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47 別れの時

 熱い……すこぶる熱いよ………。



 今は〔穏やかな風〕のローブを着ていないので、肌を焼くような熱さがそのまま身体を襲った。流れる汗が気持ち悪くて仕方ない、と瑠華が嫌そうに一つ息を吐いた時、頭上に火の精霊の気配を感じた。


 『ダンジョンを消滅させたか』


 厳格な声が耳に響き上空を見上げると、ダンジョンの入り口があった場所の上辺りに、火の精霊が浮かんでいた。彼は感心するように、興味深いモノでも見るように瑠華達を見つめていたが、直ぐに興味を失ったかのように顔を逸らした。


 『取り敢えずは礼を言おう。助かった。だが此処は私の領域。人間が居て良い場所ではない。さっさと去れ、人間』


 火の精霊は、そんな言葉を残して消えていった。


 「ふむ、相変わらずつれないね。火の精霊様は」

 「火の精霊様がいらしたんですか?」

 「ああ、彼も“去れ”と言っていることだし、早くここを離れよう」


 瑠華達は火口から離れ、入ってきた道へと歩き出す。その途中、ルッシャート王国に出る分かれ道の前まで来ると、シンが立ち止まり瑠華を呼び止める。


 「あの、ルカさん……………」

 「ん?」


 瑠華は後ろにいるシンに向き直る。シンは真剣な表情で瑠華を見つめていた。


 「ルカさんは、ヤカサルの村に戻るんですよね?俺はルッシャートに行きますのでここでお別れなんですが、お借りしている服と魔法袋はどうしましょう?」

 「あれ?君はヤカサル………トシュッゲル王国の人間じゃないの?」


 てっきりヤカサルか、(ある)いはサピセスの街の住人かと思っていたんだけれど。


 「いえ、俺はルッシャート王国のマレッティの街の者です。事情があって、トシュッゲル王国の方に行っていたんです」


 マレッティの街、か。一度だけ行ったことがあるけれど、特になにかあったわけではないから、街の印象は薄いな。


 「そうか、ならここでお別れだね。でも一人だと不安だろうから、リトを護衛に付けるよ。服はマレッティの街に着いて着替えたら、魔法袋と一緒にリトに持たせてくれればいいよ。僕も一旦サピセスの街に行くけど、その後ルッシャート王国に行く予定だからね。このまま変わらずに、魔法袋の中身は使っていいよ。お金も入っているし」

 「その、本当にありがとうございます。最後までお世話をかけてしまってすみませんでした。またお逢いできることがあったら、その時はきちんとお礼をさせて下さい」

 「気にしなくていいよ。僕達も君に力を借りたし、なにより楽しかったからね」


 瑠華の言葉に同意するように従魔達が声を上げる。シンは嬉しそうに、はにかみながら笑った。


 「はい、炎晶石(えんしょうせき)。周りを覆っている氷は、火の魔法で簡単に溶かせるから」

 「はい、分かりました」


 アイテムボックスから氷に覆われたままの炎晶石を取り出し、適当な布に包んでシンに渡す。

 シンは両手で受け取り、落とさないように大事そうに抱えた。


 「では、俺はこれで。本当にありがとうございました」

 「ああ、こちらこそありがとう。リト、シンを頼んだよ」

 「ええ、任せなさい」


 最後に深くお辞儀をしたシンは、リトと共にルッシャート側の道を下っていった。


 「では、僕達も行くとしましょうか」

 「よく忘れてなかったな?」

 「ついさっき思い出したんだ」

 「そんなことだろうとは思ったよ」


 ……………なんか悔しい。



 行き止まりの道を下り、ヴァルザ火山に入る時に飛び越えた崖まで行き着く。そのまま問題なく崖を飛び越え、林に戻った。


 「そういえば、〔穏やかな風〕だけでも先に返してもらえばよかったかな」


 テトから〔万年雪の雫〕の首飾りを取りながら思い出す。一八階層でシンに渡したまま、すっかり忘れていた。


 「ああ、そういえば渡したままだったな。まぁ、すぐにリトと合流するだろうし別にいいじゃないか」


 それもそうだね、と一つ頷き、瑠華はテトに跨がり林を抜ける。ヤカサルの村は特に行く理由もないので素通りし、サピセスの街に向かう。街までは数時間程。太陽は傾きかけ始めたところだから、夕方の鐘が鳴って少し過ぎたくらいには着けるだろう。

 今日はサピセスの街で一泊になりそうだった。


 魔物を避けて駆け続けて、サピセスの街に着いた。街の門が近付き兵士の姿が見える位置でテトから降り、体を撫でながらお礼を言って影に入ってもらった。フードに入っているマリアとムツキの首には、アイテムボックスから取り出した〔従魔の首飾り〕をかけておく。

 瑠華も、被っているフードを目深に直しておく。


 空は薄暗くなっていて、遠目にも街には魔道具の灯りがそこかしこで光り始めていた。


 「通行証の提示をお願いいたします」


 門の前で、通行証代わりのギルドカードをアイテムボックスから取り出し兵士に見せる。久しぶりに感じるやり取りを済ませて、街に入り賑わう通りを歩く。



 先に冒険者ギルドに行こう。このくらいの時間なら、既に冒険者達は手続きを済ませ酒場に繰り出している頃だろう。



 門から街の中心に向かい、そこから左に反れて冒険者ギルドの前に辿り着く。戸を開け中に入ると、冒険者はそれなりにいたが、ほとんどが併設(へいせつ)されている酒場に居て酒を飲んで騒いでいた。

 三つある受付の中で比較的人が少ない列に並んだら、以前話をした人族の女性だった。


 「お帰りなさいませ、ご苦労様でしたってあら?」

 「こんばんは。以前受けた依頼の処理をお願いします」


 どうやら相手も、瑠華のことを覚えていたようだ。


 「分かりました。少々お待ちください」


 受付嬢に依頼の紙とギルドカードを渡すと、席を外し奥に行ってしまった。少しの間ぼけっと突っ立っていたら、受付嬢が帰ってきた。


 「はい、こちらが依頼の報奨金とお預かりした魔物の素材の売却金となります。これに伴い、ルカ様のランクはDランクになりましたのでギルドカードも変更しておきました」

 「……………え?」

 「はい?」


 うっそ!マジかよ…………Eになればいいな、と思って有り余っている魔物を売却したけど、多く出しすぎたか。

 一気にランクを上げると、ギルドに目をつけられて余計な厄介事に巻き込まれる可能性が高くなる。

 まぁ、いいか。明日早朝に街を出るから。


 「なにかありましたか?」

 「いえ、なにも」

 「そうですか…………ところでXランクの依頼についてですが」

 「では、僕はこれで」


 不穏な空気を感じたので、受付嬢の話をぶった切り、ギルドカードとじゃらじゃら鳴るお金が入った袋を掴み踵を返す。後ろから名を呼ぶ声が聞こえたが、気付かぬふりをしてギルドを出た。



 やれやれ、またテトから小言を言われそうだな。







読んで頂いてありがとうございました。

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