48 次の目的地は
颯爽とだが足早に急いでギルドを出て、戸を閉めてから一つ小さく息を吐く。取り敢えず今日の宿を求めて、宿屋が多い通りへと歩き出した。
以前泊まった、客を金づる呼ばわりする親子の宿屋は出来れば避けたい。どんなに宿として“当たり”だとしても避けたい。
だが何軒かギルドの近くの宿屋に立ち寄り聞いてみても、どこも満室でなかなか見つからない。
あの宿屋なら空いているかもしれない。あの親子だしちょっとした高級宿だし、と偏見を混ぜて考えた末、最後に目に入った宿屋に聞いて空いていなかったら行こう、と瑠華は諦めることにした。
けれど運は瑠華に味方した。その宿に、一部屋だけ空きがあったからだ。
やっぱり毎日の祈りのお陰だね!
若干“小さい”感が否めなかったが、そこは華麗にスルーしておく。
入った宿屋は少し古い感じの見た目だが、中は綺麗だった。入り口の直ぐ前に受付があり、おっとりとした雰囲気の優しそうな女性が立っていた。
「いらっしゃいませ、お泊まりでよろしいですか?」
「はい、一泊の朝食付きでお願いします」
「では銀貨一枚と銅貨三枚になります」
瑠華は腰の鞄から出すふりをしてアイテムボックスからお金を取り出し、受付の女性に渡す。彼女の案内で部屋まで行き、鍵を貰って中に入った。部屋の中も清潔で雰囲気もいい。
部屋の鍵を掛けると、いつも通りフードから出たマリアとムツキが、ベッドに飛び乗り寝そべった。二頭が出たので、瑠華はフードを頭の後ろにずらしローブを脱いだ。
「ふぅ、この街では失敗ばかりだね」
窓際の椅子に座り、影から出て床にお座りしたテトに愚痴ってしまう。それほどに、この街での全てが失敗に終わっている。
「ランクのことか?」
「それもだけど、戻ってこなくちゃいけなかったことも」
「確かに、魔物の売却はサランヴィーネの方が良かったとは思うな。仕方なかったとはいえ」
Xランクの依頼、ヒカエルの鱗を一枚。
ヒカエルの生息域で、大量の普通サイズの鱗とデカガエルの鱗を一枚手に入れている。だから普通サイズの鱗を五枚納品した。流石にデカガエルの鱗は出すことはできなかったが。
FランクからEランク、EランクからDランクに上がるポイントを考えると、それでもDランクにはならないと思ったんだけど。
「う~ん………」
「うん?どうした?」
「ヒカエルの異常種のこと、ギルドに報告しなかったからさ」
「ああ、あの冒険者達がしているのではないか?」
確かにね。稀少種と異常種を見つけた場合、ギルドに報告する義務が冒険者にはある。だから、デカガエルのことは報告しなければいけなかったのだけれど。あの冒険者達がいるし、いいかなって思ってしまった。色々聞かれるのも面倒だなっていう理由が、本音だったりしちゃうんだけど。
あの冒険者達が、報告していないってことはないだろう。ないってことにしておこう。
お座りしているテトの頭を、座ったまま身を乗り出して撫でる。
「付き合わせて悪かったね」
「なにを今更。それにこんなことは謝られるようなことじゃないさ。我等は主と一緒なら何処にいても、なにをしていても楽しいのだから」
「そうね。私達の為に謝らないでほしいわ!」
「きゅうきゅう!」
テト、マリアの言葉と同意するようなムツキの鳴き声に嬉しくなり、心からの笑みが浮かぶ。
「ただし文句は言わせてもらう」
「それも当然ね!」
あ、それは言うのね。
「甘んじて聞かせて頂きます」
従魔達がいなければ、旅がこんなにも楽しいものだと気づけなかっただろうからね。
「さて、ここを出た後は、真っ直ぐサランヴィーネの港街に行くのか?」
「そのつもりだよ。サピセスから見ると右側になるから、手前の国境を抜けないと。サランヴィーネでリトと合流できるね」
ヴァルザ火山から出たなら、合流はコッシュトーの街の方がいいけれど、サピセスの街からだとサランヴィーネの港街の方が手前になるからね。
「時間を考えると、シン達はコッシュトーの街で一夜を明かしている頃だろうね」
「なんだ、気になるのか?」
「………かも、ね」
自分でも不思議だけれど、シンの事が頭の片隅に引っ掛かっている。一度だけ見た、シンのあの歪んだ顔がちらついている。どうやら自分でも気付かない内に、関心を持っていたということだろう。
「まぁ、今更言っても遅いけどね。次に逢うことがあったとしても、当分先になるだろうしね」
「分からないぞ?案外、サランヴィーネでリトと一緒に待ってるかもしれないな」
それは旗を立ててるの?
「そんなことになっていないといいけどね。さて、今日はもう寝るよ」
「ああ」
装備品やらの服を脱いで『清潔』の魔法をかけてから畳み、寝間着用の簡素なシャツとズボンに着替える。
そこでふと、あることに気付いた。
「そういえば、夕食を食べていないね。僕はいらないけれど、マリア達はどうするの?」
「主が食べないならいらない」
「きゅぅぅ」
「我もいい」
マリアとムツキがベッドに寝そべったまま答え、テトもベッドの足元に丸くなりながら答えた。
いつもは食欲旺盛なのに、僕が食べないと食べないんだよね。僕のことは気にしなくていいのに。
寝る準備を整えてベッドに入る。眼鏡を外してテーブルに置き、夜の祈りを捧げてから横になり、寄り添いながら眠るマリア達を撫でた。
「おやすみ」
ふにっ。
柔らかく右目が押される感覚に目が覚めた。痛くはないが気にはなる。左目を開けて見てみると、マリアの足が右目に当たっていた。
どういう寝相をしているんだ、君は?
もしや昨日夕食を食べなかった腹いせか?、などとマリアの足をぺいっと退かしながら心の中で突っ込み、上半身を起こす。
ゆっくり深呼吸をしながら朝の祈りを捧げてから、ベッドを出て洗面所に向かい、顔を洗ってさっぱりしてからテトに声をかけた。
「おはよう、テト。鍛練に行ってくるから二人をよろしくね」
「ああ」
目を閉じたまま返事をしたテトを撫で、部屋を出る。裏にちょっと狭いけど開けた場所があったので、そこでいつもの鍛練を行った。
鍛練でいい汗をかいたので布で拭いてから部屋に戻ると、テトがベッドに乗って大きく寝そべり、その体の上にマリアとムツキがぐでっと寝そべっていた。
なんだ⁉あの幸せ空間は⁉
飛び付きたい衝動にかられ、ゆっくり近付いていったら、察したのか、可愛い従魔さん達は顔を上げ体を起こした。ちっ‼
仕方なしに洗面所に行ってもう一度顔を洗ってさっぱりして、服を着替えて装備品を身に着けた。
「おっと、そうだ…………ステータスオープン」
ヴァルザ火山でダンジョンの“核”を破壊した時、身体に変化があったのを思い出したので、確認してみることにした。あの感覚は、レベルが上がった時のものだ。
それと恐らく、冒険者になったのだから職業辺りも変化しているだろう。
「ふむ、やはり、ステータスが変わっている」
具体的にはレベル、職業、称号に変化があった。
レベル 301
職業 普通冒険者(微笑)
称号 『ダンジョン破壊者』‥‥ダンジョンを消滅させた者に贈られる称号 能力 空間魔法取得 空間魔法能力向上特大
いよっしゃあああ‼職業の部分が(微笑)になった‼やった‼見たか、セラ‼
といけない、いけない。冷静に、ね。
レベルが300の大台になってしまった。
この世界のレベルには、上限はないらしい。レベルは日常生活の些細なことから、修行をしたり魔物を倒すなりすると上がっていく。
一般人なら10前後。騎士や冒険者なら大体50前後が普通となる。A、Sランク以上になると100を越えるけれど、ここまでくる者は極端に数を減らす。レベルが200を越える者など、一握りしかいない。
それを踏まえると、瑠華のレベル300台がどれだけ異常なのか分かるというもの。
職業が普通冒険者になっている。冒険者ギルドに登録したし、Dランクにも上がったからね。(微笑)は凄く嬉しい!いや、普通はこんな表示自体がないからおかしいんだけど、まぁ、(嘲笑)よりはねぇ………。
称号の『ダンジョン破壊者』はそのままか。能力の空間魔法取得ってもう持ってるしね。でも能力向上特大は役に立つだろう、きっと。
ダンジョンで空間魔法を使うと便利だって、書物で読んだことがあるのをすっかり忘れていたよ。
以前は魔法は使えないのが当たり前だったから、“扱う”ということにまだ慣れないな。
「なにかあったのか?」
「うん、やっぱりステータスが変わっていたよ」
「それは良かったな」
本当に良かった。特に職業がね。
でも次にセラに逢う時には、一言言わせてもらおう。
枕元に置かれていた眼鏡を掛けて、ベッドにお座りしている従魔達の横に座る。
「さて、では朝食を食べてから出発しよう」
いい気分のまま出発したいね、ほんと。
読んで頂いてありがとうございました。




