46 炎獄のダンジョン その十
今回は短いです。
「ふんむ、まさかこんなことになるなんてね。流石に予想外かな」
ずっとダンジョンの中にいるので、時間の、一日の感覚というものが無くなってきている。瑠華達の感覚だとダンジョンに入って三日経った感じだけれど、はてさて外の世界とはどれ程のズレが生じているのか。
いや、時計は持っている。ただ、昼か夜かが分からない。時計では、昼夜の区別はつかないからねぇ。てへん。
なんていうことを、目覚めた時に瑠華は思った。まぁ、時間が分かればいいんだけど、と直ぐにそんな開き直った考えに至ったが。
時計を頼りに約六時間程睡眠をしっかり取り、寝惚けることなく目を覚ました。瑠華の顔の前でマリアが丸くなっており(お陰で視界が真っ黒だった)、首の上にはだらんとムツキが体を預けている(なんというか凝りそうな寝方だった)。
すっごいくすぐったい………だけど寝ている時は気にならないんだから、不思議である。
「おはよう、マリア、ムツキ」
小さく挨拶をすると、まだ夢の中の住人のようで、返事なのか寝言なのか分からない鳴き声が返ってきた。
そんな二頭を起こさないようにそっと退かし、上半身を起こして大きく伸びをしてから、朝の祈りを捧げる。そうしてベッドから降りて、アイテムボックスから布と水の魔石を取り出して、布を濡らし顔を拭いてさっぱりする。
濡れた布を風の魔石を使って乾かしてから、寝間着にしている簡素なシャツとズボンのまま、マジックテントの外に出る。
「おはよう、テト、リト」
「「おはよう、主」」
布をテトに預けて、アイテムボックスから《宵闇》と《蒼穹》を取り出し、構えを取り鍛練を開始する。
十階層の時のように途中で止めることもなく、しっかり納得がいくまで出来た。相変わらず汗は尋常じゃないくらい出ているが、この熱さにも大分慣れたということだろう。慣れても熱いものは熱いが。
鍛練を終え、テトに預けていた布で汗を拭きつつ水分補給をし、身体を落ち着かせる。
マジックテントの中に戻ると、シンが起きていて既に準備は粗方済んでいる様子だった。
「おはようございます、ルカさん」
「おはよう、シン」
目を覚ましていたマリアとムツキも加わって皆で食事をしてから、瑠華もいつも通りの装備を身に着け準備を済ます。
「よし、皆行くよ」
マジックテントをしまってから全員を見回して声を掛けると、瑠華の言葉に全員が元気よく答えた。
ボス部屋の出口の扉に手をかけ、ゆっくりと押して開く。その先には下に続く階段がある、はずだった。
けれど扉の先にはまた部屋があり、しかも部屋の中央には紅色に輝く大きな結晶体が浮かんでいた。
「………………あら?」
予想外の光景に、瑠華は気の抜けた声を出す。瑠華の後ろから部屋の中を覗き込んだテト達も驚いていた。
「……あれが、ダンジョンの“核”ですか?」
「ああ、そうだよ……でもまさか、三十階層で終わりなんて。SでもAでも、階層は五十から百はあるのが普通なのだけれど。しかも、ボス部屋の直ぐ隣とか………ちょっとびっくりだな」
「確かに」
会話をしながら、全員で“核”に近付いていく。部屋に入る前に一応気配を探ってみたけれど、魔物の気配も罠らしきものも見当たらなかった。
「でも、これを破壊すればダンジョンは消える」
「あの、大丈夫でしょうか?ここにいる俺達は。ダンジョンと一緒に消える、なんてことは…………」
「いや、大丈夫、なはず。僕もダンジョンを破壊するのはこれが初めてだから、ちょっぴり自信はないけれど。でもダンジョンが消える時に入り口があった場所に戻るって、書物で読んだことあるから大丈夫だと思うんだよねぇ」
「………本当に大丈夫なのか?」
テトのその問いには、多分、と心の中で答えておく。
だって仕方ないじゃない。ダンジョンを破壊するのは、本当に初めてなんだもの。
それにセラも特になにも言っていなかったから、問題もないだろうしね。
瑠華は腰に差していたミスリルの剣を引き抜き、“核”の前に立つ。
「じゃあ、いくよ?」
ミスリルの剣を左から横に一閃すると、“核”はパキィィン、と甲高い音を立てて呆気なく崩れ、後には塵一つ残らなかった。
その時、瑠華の身体に変化が起こった。
ん?この感覚は―――
変化の正体を確認する間もなく、部屋全体が光に満たされた。あまりの眩しさに腕で顔を庇いながら、少し後ろにいたシンの腕を掴み引き寄せる。
ダンジョン特有の、異空間を抜けるような気持ち悪い感覚を感じて直ぐ、肌が焼けるような熱さが全身を襲う。
腕を下ろすと、そこはヴァルザ火山の火口だった。周りを見れば、全員の姿を確認できた。
どうやら、無事に戻ってこれたようである。
その事実に、瑠華は一つだけ息を吐き安堵した。
読んで頂いてありがとうございました。
やっとダンジョンが終わりました。




