50 護衛依頼
このまま素通りしてもいいだろうか?
結果的に魔物に襲われていた人達を助けた形になったわけだけれど、僕が放った魔法で魔物達は消し炭になってしまって、素材すら残っていない。
報酬を貰ってもいい結果ではあるけれど、僕は進む道のりに存在していた障害物を排除しただけだから。
少女に助けて、と言われたといっても、直接言われた訳ではないし、僕の勘違いかもしれない。
だからこのまま素通りしても、なんの問題もない。
なにが言いたいかって?
今のこの状況に対する逃げ道かな………。
今現在、瑠華はとても面倒くさい状況に陥っていた。
馬車を囲んでいた全ての魔物が、消し炭になったり逃げたりしていなくなったので、瑠華はテトの背に乗ったまま馬車に近付いて行った。
別に報酬を貰うつもりはなかった(あわよくば魔物が猪種だったから肉でも貰おうかと思ってはいた)が、後十メル程の所でその気持ちは霧散した。
少女の父親は放心していたが、瑠華に気付くと勢いよく顔を向けてその顔つきを変えた。
目が爛々と輝いている。
なんというか、数日間なにも食べずにいた状況で、目の前に極上の肉が現れたような、そんな目だった。
誰だって嫌な予感がして、回れ右したくなるというものだろう。思わず、馬車を避けて行こう、と言おうと視線をテトに向けた。
だがそれを逸速く察した少女の父親は、がばりっと立ち上がり、瑠華達に近付いて通せんぼするように前に仁王立ちになって頭を下げて、また勢いよく上げた。
「冒険者殿!助けて頂きありがとうございました‼」
「………………いや」
「つきましては、なにかお礼をしたいと思います‼」
「……………気にしな「なので是非とも‼わたくし達と共にコッシュトーの街へ行きましょう‼」
なんか言葉がおかしくないか?
「……………僕達はサランヴィーネの港街に行くから、コッシュトーの街には行かないんですよ。悪いんだ「是非!是非ともわたくし達にお礼をさせて頂きたく‼」
「……………」
誰か助けてくんない?
「だからコッシュトーへは行かないと…………」
「お願いします‼コッシュトーの街へ‼わたくし達と一緒に‼」
「うわっ」
少女の父親は、いきなり瑠華の足にしがみついた。未だテトに乗ったままの瑠華の足に。
「ちょっ、離して……」
「いいえ!離しません!どうかわたくし達を守って下され!冒険者殿‼」
話が変わってる⁉
「だから、コッシュトーには行かないと」
「ならば行くと言って頂けるまで離しません!」
自分勝手だな‼流石にドン引きだよ⁉
流石商人‼
「………どうするのだ、主よ?無視して行くか?」
「おお‼こちらの魔物殿は話すのですか⁉これはなんとしても逃してなるものか‼」
心の声が漏れてますよっ⁉
「はあ……もういい。疲れた。話は聞いてやるから離して。テト、魔物の警戒よろしくね」
「ああ」
「離した途端に逃げませんか?」
「そんなことはしない」
取り敢えずテトから降りて、少女の父親と向き合う。
馬車の方では、残っていた冒険者達が傷の手当てをしたり、死んだ仲間の後処理(装備を外して火の魔法で遺体を焼く)をしたり、少女が散乱した荷物を片付けていた。
「娘を手伝ってあげた方がいいんじゃないの?」
「……………逃げないで下さいね?」
瑠華に念を押し、父親は娘に向かって走って行った。その後ろ姿を少し離れた位置から、瑠華はテトと共に見ていた。
「コッシュトーの街に行くのか?」
「リトと合流する為と思えば」
「無理矢理な納得だな」
テトの言葉にため息が出てしまった。
それから少しして、父親は少女を連れて戻ってきた。
「先程は本当にありがとうございました。お陰で助かりました」
少女の言葉に、二人が頭を下げる。
「気にするな。偶々通りかかっただけだ。で?僕にどうしてほしいと?」
先程のやり取りで、敬語で話す礼儀は失せた。若干ぞんざいな口調だが構わないだろう。
「改めまして、わたくしの名はソロウ、こちらは娘のスフィールです。わたくし達はサランヴィーネの港街で商業を営んでる者でして、今コッシュトーの街に商品を届けに行くところなのです」
「サランヴィーネからコッシュトーに行くにしては、道が外れていないか?」
「冒険者殿はご存じないのですか?サランヴィーネからコッシュトーに行く街道に強力な魔物が現れ、通る者達を襲っているのです。ですからコッシュトーの街へ行くには、こうして大回りしなければなりません」
成る程ね。
「というわけですので、冒険者殿、是非ともわたくし達を護衛していただけませんか?」
「護衛ならいるだろう?確かに数は減ってしまったようだが」
「あれ等では頼りになりません。現に冒険者殿が来てくれなければ、わたくし達はこの場で死んでいたでしょう。ですからお願いしているのです‼」
近い近い!顔を近付けるな!
はぁ、本当に面倒だな。“あれ等”呼ばわりされた護衛達がこちらを睨んでいるし、ここでぐだぐだやっていたらそれこそ時間の無駄だ。
コッシュトーの街まで、リトを迎えに行こう。
「いいだろう。コッシュトーの街まで護衛をしよう。報酬は金貨二枚で引き受ける。異論がなければさっさと出発したい」
「は?い、いえ、異論はありませんが、本当にそんな少なくてよろしいのですか?」
「街までの距離と、僕のランクを考えればそれくらいだろう」
ここからコッシュトーの街まで二日と少しだし、通常のDランクの護衛依頼ならこれくらいが妥当な金額だろう。
「失礼ですが、冒険者殿のランクは………」
「僕はDランクだ」
僕のランクがDだと聞いて、父娘が驚いた顔をしていた。雷の広範囲魔法を使い、明らかに高位の話す魔物を従魔にしていて、Dランクはあり得ない、と顔に出ている。
そんな父娘を気にせず、瑠華はテトに声を掛ける。
「ではテト、そういうわけだからコッシュトーの街に行くよ」
「やれやれ…………」
テトが呆れながらため息を吐いている。瑠華も苦笑を禁じ得なかった。ちらりと横を見ると、護衛達がずっと瑠華を睨み付けていた。
何事もなくコッシュトーの街まで辿り着けることを祈ろう……。
読んで頂いてありがとうございました。
短くてすみません………




