達は主がフィンランディの地に埋葬されてからは、ずっと傍にいたの。だから、そのトリロ伯爵なんていう人間がなにか言っていたとしても、誰かが言わない限り、私達は知ることはないわ」
「精霊達なら知っていたんじゃない?話好きの風の精霊達なら、嬉々として唄いそうでしょう?」
「シンが言うには、その場には風と雷の精霊王もいて、トリロ伯爵の言ったことについて怒ってたんでしょ?だったら、精霊達がその話を唄うのを止めても不思議じゃないわ」
確かに風の精霊王も雷の精霊王も、他の精霊達が話を唄うのを止める可能性が高いだろう。風の精霊達が唄ってしまったら、瞬く間に世界中の精霊達に知られる。
精霊だけではない。精霊が住む地には、妖精や幻獣だっている。精霊の声を、聞くことが出来る種族もいる。人間の中にも少なからずいる。彼等が唄を聞かない、なんてことはない。
ついでに言えば、魔王とか獣王とかも、話を最小限に止めるだろう。どういう状況だったのかは知らないけれど、きっとそうしてくれる筈。
精霊、魔族、獣人族にとって“王”は絶対の存在だから、そこら辺は安心していいかな。
「勇者達も、君達にはなにも言わなかったのか。彼奴等の性格考えたら、言葉にはしない、というかできなかったんだろうね。全く、本当なにを言ったんだか………」
「本人に直接聞けば分かるさ」
「そうね。その時は覚悟してもらわなくてはね」
テトとリトが獰猛な雰囲気を隠しもせずに言った。
本当にねぇ…………もういない“英雄”を巻き込まないでほしいね。
「そういえば、その人間と関係があるかは分からないが」
唐突になにかを思い出したように、テトが首を傾げながら瑠華を見つめた。
おいおい、そんな可愛い仕種しないでくれよ。抱き付きたくなるだろ?
「主が埋葬されて直ぐに、墓荒らしが現れたんだ」
「墓荒らし?」
「そうね。そんなこともあったわね」
リトが同意するように頷いている。マリアとムツキも思い出したのか、怒りを訴えるように鳴いていた。
「墓荒らしって、フィンランディの領地の墓に?」
「ええ、そうよ。墓荒らしの狙いは、明らかに主が眠る墓だったわ。二回共ね」
「えっ、二回も現れたの⁉しかも僕限定⁉」
ええぇ……本当になんなの?僕、なにかしました?
というか今気付いたのだけれど、凄く自然に自分が埋葬されたとか話をしてるけど、この状況おかしくね?
「まぁ、今更だから気にしないけど…………」
「なあに?」
口に出してしまっていたらしく、マリアが首を伸ばして瑠華の顔を覗き込む。その仕種に口元を緩ませて、首を振りつつ瑠華は左手でマリアの体を撫でる。
「明らかに主を狙っていたな。墓荒らしどもがはっきり言っていた」
「ええ、だから主に触れる前に殺してやったわ」
「当然よね。主の静かな眠りを妨げようとするんだもの、死をもって購ってもらったわ」
従魔達の言葉に、複雑な気持ちを抱き苦笑してしまう。
従魔達の忠誠心や怒り、そして愛情は心から嬉しい。瑠華も彼等と同じくらい、彼等のことが大切で大事だから。
だからこそ、自分のせいで彼等が血に汚れるのが嫌になってしまうことがある。
けれどこの感情は、本当に自分勝手なものだから、彼等には絶対に言えないこと。
まぁ、バレていそうだけどね。
「ちなみに、そのこと父様には?」
「墓地の管理をしていた墓守には伝えたから、知っていると思うぞ?」
「そう。これもトリロ伯爵につながっているのかなぁ」
さもありなん、か。判断材料に欠けるから、どうしても推測の域を出ないな。
「でももし、その墓荒らし達とトリロ伯爵を繋げるとしたら、トリロ伯爵は死体愛好家の趣味でも持っているのかな?」
「「「は?」」」
「きゅ?」
従魔達が、間抜けな声を出して瑠華を見つめる。
大丈夫。そんなところも可愛くて好きだから。
「いや、ルッシャートの貴族なら有り得るでしょ?なにかの収集癖があるみたいだしね」
「まぁ、有り得なくはないだろうな」
嫌な話だが、死体は氷魔法を使えば半永久的に保存できるんだよね。本当に嫌な話だけど。
でも自分で言っておいてなんだけど、その対象が自分だと考えると凄く気分が悪い。鳥肌ものだよ。
「ふぅ、なにはともあれ伯爵に逢いに行かないと。シンのことは全て清算しなければならないからね。シンの為に」
「………随分シンのこと気に入ったみたいだな、珍しく」
「ここまで付き合えば興味は沸くし、人柄も分かるってもんでしょ?助けるって手を取ったことだしね…………………シンは可愛いと思うよ、見てると手を差し伸べたくなるくらいにはね」
全ては明日。
読んで頂いてありがとうございました。




