49 道中の出来事
食事の最中に朝の鐘が鳴ったので、街はそれなりに賑わい始めているだろう。人混みが煩わしくならない内に、サピセスの街を出た。
冒険者は本来、街から街に移動する場合は依頼を受けるのが常識である。
冒険者ギルドの依頼の中には荷物運び、商隊の護衛などがある。これ等の依頼は他の依頼に比べると高報酬、高ポイントなのが多いので、冒険者は率先して受けたがる。
しかし人や物を“守る”ということは言葉では簡単だが、実際はとても難しいことである。単純に考えて守るものが増えるわけだから、当然と言えば当然だろう。
それ故にギルド側はこれ等の依頼を、Dランク以上に定めている。更に初めて受ける者には、しっかりと説明と注意を促している。
けれどDランクに成り立ての者は、力に溺れている者、己の力を誇示する者が目立つ。世間一般的に見て、Dランクはある程度の力量があると見なされるからだ。所謂一人前ということだ。
だからDランクになると、調子に乗る者が多い。
ギルド側はこれを分かっているので、依頼についての危険性や重要性をしっかりと説明をして注意をするのだが、ちゃんと聞き理解する者は一握りだろう。
鼻高々になってしまった者は、一度鼻を折らないと理解しないのだから。
その場が人や物を“守る”場だった場合は、ギルド側も依頼者側もたまったものではないけれど。
話は逸れたが瑠華もDランクになったので、荷物運びや護衛などの依頼を受けられるようになっている。
しかし昨日の様子を考えるに、冒険者ギルドに行ったら即行でギルドマスターが来るか、奥の部屋に呼ばれるかの可能性が高い。
サピセスの冒険者ギルドには、行かない方が無難だろう。
【カイン】であった時も余程の事情でもない限り、それ等の依頼は受けなかった。ギルドや依頼人に直接指名されることがあっても、めんどくせ………………えへん、自分では力不足だ、と言って断っていた。
という訳で、冒険者ギルドには寄らずに街を出た。次に先ず目指すは、二つの国の国境になっている砦。そこを抜けるとルッシャート王国になる。
瑠華のフードの中にいるマリアとムツキが、左右の肩に顔を出してまったりしている。瑠華は眼鏡とフードを直しつつ、影から出てきたテトに跨がり駆け出した。
ヴァルザ火山のダンジョンを消滅させてから一日も経っていないから、まだ周りから感じる魔物の気配は多く、そして強い。
けれど徐々に、時間とともに落ち着くだろう。
ちなみにヤカサルの村を出て帰ってくるまでに、四日程経っていた。ほぼ一日のズレがあったことになる。
やはり、集中し過ぎると時間を忘れる癖は治した方がいいかな?シンには悪いことをしてしまった。
街道の魔物を避けながら砦を目指して駆け続けていると、遠くに小さな砦が見えてきた。国境の砦としては些か頼り無いものに思える。
砦の城壁の上に居た兵士が瑠華とテトに気付き、慌てて近くの兵士になにか言っているのが見える。
「主よ、このまま行ってよいか?」
「いいよ。どちらにせよルッシャート王国に行くには、兵士が居る場所を通らなくてはいけないんだから。面倒くさいが仕方ないよね」
ヴァルザ火山には、もう行きたくないしね。
「歩くという選択肢は……………」
「ないね」
「………」
ないったらないよ。
兵士が居並ぶ扉の前に来て、テトから降りる。兵士の中から一人、前に出てきたので、瑠華もテトを伴い歩を進めた。兵士は胸に、トシュッゲル王国軍の隊長を示す飾りをつけていた。
「冒険者か?身分証を見せてくれ」
ローブの中から出す振りをして、アイテムボックスからギルドカードを取り出して兵士に渡す。兵士は確認するとすぐに返し、テトを見つめた。
「立派な魔物だな。君の従魔か?」
「ええ、自慢の子なんです」
「そうか。では、問題はないので通って構わないぞ」
何事もなく砦を通ることが出来た。
砦を出てからまたテトに跨がり、サランヴィーネの港街がある右方面に向けて駆け出す。港街はここから二日程だから、テトならゆっくり駆けても今日の夜には着くだろう。
いつもより、比較的ゆっくりと風と景色を楽しみながら進んでいくと、前方に複数の気配を感じた。
「主、人間と魔物の気配だ」
「ふむ、魔物に襲われているのかもしれないね。このまま行くと遭遇するよね?」
「確実に。どうする?避けるか?」
「う~ん、このままでいいよ。避けるのも馬鹿らしいし」
「あい、分かった」
速度を緩めず進めば、街道のど真ん中に横転した馬車とその周りに冒険者数人、更にそれを囲んで円を描くように陣取った猪種が数十頭見えた。
明らかに冒険者側の方が劣勢で、既に何人か倒れている。あれでは、全員が殺されるのは時間の問題だろう。
「テト、止まって」
テトが止まり、瑠華を窺うように首を巡らす。
さて、この場合どうするか。
他の冒険者達の戦いには、手を出さないのが規則。助けを求められたら助ける、しかないだろう、この場合。このまま行けば求められそうなことだし。
けれど、状況が悪い。魔物があんな風に広範囲に広がられると、守るのも難しい。
馬車が死角になり、見えない部分もある。気配で位置は正確に把握してはいるが、剣では一気にとはいかない。守る対象がいるのに、一頭ずつ相手をするのは愚直すぎる選択だ。
さてどうしたものか、と瑠華が考えを回らせていたその時、馬車の前で冒険者に守られるように、父親とみられる男性と抱き合って震えていた少女が瑠華に気付いた。
―――たすけて
声には出ず、しかし唇は確かにその言葉に動いた。
瑠華は少女に頷き、敵の位置を改めて確認する。敵はまだ瑠華達には気付いていない。
瑠華は目を閉じ魔力を練る。
『紫電の光、空から降り注ぎ全てを貫き焼き尽くす。それは神の怒りか。人はその光に己の罪を見る。天より落ちよ、インディグネイション』
凄まじい光と音と共に、空から紫色に光輝く雷が落ちる。
『インディグネイション』は雷属性の上級魔法である。広範囲に広がる多勢の対象に向かって、数多の雷を無差別に放つ魔法だ。数撃ちゃ当たるよ魔法ともいう。
しかし完璧で精密な魔力制御で、狙った対象にのみ当てる事が可能な魔法でもある。
瑠華は円を描く猪種の見えている奴だけを対象にして撃った。紫電の雷は狙った魔物全てに当たり、敵は真っ黒焦げの消し炭になった。
瑠華がやったことは、雷属性の下級魔法『サンダー』でも同じことが出来なくはない。
ただ若干ではあるが『サンダー』で十数本出すよりも『インディグネイション』の方が使う魔力が低く、魔力制御が楽で威力も高いので瑠華はこちらを選んだ。
突然目の前に落ちた雷に驚いた冒険者達は、辺りを見回して瑠華達に気付いた。
瑠華から見て馬車の死角にいた魔物達は雷に驚き、消し炭になった仲間を見て逃げ出した。
「いきなり魔法を放ったのは悪いと思うけれど、まだ魔物がいるのに意識から外すなんて素人だね」
「まぁ、その通りだが、主が言ったら可哀想だぞ。やった張本人なのだから」
テトの言葉に、瑠華は肩を竦めると、テトに声を掛けて跨がったまま、ゆっくりと馬車の方に向かった。
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